第六話
クレオは悩んでいた。
考えないようにしたいのに、つい、頭によぎってしまう。
(ネモが・・・姉さんが・・・前世でオレの奥さんだった・・・なんて。)
クレオの脳裏で色んな妄想がかけめぐる。
(子供がいたってことは、それ相応のことをしてたわけで・・・)
「わぁぁーーーっ!」
クレオは壁に頭をぶつけながら叫んでいた。
「あはー★今日のクレオっておもしろーい。」
「・・・ホント大丈夫?兄ちゃん・・・主にアタマ」
それを見て爆笑するカトレアと、怪訝な顔のネモ。
ふと、ネモは、テーブルの上の紙に目を止めた。
「あれ?クロがきたの?」
クレオははっとして、頭を打つのを止める。
「あ、あぁ。ネモと遊びに来たんだよ。ネモは仕事中だったけど。」
「そーだったのかー。悪いことしたな。明日、クロんち行ってみよーと。」
「え!!?」
「ん?なに?兄ちゃん」
「・・・いや、女のコ一人で、男の家に遊びにいくのはどうかと・・・」
できればネモを行かせたくはない、ク
ロにはネモの性別がバレている。
「ははは、何それ兄ちゃん。今更だよ。しょっちゅう行ってるのに。」
「えっ!そうなの?」
軽くショックを受けるクレオ、ネモに特定の仲の良い異性がいたなんて・・・
「それに・・・クロなら別に僕が女だって知られても問題ないかな。」
「えぇっ!?それってどう言う意味?!」
更なるショックを受けるクレオを置いて、ネモはまだできてない夕飯の準備を始める。
「そもそも、僕が性別を偽っているのって、【癒しの精霊】だって、バレないために僕らの親が始めた事でしょ。性別がバレても、こんな僕じゃあ誰も精霊だなんて思わないんじゃな
い?・・・最悪精霊だってバレても、そんなに悪いことにはならないような・・・」
「いんやー。それはやめた方がいいわ
よ。」
カトレアが真顔でネモに告げる。
「精霊だってバレたら、必ず利用しよ
うとする人が出る。・・・今までもそうだった。ネモが平気でも、人質をとられたら?本来の街を守る仕事ができないどころじゃないわ。」
「お、カトレアが珍しく真面目なことを言っている。」
感心するクレオに、カトレアは「あん
たにもいえることよ」っと付け足した。
「わかったわかった。気をつけるってば、まぁ、クロは害のないやつだけど
ね。」
ネモは心配症だなぁとぼやきながら料理に戻った。
※※※
次の日
「ねぇ、ネモ、ほんとに行くの?」
クレオが心配そうにネモに問う。
「え?行くけど、昨日からホントにどうしたの?兄ちゃん。」
へんなのーっとぼやきながら、ネモはアパートを出ていってしまった。
※※※
クロは塔の三階に住んでいる。
部屋の中からは時折二人の笑い声が響いてくる。
「あれー?なにしてんの?クレオ」
カトレアは空中から、クロのアパートの中に聞き耳をたてるクレオに話しかけた。
「ホントなにしてんだろ、オレ・・・」
ネモに悪い事している自覚はある。
・・・でもいてもたってもいられない。
「じゃあ、ネモさん。外出て、本屋でもいってー。ついでに、昼ごはんもたべる?」
「わかった。何食う?クロ」
二人は外出するようだ。クレオとカトレアはその場から離れ、影に姿を隠す。
「クロってネモのこと同い年くらいに 思ってるのかな・・・?オレの姉なのに。」
クレオは今年で17歳、ネモは19歳になる。クロは13.4歳といったところか。
「そうかもね。まあ。私から見たらあんたたち皆、変わんないけど」
クレオとカトレアは二人の後をこっそりつける。
二人はまぁ、楽しそうに、買い食いをしたり、本を見て笑いあったり、世間話なんかをしている。
クロがネモの性別に関して何か言う素振りはない。
「そういえば、ネモのお兄さん、クレオさんって・・・僕のこと嫌いなのかな?昨日はちょっと怖い顔だったから」
「兄ちゃんが?・・・いーや。兄ちゃんは誰にでも優しいし、昨日は体調悪かったみたいだからそれでじゃない?」
「そっか、そうだよね。良かった。」
安心して笑うクロを見て、クレオはどんどん虚しい気持ちになってきた。
「・・・・・・帰る・・・」
「その方が良さそうね。」
クレオは暗い顔で、とぼとぼアパートまで歩く。
「クレオってホントでかい図体してる割にいい歳しておねぇちゃんっ子で、メンタル弱いわよね。」
カトレアが呆れたようにクレオを見た。
「そう、見える・・・?」
クレオにいつものように反論する元気はない。
ネモは昔から勝気な性格で、いつもクレオは守られていた。
両親の元を離れた時も、精霊の力がうまく使えない今だって、ネモの努力でクレオはなんとかなっている。
多少、しおらしさに欠け、大雑把なところがある姉だが、クレオにとってはいつもそばにいてくれる、かけがえのない存在だ。
「情けない・・・これじゃ姉さんを取られて嫉妬する子供じゃないか。」
クレオはうなだれながら帰っていった。




