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精霊の街   作者: きつねこ
7/13

第七話

挿絵(By みてみん)

午後から天気は急変し、激しい雷雨となった。

クレオは雷が苦手だ。

空をバキバキと切り裂き、地響きを起こす雷は、自分の中に恐ろしい力が眠っている事を嫌でも思い出させる。


「クレオ!大丈夫?」


ネモが、ずぶ濡れになりながら、足早に帰ってきた。


雷が鳴る時は、ネモはクレオを“兄ちゃん”とは呼ばない。

酷い雷雲で部屋の中は暗く、電気をつけようにも、どこかで断線しているようだ。


「・・・つかないや・・・ロウソクで我慢しよ・・・」


ネモは小さく光る灯火を、部屋の端で震えるクレオの傍に置き、クレオの背中をさする。


「大丈夫。大丈夫。」


ネモはクレオの髪をかきあげ、額に触れる。


「・・・何がそんなに不安なの?僕はどこにもいかないよ。クレオのことは僕がずっと守ってあげる。」


※※※


雷雨が収まったのは夜中だった。


クレオはいつの間にか寝てしまっていたらしい。

抱き枕に顔をこすりつけ、うっすら目を開ける。


(抱き枕?・・・持ってたっけ・・・)


クレオが少し体を起こすと

・・・そこには抱き枕ではなく、自分に組み敷かれる裸のネモの姿があった。


「!!!!!!??????」


クレオは驚いて硬直する。


「うーん・・・あ、目が覚めた?」


ネモがうっすら目を開けて微笑む。


「ねっ・・・ねねねねネモっ??これって・・・」


「うん。責任とってね♥」


次の瞬間、クレオは床にジャンピング土下座をしていた。


「あはっ!あはははは!冗談だよー!何間に受けてんの兄ちゃん!」


起き上がったネモはパンツ一丁でお腹を抱えて大爆笑したあと、深夜であることを思いだし、声のトーンを落とした。


「兄ちゃんがそんなことするわけないじゃん。僕が雨に濡れてたから着替えようとしたら、兄ちゃん離してくれないからこうなったんじゃん。覚えてない?」


「ホントに?」


クレオは泣きそうな顔でネモを見上げる。


見上げた先のほぼ裸のネモを見て

クレオは少し考えた。


「でも・・・そんなこと、しちゃってたら?」


「へ?」


再びネモを組み敷くクレオ


「オレたち前世では夫婦だったらしいよ。」


「へぇえっ?・・・ええっ!?」


急な告白にネモは素っ頓狂な声を出す。


「オレに本気で責められたら、抵抗できるかなぁ?」


ネモは目をきょろきょろ泳がせ、あきらかに動揺している。

いつもこういう時は、“早く服を着て!”って目をそらせるのに・・・。


「そんなの・・・うそだあ」


「嘘じゃないよ。」


ベッドの上でクレオはネモを見下ろしニッコリ笑う。不意打ちでネモの両手はクレオに片手で塞がれてしまっていた。


「え?なに?なにすんの?ちょっとまってよ・・・」


クレオは空いた片手で器用に自分のシャツのボタンを外していく。

部屋の明かりは外から入る月明かりだけ。

うっすらと照らしだされるクレオの身体を、ネモは呆然と見ることしかできない。


「ネモ、ねぇよく聞いてね。」


クレオの顔が近づいてきて、思わずネモは顔をそらせる。

・・・そしてその耳元で


「冗談だよ。」


クレオはネモから離れて、服を探し出し、渡す。


ネモは放心状態で、無言でそれをうけとった。


「ははっ、お返しだよ。さっきのネモの。」


「・・・!ばっ!ばか!兄ちゃんのばか!」


顔を真っ赤にしてネモが殴りかかってくる。


「びっくりしたじゃん!普段そんなことしないじゃん!」


「・・・でも、夫婦だったのはホントらしい。」


「・・・え?まじで?」


その言葉にネモは再び固まって、クレオを見る。


「まじ、なんだよなぁ。ネモは女の子なんだよ?、ちゃんと自覚してほしいなぁ。」


ネモは少し黙ったあと、そそくさと服を着出した。


「・・・ほんとにそう思ってる?僕が女だなんて。」


ネモがまだ少し赤い顔で聞いてくる。


「え?思ってないと思ってたの!?」


驚くクレオを見て、ネモは俯いて頬に手を当てた。


「やだなぁ・・・まだドキドキしてる。・・・わかったよ。以後気をつけるよ」


なんだか可愛らしいネモの姿にクレオは微笑んだ。


「ちなみにさ、クロは前世のオレたちの子孫で、ネモの性別も、カトレアの存在も知ってるよ。」


「ふぁっ!??」


「もう、悩むのに疲れちゃったよ。二人のことは二人でしか解決できないよね。」


「あ・・・明日は兄弟会議だね。」


※※※


翌日


「えーとつまり、クロは僕たちの前世の頃の血を引いていて、少しだけ、癒しの精霊と戦の精霊の力が使える・・・かも?ってことかな。」


テーブルに向かい合わせに座ったネモが話してきた。


「でも、カトレアの声までは聞こえないようだし、体力もそんなにありそうではなかったな。」


そう言ってクレオは二人分の紅茶を煎れる。


「いっつも、ぜーぜー言いながら塔をのぼってくるもんね。」


ははは、と笑いながらネモは紅茶を一口飲んだ。


「まぁ、性別がバレたのは僕の方の力だろうね。人の気配とか、体の調子とか、普通の人より敏感だから。」


「癒しの力は確実に微量は残ってるようだな。」


クレオはクロに触れられたときのことを思い出した。


「クロが男でよかったね。万が一癒しの精霊に間違われることになったとき、安心かも」


「でも、問題が起こらないように気をつけてやる必要はありそうだな。」


結局は大した問題にはならず、クロを見守る方向でおちついた。


「そういやさ、兄ちゃんは嫌じゃなかった?」


「何が?」


「・・・僕が兄ちゃんと夫婦だったって聞いて、嫌じゃなかった?」


見上げながら聞いてくるネモにクレオはドキッとした。


「嫌・・・じゃないよ。」


「いゃー。だって兄ちゃん可愛い子にモテるからさー。ぶっちゃけどうなのかなーっておもった!」


ネモは安心した様子でテーブルの上のお菓子を食べ始めた。


「・・・ネモはどうなの?嫌じゃないの?」


クレオは意を決してネモに同じ問いを返す。


「僕たち生まれ変わってはいるものの、何百年も一緒なんだよ?そんなこともあるさ。そんだけずっと、仲が良いんだよ。」


しれっと返答するネモ。


「でも、昨日はびっくりしたな。まさか、弟に押し倒されるとは、しかも手馴れた感じで。僕の知らないとこでなにしてんだか。」


ネモはテーブル越しにクレオをジト目で見て、ため息をついた。


クレオは慌てて言い返す。


「ネモにしかしたことないよ!そこまで行くまでに別れちゃうし。多分オレが本気じゃないことがわかっちゃうんだろーね。」


それを聞いたネモは怪訝な顔をした。


「モテるのはわかるが同情で本気で好きでもない人と付き合うんじゃないよ、それ、相手が傷つくよ。」


「・・・それがわかってからは付き合ってないよ。一度も。」


クレオが少ししょんぼりした顔でいう。


「そういえば、ネモはクロとはどうなの?そういう感情はないの?」


ネモは、クレオの質問に、はぁっ?という顔をした。


「クロは友達だよ。・・・今思うと、同類って感じがして、居心地がいいんだと思うけど。クロもそうじゃないかな。」


「なんだ、そっか」


クレオはホッとして胸をなでおろした。


「そう言えばネモ、今日の用事は?」


「ないよ。隊員さんたちは今日は警備でいそがしいみたい。」


朝からネモは寝間着のまま、リビングでダラダラしている。


「オレは昼から司祭様の手伝いだけど、それまで一緒に外に出ない?」


クレオの誘いに、ネモはうーんと唸って考えた。


「裏通りならいいよ。表通りだと兄ちゃんが女の子に掴まりまくるから、足止めくらうんだもん。」


クレオはハハハと乾いた笑いを返した。


※※※


久しぶりのネモとの外出でクレオはすこぶる機嫌がいい。

天気も秋らしく雲は高く、晴れ晴れとしている。


「あ、ちょっとまって、兄ちゃん」


ちょうどセントポーリア病院の裏を通った時に、ネモが立ち止まり目を閉じた。

一瞬暖かな風が通り過ぎ、ネモは目を開ける。


「よし、おまたせ!」


「・・・ネモってその気になったらこの病院の人位、みんな完治できるんじゃないの?」


クレオはなんとなく聞いてみる。


「本気だせば、もうちょっと、人数多くてもいけるかな。あー。この世の役目が終わっちゃってる人以外ならね。」


セントポーリア病院は入院患者100人は収容出来るこの街で一番大きな病院だ。


「だけど、完治・・・までは力は使わないんだね。」


「ちょっと治療の手助けをする程度だね。・・・病気や怪我はつらいけど、自己防衛や危険意識のために、経験はしなきゃいけないとおもうんだよ。」


クレオは確かにね。っと病院を仰ぎみた。


「あっ、ジェラートだ!」


急にネモは次の交差点まで走り出す。


「この変わりよう・・・」


クレオは苦笑いをしながらそれを追って歩き始めた。


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