第四話
明くる日の朝。
塔をよたよたと登る少年が1人。
「ネモさーん。僕です、・・・はぁっ・・・クロです。ぜぇ・・・
集金に参りました・・・」
彼はトントンと控えめにドアを叩く。
「よ、クロ!久しぶりー。用意してあるよ。ついでに休んでく?」
クロと呼ばれた少年はネモと同じくらいの背丈で、幼さがまだ残る顔つきをしている。
この塔の管理人で、肩にはいくつものショルダーバッグが掛けられ、塔の長い階段でクロは少しばてているようだった。
「いや・・・今日はまだ廻るとこがあるから、話したいこともあるし、また遊びにこさせてよ。」
「そか、わかった。じゃあ、これ、今月の家賃。足をすべらせて下りの階段で落ちるなよー。濡れてるから!」
ネモはフラフラと階段を降りるクロを見送った。
※※※
街の天気は雨。昼からネモは一階の教会でダラダラしていた。
クレオは教会の奥の部屋で、司祭の手伝いの書類の整頓をしているようだ。
「やっぱここは落ち着くなー。」
ネモは長椅子に横になり、手すりに足をかける。
「こら!ネモ君。神聖な精霊様の教会でゴロゴロしないの。」
司祭に頭をバチンと叩かれ、ネモは仕方なく寝ていた椅子から体を起こした。
教会の端で、そんなネモを見て、
「自分の祀られてる教会で怒られてるー」
・・・と、クスクス笑うカトレアをネモは見つけ、ぶん殴りたい衝動に駆られた。
カトレアの姿は普通の人間には見えない
彼女は【セントポーリアの意志】
・・・つまり、この街の魂なのだ。
「暇なら掃除でもしてくれないかしら?体力ならあるでしょ?お駄賃あげるから。」
司祭に掃除道具を投げられネモは、それを受けとり、渋々床を掃き始めた。
バタン
その時、豪雨の中、一人の少女が教会の中に入ってきた。
雨でずぶ濡れになった少女は教会の癒しの精霊の像の前で跪く。
「・・・精霊様・・・スイと申します・・・私達のお近くにいらっしゃるのならば、どうか、私の父をお救いください。」
少女はポロポロと涙を流し頭を下げた。
そんな少女に司祭がそっと近づく。
「スイさんと仰るのね。風邪をひくわ、これを。」
司祭は少女にタオルをかけた。
茶色のおさげ髪の少女はそれを受け取り礼をした。
「スイさん、お父様はどうなされたのかしら。」
司祭は少女を椅子に座らせ、彼女の前で膝をつき、話しかける。
「父は病気で・・・薬も効かず日に日に弱っていくのです。もう、精霊様にお願いするしか・・・」
ネモはなんだかその場にいづらくて影に移動する・・・と、同じように気まずそうにクレオが司祭と少女のやりとりを見ていた。
カトレアに至ってはこの教会から出ていったようだった。
「スイさん。精霊様へのお祈りは私が代わりに致します。お気を落とさないで、今はお父様のお近くにいて差し上げてください。」
「ええ・・・ありがとうございます。」
少女は暫く司祭と話した後、傘を借り、家に帰っていった。
「あら、何二人さぼってるのかしら?続きをお願いしますね。」
司祭がネモとクレオを見つけ、指をさす。
彼女にとって、こんなことはいつものこと。
普段の調子で奥の部屋の資料の整頓を始めた。
「ネモ、なんとかなんないの?」
クレオが小さな声でネモに問う。
「・・・うーん。」
ネモは頭を掻きながら、先ほど少女がいた癒しの像の前まで移動した。
そこにはネモとは似てもにつかわない女性の像が立っている。
ここは、この塔のちょうど中心、すなわち、この街のちょうど中心になる。
司祭が見えない所にいる事を確認し、ネモは床に手をつけ、ゆっくりと目を閉じる。
「名前はスイ・・・あまり見ない顔だからここからは遠くの子かな・・・」
ネモを中心に一瞬、光の輪が外にふわっと広がり消える。
ふうっと息を吐いてネモは身体を起こした。
クレオの方を見て首を振る。
「彼女の父親はもう、黄泉の神様に呼ばれている。僕の力じゃ2、3日伸ばすのが限界だったよ。」
「そっか、ありがとう、ネモ」
クレオは残念そうにうつむいた。
「そんな顔しないでよ兄ちゃん、誰だっていつかは死ぬんだから、人間も、精霊も、神さまだって。彼女の父親はこの世の役目を全うしたのさ。よく頑張ったねって、笑顔で送ってあげなきゃね。」
ネモはクレオの背中をパンパンと叩き、掃除に戻っていった。
さすが癒しの精霊、こういうことはしっかりしてるんだなあと、感心して、クレオも仕事に戻った。




