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僕の部屋には座敷わらしが住んでいる  作者: 峠のシェルパ
第六章 試される時間
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捨てられた昼顔

レイピアに協力する約束はしたけど、条件はこちらから提示出来るのは良い事だ。

いっその事無茶な要求をしてレイピアに呆れられたり、愛想をつかしてくれたり…

悪い事とかは企む事は幾らでもできるから、立場としては優位になるわけだね。


「この後は明日の朝寝坊しない程度には自由に動ける訳だが、皆は何か予定があるのか?」

「そーだねー、僕は暇だけど微風は運動とかした方がいいんじゃない?」

「ふっ…我にその様な行動をする猶予は存在しない、真理の探究には膨大な時間を要するのだ。」

「今さっき自由に動けるっていったじゃん、それに微風は運動の楽しさを分かってないんだよー」


僕はちょっとやる事があるからね、あんまり自由には動けないかな…


「何かと予定が埋まっているな北村、あまり根を詰めすぎるなよ?」

うん大丈夫、そんな大した事じゃないから。


「微風はさぁこう…心配になるんだよねー、弱々しいてさ、どっかでぽきっと折れちゃいそうで」

「止めるんだモノ、我もそれは十分分かっているから」


昇降口を出ても僕らは呑気なそんな話をしている。

緊張の糸は緩くなっていく…何事も無く、心配事も少ない、穏やかで平和な日常を誰しもが望んでいるんだ。

「微風さんとモノトーンさんは仲が良いですね。同じ中学校だったのですか?」


来宮さんが微風達の事を聞くと微風が思い出した様に話す。

「あ、言ってなかったでしたっけ?」


「うん、してないねー自己紹介位しか」

何故にそれしかしてないんだ…と微風は溜息を吐いて、改めてモノトーンとは同じ中学で同じ部活に所属していた事を話した。


一通り紹介が終わるとモノトーンは、そんな感じでーすと適当な返事をして僕らに微かに柔らかい表情を見せる。

「ま、なんだ…悪いやつではないことは我が保証するぞ。」

「悪いやつじゃないでーす」

ひらひらと僕らに向けて手を振るモノトーンを見てなんか独特な雰囲気の人だな…と僕は感じた。


皆で話しをしながらさっき確認した校門が見えてきた。

レイピアはこんな賑やかな帰り道を帰った事があるのかな…もし今までにない経験が出来ているとするなら、僕はレイピアに良い事が出来たのかもしれない。

校門の前にはさっき見た通り勿論誰もいない…筈だった。


待っていたのは黒い光沢感のある車…さっきまで無かったものが見えた。

途端に僕は嫌な予感がしてその場で反転、レイピアを隠すように前に出ようとする。

駄目だ、見誤ったと気づいた時には時は既に遅い、

後悔は先に立たないとは言うけど全くその通りだった。


「お嬢様、お待ちしておりました」

さっきまでそこには何も無かった筈だったのに、赤髪に焦茶色の燕尾服を着た少年が最敬礼をもって主人をの帰りを待っていた。


なんて都合が良い展開だろうとかそんな感情を放っておいて僕は言葉が出なかった。

ここに来てはなから僕の講じた作戦が通じていたのかも疑問に思えてきたけど、問題は久井のそのご主人様の反応だった。


ここに来て他人のフリという訳にもいかない…

状況がのめない僕とレイピア以外の三人は互いに顔を見合わせたりしている。


僕とレイピアが足を止めた事で何か事情があるのかと察しのいい人なら予想がつくかもしれない。


どちらにしても、僕の隣にいる自称座敷わらしちゃんがどう反応するかによっても変わって来るのだが…


レイピアは驚いたのか、目を見開いたまま固まってしまって動かない。


「…人違いじゃ無いですかね、誰もこの中に人を侍らせられる様なお高い身分の人間は居ないんですけど 」


困惑と静寂を破ったのは何故かモノトーン、目からは面倒ごとはごめんだと言いたけだ。


「いいえ、見間違えるはずがありません。

わたくしと致しましては仕えるべき主人は生涯に渡り心に決めておりますので…」


久井はそう言って真っ直ぐと彼の主人に目を合わせている。

どこかで僕は選択と予想を履き違えたのかもしれない、悪態をつきたいところだけど問題は僕のことじゃない。


久井の主人である少女はその透明な声を上げる事もせず、驚く事もしていない。

固まったまま表情も変えずにレイピアは目の前の状況を今必死に整理しているのかも…


駄目だよレイピア、何もかも受け入れた様子で澄まし顔をしてしまったら、僕にごめんなさいと謝って笑顔でそっちに行くのだけは止めてくれ。


「そうですかそうですかー、この感じだとあんまり望まれた来訪者でも無い様ですけど〜どうされます?誰の執事したいのかは分かりませんけど?」


丁寧な言葉とは裏腹に口調は雑なものだった。 


変な人が道を塞いで自分達には関係の無い事を勧めてくる勧誘の人みたいな感じにモノトーンは久井の事を考えているのかもしれない。


「刻限で御座いますのでお嬢様には屋敷へ戻っていただきます。」

関係ない事を話したくないと突っかかるモノトーンに事務的な回答を久井は返す。レイピアは口を開かない。


「北村様もお人が悪い、お嬢様と知り合えていたのであればこちらに教えていただけましたら良いものを」


今の話だとそれは言わないで、久井の目的が僕とレイピアだってバレるじゃないか。

どうするんだよこの後、説明が滅茶苦茶面倒だぞ…

「さぁお嬢様、荷物も整えております。 」


どうやってレイピア(彼女)を見つけたんだ…

「北村様、お嬢様のお話は伺っておりましたので。」

は…? 僕は少なくとも何も君に話していない筈だ、僕はあくまでも中立の立場を崩していない。


「ともかくご協力頂きまして誠にありがとうございました。 お陰様でお嬢様の身の安全を確保しながら連れ帰る事が出来ます。」

反論や口出しを許さない無言の圧力を僕らに放っている。


「さぁ、お嬢様」

久井はレイピアに片手を伸ばし手を取る様に促す。

レイピアの為を考えれば僕はここで動かなくちゃいけない。

白馬の王子から姫を奪い取り逃げ去る小物になるだけの勇気は…残念ながら僕には無いんだ…ごめんねレイピア…


事情を知る僕が沈黙を守ると言うことはレイピアは自分で久井を拒絶するか、それとも助けを乞うかどっちかしか無い。


レイピアが始めた問題だから、最後に判断を下すのは彼女でなくてはならない…とでも言えば僕の中の自分は納得出来るだろうか。


この状況下で動けない僕を君は許してくれなくて良いからね。


「わ、私は…」

レイピア、全部は言わなくていいからね。 僕から彼に

「ううん、私から涼くんに言わなくちゃいけない事があるんだ…」


ちょっと待て、待てよレイピア…? レイピアさっきまで話してた話はどうするの?

君、今までのやり取りと真逆のことをしようとしてるって分かってる?


「え? それは…もう忘れて! なんか私すっごい恥ずかしいこと言ったりしてたけど、大丈夫!私は元に戻るだけだから! ちょっとした事じゃない。日常生活に戻るだけだよ? 」

必死に何かを抑えるものがあるレイピアの声は消え入る様に小さくなっている。


淡い少女の冒険譚が幕を閉じようとして、壊れそうな器を隙間から溢れないように必死に取り繕う。

人には誰しも閉まっておきたいモノがあるもので、それが暴露するのは恐ろしく思う。


レイピアは五文字の言葉を吐き出せないままである。

聞いた途端に僕が動くだろうと思っているのかもしれない…僕にはその気は無いと知っていたら失望するだろうな。

状況に置いてきぼりにされている微風と来宮さんからの追及は後でいいとして、僕としてはこのままレイピアが荷物をまとめて小谷荘を後にしてくれる方が良い。


…その方がスッキリする。

「皆もごめんねー、なんかよく分かんないと思うけど、明日はちゃんと学校行くから。 私のうち出迎えがちょーっとだけ心配性なだけなんだ。」


レイピアが崩れそうな切ない笑顔で、心配させない様に取り繕っている。

手を伸ばして捕まえれば取り戻せそうなのにと一瞬だけ考えて、やめた。


今彼女に触れたらどっかに消えてしまいそうな気がして、僕は結局のところレイピア任せにして何も事を起こさなかった。


「それでは皆様、良い1日を御免くださいませ…」


予期していた最悪の事態だった、反論も抵抗も出来ずに久井はレイピアを車に乗せてしまった。


「北村様…貴方には言うことは…何も御座いません。

本来の刑法であれば数人の方が誘拐幇助(ゆうかいほうじょ)にあたりますが今回は不問とさせていただきます。」

誘拐? ゆうかいには僕は全く関係していないぞ。


「貴方が私達からお嬢様を隠し続けた事を許すのはとても難しい事ですが、主人に免じて堪えます。それでは、」

レイピアが車に乗った後、久井は僕に怒りを向けながらそう言い残して車に乗り込むとさっさと音を立てて走り去り、僕ら四人は校門の前にポツンと理解が追いつかないまま取り残されてしまった。


空はがらんと青いまま、ちっぽけで大間抜けな僕の隣にはもう誰もいなかった…




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