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17話

 冒険者には〝ランク〟というものが存在しており、ランクが高ければ高い程、難しく、しかし巨額の富を得られる依頼が舞い込んでくる。

 つまり冒険者にとって〝ランク〟とはその冒険者の人生におけるランクさえも表していると言える。まあ、冒険者とはハイリスクハイリターンな職業なので、一寸先は死ということもあるから一概には言えないが……


 ともあれ冒険者にとって〝ランク〟は非常に重要なのだ。

 そんな〝ランク〟は冒険者ギルドでは〝ランク7〟から〝ランク1〟まで一般的に(・・・・)設定されており、〝ランク1〟ともなれば英雄クラスで富も名声も思うがままというレベルだ。ちなみにアイリスも〝ランク1〟である。


 そんな〝ランク〟についてだが、基本的には当然の如く冒険者になるときは〝ランク7〟からである。

 しかし冒険者ギルドでは優秀な戦力を腐らせないために、最初から高ランクでスタートできるようにする制度が設けられていたりする。


 それが〝推薦制度〟であり、これは〝ランク2〟以上の冒険者が推薦することで、試験の結果次第では最高で〝ランク3〟から冒険者として生活できるようになるという制度である。

 まあもちろんいきなりそんな高ランクになるためにはそれ相応の実力を見せつけることが大事であり、〝ランク3〟ともなると戦闘での試験官の強さは尋常ならざるものになるということを意味しているので、甘く見ていると痛い目を見るが。


「ふ~ん、なるほど。それは頑張らないとな」


 という説明をアイリスから受けていたミツキは気を引き締めていた。

 先程は「試験で無双キタァ!」などと思っていたが、ミツキは戦闘に関してど素人であるのだから、そんな簡単にいくわけもないと思い直したのである。


「へえ、意外と冷静に私の忠告を受けるのね」

「ん? だって俺がアイリスを召喚した理由はこの世界の常識を教えてもらうことなんだから。そのあたりのことは素直に受け止めておくのが得策でしょ? 無駄にプライドを貫いたってなんの意味もないんだから、最初から最悪を想定している方がしっかりと強くなれる気がするよ。もちろん、勝つために模索するけどね。男なら勝てるように頑張りたいし」

「へえ……」


 実はアイリスは過去に異世界人を何人か見ているのだが、そのうちの幾人かは自身の力を過信してあっさりと死んでいったのだ。

 その傾向がミツキには感じられなかったので、素直に賞賛の気持ちが声に現れる。


「とりあえず準備運動するか」


 そんな素直な賞賛の視線を感じたミツキは何となく居心地が悪くなって、身体を動かし始めた。今二人がいる場所は闘技場と訓練場を合わせたような場所なので、身体を動かしてもまるで目立つような場所ではない。


 もっとも、スキルのせいかはたまた本来の体質のせいか、ミツキに視線を向けている人間は皆無なのだが。美人であるアイリスにはガンガン視線が集まっているのに、その近くにいる人間にはまるで視線がいかないというのはかなり異様な光景と言えるだろう。まあ誰もそのことに気がついていないのだけれど。


 誰の視線も集めていないことにテンリはなんとなく気がついているが、いつものことだと割り切って屈伸運動などを行いながら身体をほぐしていく。

 それから少しして、ミツキの身体が温まったころに、一人のものすごくいかつい身体をした、頭が神々しい大男が、ミツキ……ではなくアイリスの近づいてきた。

 そして、ミツキに気がつくことなアイリスにそのまま話しかける。


「ようアイリス。お前がまさか推薦制度を使うなんて珍しいこともあるもんだな」

「ふふっ、そうね。でも私からしてみれば、ギルドマスターであるあなたが推薦制度の試験官になることの方に驚いているのだけど? ねえ、モットー・ケオクレ?」

「ブフッ!?」


 多分自分の相手になるであろう人物なのだろうなぁと思いながら聞いていたところでビックリするような名前だったためにミツキは思わず吹き出してしまった。


「〝もっと毛をくれ〟って、ネタ過ぎるっ! やっアハっ、つ、ツボに入った、く、くくく」


 基本的にミツキが誰かを嘲笑することはないのだが、流石に今回のことは不意打ちだったのだろう。名前と見た目が合致しているため、思わず笑ってしまう。失礼にも程がある。

 幸いミツキの存在にモットーさんは気がついてないのか、アイリスと話を続けている。

 そして、ようやっとミツキが落ち着いてきたところでオットーが本題に入った。


「それで? お前さんが推薦した相手はどこだ?」

「え? あれ? どこに行ったのかしら?」

「ここですよ」

「「おわっ!?」」


 やはり気がついていなかったモットーと、すぐそばにいたはずなのに見失ってしまったアイリスにミツキが至近距離から声をかけると、それだけで驚かれてしまった。


「お、お前、一体どこから」

「先ほどから近くにいましたが」

「なっ!? そ、そうか、それは気づかずにいてすまなかったな」

「いえ、慣れてますので。俺はミツキと言います。よろしくお願いします」

「お、おう、本当に気がつかなかった……」

「私も気がつかないなんて、流石ね……」


 二人そろってミツキの影の薄さに戦慄しているが、当の本人たる何となく複雑な気分だ。ミツキがあまり嬉しくないとばかりに渋面する。


「ハハハッ! これは思ったのとは違う意味で期待できそうだ! じゃあミツキ! 早速戦うぞ!」

「へ? あ、はい」


 そんなミツキを見ていたモットーが笑い声を上げながら楽しそうに闘技場のステージのような場所に行くのを慌ててミツキが追いかけるのだった。


 ──推薦制度による、ギルドマスターとの試験が始まる。

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