11話
ミツキは一度、魔王城の玉座の間に戻って来ていた。
周りにはミツキが狩ったモンスターたちの死体が多数存在して血なまぐさいが、それでもソウタたちが来ない場所と考えると一番適切なのがこの場所だったのだ。他の場所には罠などが存在するかもしれないという配慮もある。
この考えに至ったときにミツキはソウタたちのことを心配したが、あのチート集団のことだから大丈夫だろうという判断でその考えを打ち切った。
もとよりミツキがこれから別行動することにしたのだ。自分の命を守るので精一杯な状況に自らなった自分がどうこう言える立場ではない。
とはいえ、ミツキも考えなしに一人で行動するつもりは毛頭なかった。
「うーん、やっぱこれって魔王の能力だよな」
ミツキは1つの能力に注目していた。
その能力とは──〝万能召喚〟。
先に上げた〝魔力操作〟や〝暗殺術〟などは自分の行動からできているものだと理解していたが、この〝万能召喚〟と〝念動力〟だけはよくわからない能力だった。
今回ミツキは〝万能召喚〟に注目しているが、今後は〝念動力〟も確認して行く予定である。
そんな中でミツキがなぜ〝万能召喚〟に注目しているのかといえば──
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〝万能召喚〟(オリジナルスキル)
生命体、道具などなど任意のものを魔力を消費することによって召喚する能力。
条件を設定することで召喚できるものをある程度限定することが出来るが、条件が多くなるほど魔力消費量が増え、また召喚側の価値や強さ、距離などでも魔力消費量が変化する。
また生命体を召喚したとき、基本的には強制的に使役することが可能であるが、場合によっては交渉や契約を結ぶ必要がある。
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とこのように魔王ファウルハイトが使っていた召喚術と性質が似ているのだ。
さらにこれを使えばこの世界の案内役を手に入れることが出来るかもしれないし、それ以外にも武器や防具などを調達することも可能かもしれないのでかなり有能である。
「交渉とか契約の時とかも物関係なら召喚物を対価みたいな扱いが出来るかもしれないし。これを使ってみるのが一番だろうな」
自分で言葉にしながら、自分の考えをしっかりと明確にして行く。
ミツキとしてはこの召喚術にやや抵抗はあるが、これからのことを考えるならば絶対重要なことなので、このあたりの意思を明確にしたいのだ。
抵抗がある理由は最近の〝異世界召喚=誘拐〟という図式が出来上がっていることからも分かる通り、この召喚術というのはかなり一方的なものだからだ。
モンスターを召喚するのならまだ、しっかりと面倒を見てあげたりすることで責任を取ることは出来るかもしれないが、そのモンスターにだって家族がいるはずだから、どうしたって誘拐であることは否定できない。
(だからその点は自分で責任を取らなきゃな)
ミツキはそう決心して召喚術を使うための準備に入った。
「えーと、使い方は……」
ミツキは脳内に浮かんできた魔法陣を起動する。
この〝万能召喚〟は基軸となる魔法陣を起動して、そこから魔力を込めながら条件を設定して、それが完了したら召喚を行うというものだ。
「う、おっ!? これをあの魔王は一瞬でやってたのか。すごいな……」
魔法陣を起動した瞬間にミツキは魔力をごっそり持っていかれる感覚を覚えた。
クラスが増えて、そのレベルも高いミツキがごっそり魔力を消費したのだ、その魔力量たるや恐ろしいものがある。そして怠惰の魔王はこの召喚術を一度にたくさん使っていたのだからその実力は推して知るべしだ。
自分が目立つためという俗物的な感情で殺した相手の強さを今更ながらに感じながら、ミツキは仕方なし〝調和〟を起動して、先ほど銃弾を込める時とは違ってゆっくりと魔力を体内に吸収しながら条件を設定して行く。先ほどは急に大気中にある魔力が入ってきて意識を持っていかれそうになったので、その状態を軽減するための配慮だ。それでもそれなりに危険なので、ミツキはあまりやりたくないのだが、こればかりは仕方ないと諦める。
「えーと、条件はまず会話が出来ることと……」
他にもそれなりに近場にいることや理性的であること、この世界の知識を大量に蓄積していることにそれなりの強さを有していることと、あとは基本的に単独行動していること。そして最後は女性であることという実に欲望に忠実な条件設定だった。
これらを設定するたびに大量の魔力が魔法陣に流れていくが、ミツキは〝調和〟して先ほどの反省から対策もしているのでそこまで問題なく魔力を流し込むことに成功した。
「よしこれで……………ん?」
完了したかなと思ったところで、召喚が行われないことに気がついた。
「まさか……召喚するのにも魔力を込めるのか?」
どんだけ魔力を込める必要があるんだと思わず文句を言いたくなるような状況にちょっとイラッときたミツキは魔法陣に〝調和〟の力を使って込められるだけ込めることにした。八つ当たりだ。
そのせいで意識が危なくなってしまったが、自業自得である。
そして、そのように可能な限り大量な魔力を込めまくったミツキは召喚術を発動した。
魔法陣に込められた魔力の影響か、何も見えないほどの光が魔王の玉座の間を埋め尽くしていく。
「うおっ眩し!」
例え空間と〝調和〟していても光自体は眩しく感じるミツキは思わず手で顔を隠す。
この空間に現れた太陽かというような魔法陣の輝きが、だんだんと収まっていくのを確認したミツキはうっすらと目を開けると──
「こ、ここは?」
そこには何かちっこい人がいた。
ミツキは「なんだ?」と思ってちっこいのを見ていると、そのちっこいのはキョロキョロと辺りを見回した。
そして──
「え? まさか魔王城? え? え? あっ──」
気絶してしまった。
「えーと?」
自分の出来うる限りの力で召喚術を行って、その結果ちっこいのが出てきて、それがすぐに気絶。
ミツキはこの状況に戸惑うしかないのだった。




