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精霊の街   作者: きつねこ
9/13

第九話

挿絵(By みてみん)


日が傾き、空が赤く染まってきた。クレオは夕飯の準備を終え、一段落ついている。


「今日は何ー?兄ちゃん。」


「シチューだよ。寒くなってきたからね。」


「シチュー!」


ネモは嬉しそうにクレオの周りをくるくるまわる。


その反応が可愛くて、ついつい、いつもネモの好物ばかりを作ってしまう。


「じゃ、兄ちゃん、夕飯の前に、手合わせお願い。お腹すかせた方が美味しいもんね!」


「えぇ?」


ネモに背を叩かれて、クレオは渋々屋上へ向かった。


空は絵の具の赤をぶちまけたような真っ赤で、風はいつもより冷たい。


「なんか、気持ち悪い夕日だね。」


ネモは目を細くして夕日を見つめている。


二人が手合わせをしている間にそんな空も、鮮やかな紫、薄明かりの群青へと、変わっていった。


すっかり風は寒くなっていた。


動いた後の二人にはまだ心地よい程度だが、直に汗で体が冷めてしまうだろう。


「・・・もう中に入ろっか兄ちゃん。」


ネモが声をかけるが、クレオはそこから動かない。


「・・・ねぇ、ネモ・・・変な感じがしない?」


「・・・変な感じ?」


クレオはヒョイと高さが15mはある像に登り、精霊像の頭の上に立つ


そこからは遮るものはなく、街全体を見渡すことができた。


「怖っ!流石に僕でもそこまで身軽に動けないなぁ。」


「これでも戦の精霊なんでね。・・・戦う時は力がうまく使えないけど。」


クレオは苦笑いしながらそう言い、目を細くして、集中しながら周囲を見渡す。


しばらく後、トン、トンと像の上から飛び降りてきた。


「・・・なんだろう・・・肌が静電気みたいにピリピリするような感じ・・・ネモは大丈夫?」


「僕は何も感じないよ。乾燥肌じゃない?」


クレオはハハハ、と笑ったが、どうやら少し違うようだ。


「珍しいね・・・いや、初めてかな?兄ちゃんがそんなこと言い出すの。」


ネモも街を見渡すが、やはり何も感じない。


「やはりあれかな、ソコトラの兵士が、街の中にいるからかな?」


そう言いクレオは首をかしげる。


「確かに、他の国の兵隊さんがいるのはいい気がしないね。・・・でも、兄ちゃん。兵隊の人数は少なそうだったし、うちの治安維持隊はそこそこ強いから、問題は全然なさそうじゃない?」


セントポーリアは兵隊は持たないが、街を守るための隊員はかなり訓練していて、人数も多い。

“精霊が護る街”ではあるが、実際の所、ネモとクレオが四六時中守っているのではなく、大体のことは隊員の人達によって処理されている。


ネモが、クシュン、とくしゃみをしだしたので、二人は中に入ることにした。


※※※


「なにこれー!!」


夕飯前、ネモが怒った様子で風呂から出てきた。

いつもはパンツ一丁だが、今日はきちんとパジャマを着ている。

・・・が、そのパジャマが問題だった。


「いいね、よく似合うよ。ネモ。」


クレオはネモをみて、クククと笑う。


ネモは紺色のカボチャパンツに、胸元にリボンの着いたチュニックのパジャマを来ていた。

金色の髪とのコントラストが綺麗だが、ネモはリボンをむしり取りそうな勢いだ。

昨晩のこともあって、服を着ずに風呂から出てくることは出来なかったようだ。


「ちょっと来て、ネモ。」


グダグダ文句を言っているネモに手招きをして、クレオはネモの髪を梳かして乾かし始める。


「・・・別にいいよー。短いんだからほっといたらすぐ乾くし。」


「それだからいつもボサボサなんだよ。・・・綺麗な金髪なんだけどなぁ。」


ネモはいたたまれないようにウーウー声をあげている。


クレオは短い髪を器用に編み上げ、ゴムで止める。


「はい、出来た。こっち向いて。」


ネモはこちらを向くことなく、一目散に洗面所に行き、鏡を見て、奇声をあげた。


クレオは髪を戻して帰ってくると思っていたが、うつむきながら返ってきたネモの頭はそのままだった。


「解いてくると思ったのに。」


ネモは俯き膨れている。


「解いてやろうと思ったけど、凝りすぎてて触れなかったんだよ。なんなんだよこの女子力」


「縛ったり結うのは得意なんでね。」


「もういい!早くシチュー食べよ!」


そういって顔をあげたネモはどこからどう見ても女の子で、恥ずかしさからか、湯上りだからか、ほんのり頬が赤い。

すぐに後ろを向いてその場から離れようとする。


「ちょっとまって、よくみせてって!」


「やだ!絶対やだ!!」


掴まれた手を振り払うネモを、羽交い締めしてクレオが留まらせると、


「・・・っひぃ!!」


ネモは肩をビクッとして固まった。


後ろから抱きしめられ、背丈の小さいネモはすっぽりと中に収まってしまう。


(・・・何、僕、驚いてるんだろ、こんなの、ただのじゃれあいなのに。振り払うことなんて簡単なはずなのに・・・?)


クレオはそのまま椅子に座り、ネモを自分の脚の上に座らせる。


「ねぇ、見せて、ネモ」


耳のすぐ横からクレオの声がする


「やっ・・・やだよ」


顔をそむけると、その先にある窓ガラスがネモの目に入ってくる。

外が暗くなり、自分たちの姿が反射してみえる。

そこに映るのは長身の男性に後ろから抱きしめられている小さな女の子。


(この子は・・・・・・僕だ・・・)


そう思った途端、心臓が跳ね上がった。


「ねぇ、ネモってば。」


ぐいっと身体を後ろに向けられる。


(ち・・・力が入らない。)


ネモは顔を真っ赤にして、泣きそうな顔でクレオを見上げた。


「・・・なっ・・・なんて顔してんの・・・」


クレオはドキッとして手を離す。


ネモはクレオの脚の上で向かい合わせに座って、顔をクレオの胸にうずめる。


「・・・みっ・・・見ないでっ・・・」


クレオは手のやり場に困って、わたわたする。


「あ、あの?可愛いよ?ネモ、大丈夫だから。・・・そんなに嫌なら今解くから・・・」


サラサラとクレオの長い指が髪を解く。


「・・・ね?解いたから、ホントごめんネモ。・・・ほら、シチュー食べよ!シチュー!」


クレオはそそくさとシチューを準備しテーブルに置くと、ネモは無言でそれを食べ始めた。


ちらちらと様子を伺いながら、クレオもシチューを口に運ぶ。


「・・・ホントにごめんね、ネモ。」


ネモはうつむいて頭を横に振る。


「違う。クレオが謝ることじゃない。」


そういって、また黙々とシチューを食べ始める。


クレオが食べる手を止めて見ていると、ネモのシチューの器の中にポツリ、ポツリと水滴が落ちていった。


「・・・僕、今まで男として育てられてきたし、それでいいって思ってた・・・だけどさ・・・なんかさ・・・。」


腕で目を雑に拭って、ネモは顔を上げた。


「クレオが色々いうからちょっと考えちゃった。・・・やっぱり僕は男にはなりきれないんだって。女として扱われたら、ドキッとしちゃう。」


ハハハと力なく笑って、何もなかったように食事を始める。


「オレはどっちでもいいんだけどさ、ネモがもし女のコになりたいんだったらそれでいいと思うし、良ければオレが貰ってあげるよ?」


半分は冗談、もう半分は・・・


「貰ってやるってなんなんだよ。」


ネモは眉をしかめ、嫌な顔をする。


「前世も来世も一緒なんだから、今更貰うもやるもないよ。」


それを聞いて、クレオはニッコリ笑いネモを見る。


「性的な意味でなんだけど。」


「ぎぇっ!!」


ネモは急いで立ち上がってクレオを睨んだ。


「冗談だよ。」


クレオはクククと含み笑いをして、動揺するネモを見つめる。


「やっぱ僕は男になんて、なりきれなくていいや!ほんっと最低!」


ネモは席について、シチューをかっこんだ。


調子の戻ったネモを見て、クレオは席を立つ。


「・・・さてと、ネモ、オレはちょっと出かけてくるよ。」


「・・・え?何処に?」


「やっぱり気になってね、ちょっとソコトラ兵の偵察をしてくる。」


クレオは空いた皿を持って流しに置いた。


「僕も行く。」


「いや、遅くなるかもしれないし、ネモは休んでてよ。」


「・・・でも・・・。」


「外は冷えるから。」


「・・・」


ネモは自分の部屋からマフラーを出してきてクレオに投げつける。


「かしたげる。無理しちゃダメだからね。」


「わかってるよ。」


クレオはコートを着てマフラーを付ける。


玄関のドアを開けると、冷たい風が部屋の中に入ってくる。


「・・・あのね、ネモ、オレはね、ネモが、弟でも、姉さんでも、好きだよ。」

扉を締める直前、クレオが背中越しにポツリと言った。


ばたんと扉が締まり、リビングにネモは1人残される。


「・・・はいはい、わかってますよ。」


ネモはクレオの言葉に、静かに微笑んだ。

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