14話
「……アイリス」
「そうよ、よろしくね?」
「あ、うん、よろしく」
こうしてなんとなく押し切られる形でミツキは妖精アイリスと行動を共にすることになった。
ミツキとしては誘拐した側なので相手を束縛するつもりはなかったのだが、なぜか自分が束縛されるような形になっている気がして首を傾げる。
なんとなく納得いかないミツキをよそに、アイリスは楽しそうな顔で話し始めた。
「さて、まずはあなたのその格好を何とかしましょうか。そうね、どうせなら私が作った兵k……じゃなくて装備を着てもらうのがいいかもね。それに──」
「ちょ、ちょっと待った!」
「ん、何かな?」
なんだか勝手にいろいろと決められていっていることに気がついたミツキはアイリスを止める。
……途中何となく危ない発言をしていた気がしたミツキだったが、とりあえず無視することにした。
「えっと、先に言っておきたいんだけど、俺の目的はこの世界でいい感じに目立つことなんだよ。幸いにして力を手に入れたから、何かと戦う方面でビッグになろうかななんて考えているだ」
「うんいいんじゃないかしら。目標は大事よ。その目標だと手っ取り早いのは冒険者ね」
「あ、冒険者はあるんだ」
「ええそうよ。この冒険者の制度はかつてこの世界にやってきた異世界の勇者が伝えた制度で、結構いい制度よ。私もお世話になっているし」
「へえそうなんだ……じゃなくて、俺は目立つためにかなり大胆に行動したいなぁと思ってるんだよね」
何だかアイリスと話していると、どんどんと話がそれていくなぁとミツキはなにとはなしに精神的な疲れを感じながらも説明する。
「だから、出来ればこの容姿はそのままの方が目立てると思うんだ。昔の勇者がいるってことは黒髪黒目でしょ? ついでに言えばこの学校の制服だって十分に目立つことが可能な服装だ。だからこの格好のままで行きたいと思ってる」
「……なるほど、確かにそれもいい案と言えるかもしれないわね。でもハッキリ言ってこの世界でその服装じゃあ正直生きていけないと思うのだけど」
「え、そうなの?」
それはマズイとミツキは考える。
大抵のことは調和状態で認識不能の銃を打ち込めば何とかなるかもしれないが、自分のようなある意味バグに近い能力を持った存在だっているのだ。もしかしたら認識不能な弾丸を回避してくるバグキャラが敵キャラとして今後出てくる可能性は否定できない。
そう考えると、装備を変えるというのは手っ取り早い部分ではあるなとミツキも思う。
「ええ、まあ見たことがない服だったから私の実験に使おうと思ってたのだけど」
「怖いな!」
なんだか随分とひどいことを考えていたようである。というか、発言がどこかマッドサイエンティストを彷彿とさせるものばかりでミツキはなんだかとっても怖くなってきた。
「ホントなんで俺この人召喚しちゃんたんだろう……綺麗な花ほど棘があるとでも言うつもりなのかな?」
「ふぇ?」
なぜか顔を赤くしたアイリスを不思議に感じながら、この怪しくも美しい存在のことを何も知らなかったないではないかと思い、《大英雄》のクラスを獲得したことによって得た〝真実の眼〟をアイリスに向ける。本当は使うつもりはなかったが、アイリスにも勝手にステータスを覗かれたので仕返しだ。
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[ネーム]アイリス・フェアルリアレ(女:──歳)
[クラス]《魔法道具創造妖精姫》
[スキル]妖精の瞳・六元属性適正・幻惑・人化・極限之生産・アイテム詳細鑑定・魔改造
[タイトル]【妖精姫】【生産の求道者】【無自覚な傾国者】【到達者】
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「…………」
なんだかいろいろとやばかった。
「えっと、アイリスは妖精のお姫様?」
「わ、私がお花さんに例えられるなんて、う、うれし…………え?」
「いや、もうわかると思うけど〝真実の眼〟を俺が持ってたから、それでアイリスのステータスを見させてもらったんだ。それで、君がお姫様だとわかった」
嫌がるかなと思ったが、アイリスは特に気にすることなく話を進める。
「まあそうね。妖精……私たちはフェアリー族と言うのだけれど、フェアリー族は魔剣とか魔法のネックレスとかそういうものをよく作るのだけど、その技量はダントツトップだから私が姫なんじゃないかしら?」
「んん? 妖精王からアイリスが生まれたんじゃないの?」
「ん? だって妖精族は全員女性よ? それに妖精の女王様は私たちの母たる妖精神様だから、妖精族の最高権力者であり、最大の実力を持つ者が姫になるのよ」
かなり変わった種族だとミツキは思った。
「そ、そうなんだ。それでアイリスのクラスはどうなってるの? 明らかに異質だよねこれ、レベルもないし」
「え? ああ、これはこの世界の常識だけど、クラスというのはある一定ラインを超えるとその人独自のものに変化するのよ。これを《レベルゼロ》というのよ。なんでそういう風に言うのかはよくわかんないけど、まあそこはどうでもいいわね」
「へ、へえ」
つまり【到達者】のタイトルを得ることで《レベルゼロ》になれるのだろうとミツキは判断した。もう一つ非常に気になるタイトルがあったのだが、なんとなく聞いたら地雷になりそうなのでミツキはやめた。
「そんなことよりも、その服のままでいたいのよね。なら私がその服を人並みの防具に強化してあげるわ。ちょっと脱いでくれる?」
実にいい笑顔で妖精が近づいてくる。その妖精さんの手はワキワキと動いていた。変態の匂いがする。最初に感じた儚さなど微塵も感じず、むしろ妖しさと怪しさが前面に押し出されている。そこに愛らしさがあるのが唯一の救いか。
「え、ちょ、ま」
「問答無用!」
「いや、ちょっあ~~~~~──────!!」
こうしてミツキはお婿に行けなくなる……ことはなく、アイリスの力で強化された装備を持って、この世界での冒険を本格的に開始するのだった。




