第三話
「遅い!兄ちゃん。夕飯作っといたよ。・・・今日は僕の当番じゃないのになぁ。」
テーブルの上にはフワフワの卵のかかったオムライスが2つ置いてある。
ネモはズボラな性格の割には料理が得意なようだ。
「食べたら手合わせにつきあってね。」
オムライスを掻き込みながらネモが言う
「えっ、今日も??」
「身体がなまっちゃうんだよ。遠慮しないで本気できてね。」
※※※
食後、もう薄暗い塔の屋上からは激しくぶつかり合う拳や蹴りの音が響いている。
普段クレオは絶対に人に攻撃は加えない。
クレオは頭上からの蹴りを腕ではじく。
くるりと宙返りをして足をつくネモに、容赦なく殴りかかるが、ネモは屈んでそれをよけ、クレオの懐に入る。
「もっと本気出してよ。」
クレオのみぞおちに軽くタッチするネモ
「・・・そう。」
クレオが返事をした次の瞬間、ネモは触った手を強く握られ、勢い良く床に叩きつけられる。
「ぐっ・・・」
急な衝撃で、息がつまる。
その首元目掛けて襲い来るクレオの手には小さく鋭利なナイフが握られていた。
「ちょっ、なんでそんなものもって!・・・あ、僕のじゃんソレ・・・」
いつの間にか奪われていたナイフの攻撃を避けるネモ、ナイフはクレオの掴むネモの腕へと向けられた。
ネモは足蹴りでそれを弾き、ナイフはどこかに飛んでいく。
「手合わせなんだから武器は厳禁なんだぞ」
「・・・・・・」
クレオにネモの声は届かない。
起き上がったネモに蹴りを入れてくる。
その顔に表情は無い。
「ああ、ちょっとっ・・・まっ、、」
クレオの攻撃を受け止める度に、パアンと大きな音が鳴り、手足がビリビリと痛む。
攻撃はどんどん強さが増しているようだ。
ネモは拳の一撃を受け流し、クレオの後ろに回り込み、彼の首を掴んだ。
「「クレオ、止めっ!!」」
ネモの大声にクレオはピタリと動きを止め、ゆっくりと振り返った。
「いやー。手合わせの前にナイフを部屋に置いとくの忘れてたな。」
振り返ったクレオはいつもの顔つきに戻っていた。
「な・・・ナイフ?まさか、俺、ナイフをネモに向けたの?」
「うん。めっちゃ殺す気だった。」
クレオはさぁっと青ざめる
「ごっ・・・ごめんネモーーー!
あぁぁぁ・・・ネモに懐に入られた辺りから記憶が無い!!!オレもうダメだ・・・死んで詫びるっ。」
飛び降りようと塔の手すりに足をかけるクレオをネモが掴んで止める
「死ぬなーー!兄ちゃんが暴走しないためにも僕がいるんじゃん!!!」
屋上にはそんな二人をじっと見つめる目があった
「うっさいわねーー。毎度毎度ー。」
そこにいたのは薄水色の髪の長い女性たった。スリットの入った長いスカートを履き、だらしなく寝転んでいる。・・・空中に。
「うっわ、出た、地縛霊」
ネモがジト目で彼女を見る。
「地縛霊じゃなくて、【セントポーリアの意思】!土地神みたいまものよ!?私、酷くない??」
「じぶんで神様とか、よくゆうー・・・そんないいもんじゃないじゃん。」
「まぁ、神様ではないな。」
クレオもネモに乗じて笑う。
「クレオまで!・・・そういや、クレオ、まだあんた“力”を制御できないの?」
「はは・・・・・・・・・はぁ。」
クレオは頭を抱え込んでわかり易く落ち込んだ。
「カトレア、兄ちゃんもがんばってるんだから・・・そんなこというなよ。」
カトレア、と呼ばれた彼女は素知らぬ顔で明後日の方向を向いている。
「でも、確かに俺がちゃんとしてれば、ネモが性別を隠したり、危険な目に会うこともないんだよなぁ。」
クレオはうなだれた。
「・・・僕は好きでこの格好をしてるし鍛えてるんだけど。」
ネモはクレオの肩を叩きながら当たり前のようにいう。
「だけどねー、ネモ、クレオ、私は、喧嘩が強くて男にしか見えない“癒しの精霊“も、未だに自分の力をコントロール出来なくて、姉を殺しにかかる“戦の精霊“も初めてよ。」
その言葉に二人はしかめっ面でカトレアを見る。
「・・・まぁ、“癒しの力”は悪用されると厄介だから、ネモがバレないように男装してるのは賛成なんだけど。」
そう付け足して、彼女はため息をつきながら脚を空中で組み替えた。
「私とは違って、貴方達、精霊は人間として生まれて、人間として街を守り、死んで、また同じように生まれ変わる。・・・前世と同じ魂なのに、どうしてこうも違うのかしら?」
「そんなこといわれても、僕ら前世のことなんて覚えてないもんね。」
「・・・ネモ、アンタはもっと、おしとやかで、優しくて、女性らしくて、そして巨乳だったわ。」
「巨乳!?」
クレオがぎょっとした顔でネモの平らな胸を見る。
「なんだよ。」
ネモはそれを睨み返す。
「クレオは・・・もっとお固くて、・・・そうねーお姫様を守る兵士って感じだったわね。」
カトレアの話にネモとクレオのテンションはかなり下がって、カトレアは満足そうにフフフと笑った。
「クッソカトレア・・・なんかムカツクから、もう二度とお菓子買ってきてやんない。」
「ちょっ・・・ネモ!!ええっなんでー?冗談よ!ネモぉーー。」
カトレアは何かグダグダ言っていたが、ネモとクレオはアパートに帰るまで、一切カトレアと口を聞かなかった。




