13話
「だ、大丈夫ですか?」
「え、ええ、ごめんなさい。さすがに驚き過ぎて気絶してしまったわ」
「いや、いいんですけど、何に驚いたんですか?」
この魔王の玉座の間で二度目の気絶をかました妖精さんを起こしたミツキはなぜそんな反応を見せたのか
質問していた。
すると、妖精はすっと自分が持っていた眼鏡をはずしてミツキに見せながら言う。
「これは鑑定能力を持っている眼鏡なの。だからこれを通してあなたを見たら、トンデモナイステータスで、驚いてしまったのよ」
「す、すごいですね……」
そんな便利道具があるのかとミツキは素直に驚いていると、妖精はさらに続けた。
「それに、あなたが他の面々と一緒にいたくない理由もなんとなくわかったわ」
「え? な、なん──あっ」
一瞬なぜそんなことが分かるのかと不思議に感じたミツキだったが、すぐに慌てたような声を上げた。
しかし、そんなものはもう手遅れだ。
「あなたが困っているのは《魔人》でしょ?」
「は、はい……」
もうバレてしまっているのだから、ミツキも素直にうなずいた。
「あなたが戦闘中に何らかの呪いを体に受け続けたことが原因でしょうけど、この世界では《魔人》とついている存在は大抵警戒されるわね」
「やっぱりそうですか……」
「その顔だとある程度予想していたみたいね」
「ええまあ、自分がいた世界ではこの世界みたいな場所を題材にした物語なんかがあって、自分はそれを読んでたのでなんとなく理解してた感じです。まあ自分が読んでいた世界では空想上のものという扱いなんで、あてになるか分からなかったですけど」
「そう、ならやっぱり賢明な判断ね。《魔人》は基本的に精神が崩壊している狂人ばかりだから、この世界では討伐対象なのよ。そのまま出て行ったら速攻指名手配だったわね。むしろ会話が成立している方が不思議よ?」
「あの……」
「ん? 何かしら?」
それは良かったとミツキは内心ホッとながらも、違和感を感じて質問することにした。
「なんでそんなにあっさりと俺の言っていることを信じるんですか? ここまでの俺の発言ってすべてが荒唐無稽だったと思うんですけど」
「あ、そうよね」
ミツキの質問に妖精はうなずいた。
確かにここまでの会話で、妖精はミツキの言葉をすべて受け入れて会話していた。それも、鑑定能力のある眼鏡でミツキの素性を確かめる前からだ。これはハッキリ言って異常だろう。
「そうね、あなたからしてみればそれは結構異常な事よね」
「はい」
「まあ、あなたになら話してもいいわ。私のようなフェアリー種は触れている相手の心を読む能力を持っているのよ。と言っても嘘を言っているのかとか、ちょっと戸惑っているなとか、そう言ったことがうっすらとわかる程度だけどね。だからあなたが嘘をついていないってわかるのよ。ついでに、あなたが悪人でないこともね。普通なら《魔人》とこんな風に会話しないわ」
「そ、そうなんですか」
この言葉にミツキは納得する。そして《魔人》の扱いが大分ひどいことに若干落ち込んだ。
「まああなたの場合は〝隠蔽〟があるでしょうから、それで常識的なステータスにすることさえできれば〝真実の眼〟を持っている人間以外はごまかせるでしょう」
「そ、そうですか。実はこっちはそういうことを知りたくてあなたを強制的に召喚させていただいたんだですよ」
「そうだったの。まああなたの《異世界人》っていうクラスを見れば、確かに誰かこの世界の住人を味方につけるのは得策よね」
「はい、それで──」
「いいわよ」
「あ、あれ?」
できれば一緒に行動してほしいと伝えようとしたところで先手を打たれてミツキは戸惑う。
「あ、あの、軽過ぎじゃないですか?」
「そうかもね。でもミツキと一緒にいると面白そうだから。ついてこないでと言われてもついて行くわよ」
「は、はあ……」
面白そうというだけでそんなに簡単に決めてもいいものなのだろうかと思ったが、妖精というのは気まぐれだというのも地球の神話や物語の中でよく聞くので、納得した。
しかし妖精はミツキの態度から自分を信用していないとでも思ったのだろうか、こんなことを言った。
「信用できないなら契約でもする? あなたと一緒に行動させてもらう代わりに、私があなたに不利な行為をしないっていう感じで」
「え、いや、いいですよ!」
「そう? ならいいのだけど。あ、それと敬語はやめてくれると嬉しいわ。なんとなくそういうの嫌いなのよね」
「え、あ、はい……じゃなくて、うん」
「うんうん、それでいいわよ」
「…………」
なんだかお姉さんにみたいな対応をされていまいち納得のいかないミツキ。
ただ何となく勝てそうな気がしないので、とりあえずまだ聞いていないことを質問することにした。
「えっと、名前はなんていうの?」
「え? ああ言ってなかったわね」
今気がついたとばかりに驚きに顔を作った妖精は、すぐにその端正な顔立ちにうっすらと笑みを浮かべて言った。
「私の名前はアイリスよ。これでも大妖精をやっているの、よろしくね?」
そのどこか妖艶さを感じさせる微笑みに、ミツキはまた赤面させられるのだった。




