第八話
「どれにしよっかなー。」
交差点の角の小さなジェラート店には、色とりどりのジェラートがケースに並んでいる。
最近できた店のようだ。
「お腹こわさないでよ。ネモ。」
「僕より大きいサイズ頼んどいてなにをいう。」
二人は店の外に設置されている長椅子に腰掛けた。
交差点の先にはちらっと表通りが見える。
「こんなところにも警備の隊員が配置されてる・・・なんかあんのかな、今日。」
「ネモ、副隊長とかから聞いてないの?」
「僕にくる話は9割厄介事だよ。」
「あーー。」
なんて、二人で話しているうちにも、何組かお客が来ているようで、結構お店は繁盛しているようだった。
「ネモさん、それね、砂の小国ソコトラの王子様がくるかららしいよ。」
ソコトラとはセントポーリアより北にある砂漠付近の小さな国だ。
“国”といっても、この街の半分の大きさもない。
「あれ?クロじゃん。・・・んぶっ!?」
声に振り返ったネモの先に立っていたのは、ジェラートを2つもったクロと、その横で満面の笑みをしているカトレアだった。
驚いたネモはジェラートを噴出し、クレオはほとんど下に落としてしまった。
「え?どうしたんですか?2人とも・・・・・・えっ?怖い!怖い!!!!」
ネモとクレオが二人して睨みつけてくる。
その目線の先にはクロ・・・の後ろに立つカトレア。
クレオはもう、帰ってこないジェラートと、終わってしまった兄弟水入らずの楽しい時間と、
ネモとやたら仲の良いクロへの嫉妬心やらなんやらも含まれ、今にも殺しにかかりそうな顔をしている。
「・・・そんなに驚かなくていいじゃないですかー・・・あ、そっか、二人とも、この幽霊が見えるんですか?!」
クロの言葉に二人はハッとしたあと、再びカトレアを睨みつけた。
「・・・だってぇ、クロってば二人と違って優しいんだもん。私も、たまにはあんたたち意外と話したいわぁ。まぁ、クロには筆談だけど。」
などと嬉しそうに話すカトレアを横目に、クレオは無言で立ち上がり、落ちたジェラートを片付けて、店員に謝ったあと、みんなの元に無表情で戻ってきた。
「ネモ、司祭様には悪いけど、オレ昼からの予定キャンセルしてくるよ。」
「これは・・・尋問だね。」
ネモは目を閉じて頷く。
「えっ?何?クレオさん?クレオさーん・・・・・・あの、すぐ終わります?僕昼から塔の清掃が・・・」
「キャンセル」
「あ、ハイ」
クロはクレオに縄にかけられ引きづられるように塔へと向かっていた。
まるでクロは罪人だ。
チラチラ見える表通りにはソコトラの兵隊が見えた。
顔の下半分はベージュの布で隠され、屈強そうな男たちは剣や弓などを引っさげている。
3~40人程が恰幅の良い王子を中心に表通りを練り歩いていた。
「なーんかやなかんじぃー。」
カトレアが顔をしかめて言ったが、ネモとクレオはそれを無視した。
※※※
「さて・・・どういうことかな・・・カトレア」
着いた先は塔の屋上。
クレオは地面にヘタリ込むカトレアとクロを見下げて、像の下に腰を掛け、怖い顔でカトレアを睨み脚を組み替えた。
「戦の精霊のアンタがそれするとホント怖いから!シャレになんないから!!」
カトレアがガタガタ震えながらクレオを見る。
「質問に答えなさい」
「ヒイッ・・・だっ・・・だってー。クロいい子だよー?ホラ、アンタ達の助けになるかもしれないし、隠す必要なくない?・・・みたいな。」
カトレアはパタパタ手を動かしながら懸命に話す。
「・・・あのぅ・・・ネモさん・・・お兄さん・・・」
クロがそれを見て、意を決したように二人に話しかけた。
「僕の曽祖父と曾祖母は精霊様だったと言われています。・・・カトレアさんが見えるということは、それと何か理由があるんでしょうか?」
そこまで言われてしまったらもう、仕方ない。
クレオとネモは目を合わせて頷いた。
「カトレアは精霊の力を持つものだけが見えるんだよ。」
ネモがクロに話しかける。
「ちなみにカトレアは、セントポーリアの意思・・・この街の魂のような存在で、オレたち精霊の手助けをしてくれて・・・いる・・・はずだよな?カトレア」
クレオのドスの効いた声に、カトレアは焦った様子で何度もうなずいた。
「・・・え?・・・ちょっと待ってください“オレたち”って?」
「オレは“戦の精霊“ネモは“癒しの精霊“・・・ちなみに、妹じゃなくて姉さんだけどね。」
クレオは仕方ない、と行った表情で、クロに話した。
「僕たち精霊はクロの祖先がそうだったように、人間として生まれるんだよ。寿命がきたら、またこの街で生まれ変わる。」
ネモがクレオの言葉に付け足す。
クロはぽかんとした表情で二人を交互に見た。
「二人が・・・精霊様!?・・・え?ネモさんって何歳なの!?」
「えー・・・別にいいじゃん年齢なんて。」
ネモは頬を膨らませ、不機嫌そうに言う。
「信じるかどうかはクロに任せるが、他言はしないで貰いたい。」
「・・・ええ、それはもちろんですよ。僕だって秘密にしてきたくらいなんですから。・・・でも・・・御二人が精霊様だなんて・・・すみません僕、何も知らないで、失礼な事をしてたかも・・・」
恐縮するクロを見て、クレオとネモはきょとんとする。
「なに?急に、確かにちょっと変な力が使えるけど、それ以外は同じ人間じゃん。」
「まぁ、ネモもオレも、今は二人暮らしだけど、普通の家庭で普通に育ってきたしなぁ。」
二人の言葉にクロはしばらく俯いて、暫く考えた後、顔を上げた。
「・・・わかりました。もし、僕なんかでも助けになることがあれば、協力させてください。」
「ありがとう、クロ。あぁ。こうなっちゃったのも大体カトレアのせいだからねー。」
ネモがちらっとカトレアを睨む。
「・・・あの、ネモさん・・・僕、お二人のこと、まだ信じられないけど、少しでも力になれれば嬉しいです。精霊様の家系の僕が、またこうしてお二人と関わることができるから。」
クロはニコッと笑って二人を見た。
「やっぱりクロっていい子ねー。私が見込んだだけあるわー♪・・・アンタたちと違って。」
カトレアがクロを抱きしめて頬ずりをする。
ネモとクレオはそれを見て深いため息をついた。




