第五話
その日は、休日だったが、朝からネモはパトロールで、ラギ副隊長に連れ回されていて、不在だった。
ネモの強さと、街の知識を副隊長は大いに買っており、隊員ではないが、しょっちゅうネモは駆り出されている。
「ホントはオレが行くべきなんだけどなぁ・・・」
クレオはため息をつきながら、リビングの椅子から外を眺めた。
癒しの精霊であるネモに、戦闘に対する特別な能力などない。
ネモの強さは、単に彼女の努力の結果だった。
クレオは力が不安定なため戦いを避けている。普段はもっぱら、ネモのサポートや、司祭の手伝い、あとは、罪人の看守のような仕事をしている。
今日はクレオ一人が留守番だった。
「ネモさーーん。いますかー?クロです。」
扉の向こうからの声に、クレオは玄関を開けた。
「クロくん。いつもありがとう。今日はネモはいないんだが、どうしたのかな?」
「なんだ・・・いないんですかー。遊びに来たんですが・・・あっ、これ、来週の点検停電についてのお知らせです。・・・妹さんにもよろしくお伝えください。」
「わかった。伝えておくよ。」
クレオは笑顔で紙を受取った・・・後、会話の違和感に気がつく。
「・・・妹?・・・オレに妹はいないけど。」
クロは首をかしげ、クレオを見る。
「え?ネモさんは妹さんではないんですか?」
クレオは内心ぎょっとしながらも、平静を装う。
ネモは男の自分からみても女のコだなんてわからない。脱いでもわからないくらいなんだから、バレる筈がない。
「弟ならいるけどね。どうしたらそうなるの?」
クレオはハハハと笑ってみせる。
「いえ、弟じゃありませんよね。雰囲気でわかるんですよ。ボク・・・。あの男っぽい格好は趣味なんですかねー。」
「え?いや・・・いやいや・・・ネモは」
「・・・わかるんですって。何か訳があるんだろうから、他の人には言ってませんが、流石にここまで隠されると悲しくなっちゃって、・・・すみません。」
クロに真顔でそう話されてしまい、クレオはそれ以上反論が出来なくなってしまった。
「あ、そういえばクレオさん・・・」
「なっ・・・なに・・・?」
次は何を言い出すのかと身構えるクレオ。
「クレオさんって、幽霊って見えます?」
「ゆ・・・幽霊?みたこと・・・ないなぁ。」
ぶっ飛んだ会話の変わりようにクレオはキョトンとする。
「ボク見ちゃったんですよねー。この塔で・・・髪の長い女の幽霊・・・。」
「そりゃ、いかにもな幽霊だね。」
「はい。・・・水色の長い髪で・・・スカートをはいてて、なんかいっつもだらしのない感じの幽霊なんですけど。」
「・・・ん?」
・・・それって・・・
「あれ?クレオさん、しってますか?」
「い・・・いや・・・知らないなぁ。・・・いっつもって事はクロ君はその幽霊に何度も会ってるんだね。」
平然を装って聞いているクレオだが、内心ではかなり混乱していた。
クロはすっと指をクレオの肩付近に向けて指す。
「実はその幽霊、今、クレオさんの後ろに・・・」
バッ、と振り返るクレオ。
「やほー♪」
後ろで手を振るカトレア。
((どういうことなのカトレア・・・この子何者なの・・・))
クレオはカトレアに目で訴える。
「その子ねー。私の姿は見えるけど、声までは聞こえないみたいよー。」
「ああっ、クレオさん!霊が何か喋ってます!」
「えーウチに幽霊なんて・・・やだなー・・・困ったなー(棒)・・・ねぇ、クロ君、オレ体調悪くなってきたから、今日は帰ってくれないかな?・・・ほら、幽霊のせいかも。」
・・・もちろんウソ。クレオはカトレアとじっくり話したかった。
「え?大丈夫ですか?」
クレオの額におもむろにクロは触れる。
「・・・!?」
額が少しだけ暖かくなる。
その感触にクレオは覚えがあった。
「・・・じゃあ、ボクはこれで帰ります。また、ネモさんに会いに来ますね」
「あぁ・・・ごめんね、クロ・・・あ、ちょっとまって、」
「はい?」
「ネモのこと、そんなに、女の子とだと思いたいなら、それでもいいけど、他の人には・・・ネモにも・・・言わないでね。困ると思うし。」
「ええ、勿論ですよ…」
「お、ね、が、い、ね」
クレオは気迫を込めて、クロに念を押す。
「!はい・・・では、」
クロは一瞬ビクッと震え、足早に帰っていった。
玄関のドアが閉まると、クレオは長いため息をつく。
「あの子・・・何者?」
怖い顔でカトレアを睨む。
「えー?この塔の管理人じゃない。」
「しってるよ。いや、なんで、ネモの性別がバレてて、オレたちにしか見えないカトレアが見れるの?・・・それに・・・」
クレオはテーブルに伏して頭を抱える。
「かなり弱いが、ネモと同じ力をつかえるし、オレの強迫も効果が薄い。」
(本来ならこの前のストーカーの青年のような反応が多いのに・・・)
「えー?知ってるは知ってるけどー。クレオ、あんたは聞かない方がいいかもよー?」
軽いノリのカトレアをクレオは再び睨みつける。
「・・・なんであんたら精霊は私にそんな当たりがキツいのよ。・・・わかったわかった。言いますよー。」
※※※
「ただいまー。もう、副隊長人使いあらすぎ。」
夕方、ネモがうんざりした顔で帰ってきた。
「おっかえりぃーネモー。」
それを迎えるカトレア。
「あれ、なんでカトレアがいんのさ。兄ちゃんは?」
カトレアはクレオの部屋の方をちらっと見た。
「ダウンしちゃった。」
「ダウン?・・・おーい、兄ちゃん大丈夫?」
ネモはクレオの部屋のドアをコンコン叩く。
「・・・大丈夫・・・」
クレオがゆっくり、部屋から顔を覗かせると、丁度ネモと目が合った。
「ーー〜っ!」
途端、クレオは手で顔を覆い、頭を振った。
「・・・?なんかあったの?」
クレオの反応にネモはカトレアを見る。
「ああ、それはねぇー。」
「大丈夫!ほんと大丈夫だから、ネモは全然気にしなくていいから!!」
クレオはカトレアに話させまいと必死に振る舞う。
(・・・知らなきゃよかった!まさかクロが微かに“力”が使える理由が・・・クロの先祖が・・・ネモとオレだったからなんて・・・前世でオレたちの間に子供がいただなんて!)
カトレアは動揺するクレオを見て意地悪そうに笑った。
「そういや、あんたら精霊って、前世でも姉弟だったのよー。知ってるー?」
へぇー。とカトレアを見るネモとは逆に、クレオは声を失った。
(色々と駄目でしょ!!!)
その日クレオはネモの姿を直視できないまま1日が過ぎていった。




