表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の部屋には座敷わらしが住んでいる  作者: 峠のシェルパ
第六章 試される時間
74/75

ひだまりエントランスその5

元々彼女の提案はレイピアの寮室内での権利の保障と引き換えに、寮室費の三分の一を分け渡すというものだった。

簡単に分かりやすく言うのであればお金はちゃんと払うから、寮室に泊めてほしいってことになるのかな。


「涼くんって今、私の事ってどう思っているのかなって聞きたいな」

どう思ってる…? どうって言われるとか曖昧な聞き方をされると僕も答えに困るよ。

「あ、そっかそっか」

レイピアは頷きながらそう答えるとこそっと呟いた。

「私ね、色々と考えて、考えたんだけど…やっぱりね、家には帰りたくないんだ」

まぁ、そんな答えが返ってくるかなとは予想はしていたけれど、僕はこんな性格であるからこの期に及んでも非協力を貫くよ?


「そんな自信満々に言わないでよ~涼くんってば意地悪だなぁ」

意地悪って言われても僕には協力するような義理は無い。

レイピアに向けて同情とか憐みみたいな感情は勿論有る、けれど僕としては他人の厄介ごとに手を出すほどの余裕はないんだ。

僕は僕の分の人生をそつなくこなすだけで正直お腹一杯なんです。

親戚とか関係があるなら少しは協力するかもだけどさ…そんな自分本位な言葉をこの二三日を一緒に過ごした人に言うのはさすがに気が引けて言わないけど。


「そうしたらさ、そうしたらさ、私を部屋で匿ってくれる条件に追加したいんだけど良いかな?」

えぇ…嫌だって即答したいところだけど…一応条件は聞いておこうか?

「ありがとう、涼くん!愛してるぜ!」

拳を握って親指を立て、笑って見せるレイピア、何そのノリ、一昔前のアメリカのホームドラマか何かなの?

ほら、言った本人が一番恥ずかしくなってるやつじゃん。もう、収集つかなくなる伏線とか意味深な言葉とか、感情表現は止めてよね。


「そ、そんなことないですよ~冗談だよじょうだん!」

はいはいそうですね、それで本題の方はなんなのさレイピア?

「あ、そーだった、そーだったそれを離さなくちゃ話が先には進まないよね。私からの提案は、私が小谷荘に居続けられる様に協力する事を追加で条件にしたいなって思うんだけどどうかな?」

僕は否定とも肯定とも取れる声で反応する。レイピアの提案は予想が出来たことだ。


「そうそう、見返りというか報酬なんだけど…

涼くんが考えてくれて良いよ、私ばっかりお願いするのもどーかなって思ったから…どうかな?」


僕からのお願いを聞いてくれる代わりに、レイピアに協力するって事ね…うーん。

「ね?」

正直な話、お願いされても、僕に今何か望みがあるとかじゃないからねー、その交渉には僕は賛成して提案に乗る事は出来ないかなー?


「え〜、私は涼くんにしか頼める人がいないんだよね…私、あの場所には…戻り…」

ちょっ、教室前の廊下(こんなところ)で泣きそうな顔しないで! 周囲の目が僕に凄く刺さるから。

レイピアは気付いてないかもだけど、僕には気になるんだ。

ここに先生でも登場した時にはもう居た堪れないから

だからこの話は素直に僕の負けでいいよ、仕方ない。

でもちゃんと僕が条件を考えて、レイピアがそれで良いと思うならね。


だから今ところは契約は成立してないって事でいい?

「涼くんがそう言うなら仕方無いかな〜?」


仕方無いってレイピアは言ってるけど、レイピアのお願いを僕が聞くんだからね?

やれやれと頭を抱える僕とは対照にレイピアはニコニコと笑顔だ。

僕は自分を鈍感とか冷笑をする人だとは思ってない、出来るだけ周りの人とは上手くやっていきたいんだ。

その為には自分が無味でも透明でも構わないから…


こんな調子でも、僕の高校生活はいつの間にか新鮮味を失って日常として慣れてしまうのだろうか。


そんな事を考えてながらホームルームも一通り終わって僕たちは今日はこれで帰り支度となる。

問題はここからどうやって、恐らく校門の外で待ち構えているであろう久井を出し抜いて小谷荘まで辿り着くかだ。


レイピアと約束をした以上は僕の無い知恵を絞らないといけない。 さて、どうしたものか…


「よーし! 寮に戻って夕飯作るぞー、おー!」

ちょっと待ってレイピア、そのまま帰ろうとしないで?

僕は教室を出ようとするレイピアを呼び止める。

「うん? 涼くんどうしたの?一緒に帰ろうよ?」

そうだね、帰りたいのは山々なんだけどさ…僕は多分正門の前に久井くんが待ち構えてると思うんだよね。


入学生の中にレイピアがいる事は知っている様子だったから、有り得ない話ではない。


「北村さんとレイピアさんはお帰りにならないのですか?」

来宮さんが鞄を片手に一緒に帰りませんかと言ってくるものの、僕とレイピアは一緒に帰るのは避けなきゃいけない。


「涼くん考えすぎじゃない?」

僕はそうだとは思うよ? でもやらずに後悔するよりかは良い気がする。


そしたら…ちょっと僕待ち人が居るかもしれなくてですね、申し訳ないんですけど…来宮さんとレイピアはそこでちょっと待っててもらえますか?


「ふむ…我がそこに含まれていない件について問いただしたいのだが良いだろう、用事を済ませてくると良い」

あ、微風にモノトーンさんも、良いんですか?

「ん…特に用事もないから別に構わない」


まさか学校始まって初日から五人で帰る事になるとは思っていなかったけど、上手いこと行けばレイピアを見つけられずに済むかもしれない…!


よし、それじゃちょっと見てきますね。

仮にどっちかの校門に久井がいたとしても、「お嬢様の様な方ははいませんでした。」って答えてばいい話だ。


名前も知らない人を探してくださいって言われたって、僕には探す義理は無いもの。僕はどうだって良いんだよ…



裏門と正門前には帰宅途中の学生服姿ばかりで、学校が始まって数時間で友人関係を構築できるだけの対人行動力の有り余った人もほとんど居ないみたいだ。


真っ直ぐ家か、寮へと向かう人並みばかりで、会話もなく一年生達はバラバラに散っていっている。

そこに二度見た特徴のある燕尾服(えんびふく)の様な格好をしている赤毛の男の姿は無かった。


僕が考えすぎだっただけか…なら良いんだ。僕らは安心して小谷荘に戻れるんだ。

レイピアは一旦管理人室に避難してもらって、僕は久井を部屋に迎え入れて…

後は適当な返しをしてぶぶ漬けでも出せば帰ってくれるだろう。


何事と起こらないと良いけど、流石に知らない数人の同級生と帰っている最中に久井も事を荒立てるのはしないで欲しい…


「お、戻ってきたな? どうだった?待ち人は?」

教室に戻って用事は済ませたよとみんなに報告して、僕も帰りの支度を始める。


「それはそうと微風、提出物は全部出せたー?」

モノトーンが微風に聞く。

「む? 勿論、流石に全てやって出させてもらったさ」

「あの分量は多いなーって思ったんだけど」


事前に課題は五教科と高校の分の予習も含んでいたから結構分量としては多く感じたんだよね、分かるよ。


「考えてもみてくれ皆の衆、この後同じペースで課題が出されてみろ…正直キツくないか?」

微風の考えにうーんと唸るモノトーンと僕、しかし来宮さんとレイピアはそこまで気にしていない様子だ。


「お休み中にやっておいて欲しい事として出されたので確かに難しかったですけど、学校に慣れて来るまでは大丈夫だと思います」

「そーそー、それにみんなで分担してやっちゃえば万事解決だよ!」


レイピアはほんと人見知り全然しないな…久井の持ってた写真だと、あんなに表情が無かったのに今のレイピアは一体何処から来たんだろう。

元々の性格と表情は大人しいのか…それとも?


「ん? どしたの涼くん私の顔に何かついてる?」

あ…いや何でもない、ちょっと考え事してただけだよ。

いけないいけない、無意識でレイピアの事見てた。

あーもう、なんで僕がこんなに他人の事で考えさせられなきゃいけないんだ…


「あの、北村さんは考え込む事が多いのですか?」

「そりゃーそーだね、涼くんの半分くらいは考え事で出来てるからね?!」 

レイピア、来宮さんの質問を適当な事を言わないで欲しいんだけど?

「えー、涼くん放っておくとずーっと眉間(みけん)にしわを寄せてこーんな顔になってるじゃない?」


レイピアは指で自分の目を釣り上げて口をへの字に曲げて変顔をして見せた。

ちょっと待って、僕いっつも考え事をしてる時にそんな顔になってるの⁉︎


「それ、考え事っていうより見栄を切る歌舞伎役者じゃん」

「そーそー、それだよ、それ! よー!ぽん!」

止めてレイピア、まだここ学校だから色んな人見てるから頼むから止めて。


「なぁ北村よ、レイピア嬢について聞きたいことがあるのだが…いつもあんな風なのか?」


…う、ごめんなさい多分今の彼女はすっごい舞い上がってると思うからちょっと調子狂うかもしれないけど

ちょっと暖かく見守って上げて下さい…


「何かは分からないが、苦労しているんだな」

下駄箱で微風は僕にそんな事を言った。

いや、僕の苦労なんて大した事じゃないよ。溜息を吐く暇があるだけ…

「烏みたいになれればいいね」

モノトーンが突然僕にぼそりと呟いたけど、僕は首を傾げる位しかできなかった…


次回に続く!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ