躑躅の執事その3
保護者に混じって何故彼が今、目の前にいるかは問題ではなくて、この場を乗り切って隠し通すかが僕にとっての問題である。
わざわざ折り畳み傘を返す為だけに来たわけじゃない、彼は己の主人を探しに来たんだ。
「あ、ありがとうございます」
僕は包みの中身を受け取りながら、周囲に目をやってレイピアの姿を確認したけど…良かった。近くには居ないみたいだ。
「北村様、お願いしている件につきましては、後ほど改めて伺わせていただきたく思います」
お願いされている件とは彼が仕えている主人の捜索、生徒の中にいるかどうか探して欲しいという願いだった。
勿論、僕は彼の主人の事を知っている、なんなら同じ部屋で生活しているなんていう事実…死んでも彼にも教えられないよ。
「まさかとは思いますが、北村様がお嬢様を既に見つけておいでなら所属等を教えていただきたいのですが…」
お嬢様と彼が呼ぶ人物の写真を一昨日見せられた時、人形の様な薄い顔を見せる女の子があのレイピアであるか疑った。でも、レイピアの証言とは一致するんだよな…
レイピア=久井の言うお嬢様
のこの構図はどうやら本当らしい。
いやー、すみません。まだ見つけられていませんね。今年の入学する生徒だけでも400人はいるので…
と愛想笑いを浮かべながら答える。
僕には難しい、出来ないと遠巻きに伝えて他を当たって欲しいと暗に伝えられればいいけど。
僕はあくまで無能で無害な一般人で普通の人でしかないんだよね。
「そうですか…」
久井は僕から目を離して辺りの生徒を見渡すけど、この場にはまだレイピアは出てきていない。
残念だったね、あんまりこの場に僕が居続けると後が詰まってしまうし、他の人の邪魔になってしまうから今のところは退散してくれると有難いんだけどね。
「一つだけ北村様に言っておきたい事が御座いまして…」
ここで久井はこそりと僕に或ることを伝えるとつかつかと踵で音を立てて去って行った…
この場で言われても困る事では無かったけれど、強いて言えばなんとなしに予想出来ていたことではある事だった。
「あ、もしお嬢様とお会いした時にはですね、くれぐれも礼を欠く事は有りませんようにお願い致しますね。」
お嬢様は何処に出しても恥ずかしくない言うなれば大和撫子でありますのでなんて久井は付け加えた。
久井が見せてきた屋敷での写真の中のレイピアは澄ました生気のない顔でこちらを向いていた。
あれが本当にレイピアなのかとチョッと疑う部分はあるんだけど、こっちのレイピアが高校デビューで垢抜けたフリをしているとかなら、想像の余地はある。
まぁ…僕からすると僕とかと居る時に無理してキャラを作っているとは思えないんだけどさ…
レイピアとお嬢様、どっちの君が本物の君なんだい…
教室で聞くわけにもいかないし、そのあともやっとした煙が僕の頭に立ち込めていた。
まさか別人という線は無いだろうか、僕が匿っている少女と久井が探しているお嬢様が違っていたら、
いや待てよ、その線はレイピアが久井楓を知っている時点で無いか…
悶々と考えていても答えはレイピアだけが知っているから意味ないし、とにかく入学式後の帰り道が一番不味い状況になっている事だけは確かだ。
レイピアを庇い続けるならの話ではあるけど…僕の方針は変わることは無い。
別にいいでしょ、僕は悪者にはなりたくないもの。
もし仮になんですけど…お嬢様を私が見つけたとして帰りたくないですとか、そもそも久井さんに会いたくない等言われた場合にはどうするつもりなんですか?
「連れて帰ります、それ以外には旦那様より仰せつかって居りませんので」
聞いてみたものの、当たり前のことだと言う口調で久井から答えが返ってきた。
なんだよそれ、感じ悪いな。
彼が言われた事をそつなくこなす事を一番に考えているのなら別だけど、僕はここで少し感情論に訴える事にした。
家出したお嬢様は何も考えなしに飛び出したのでしょうか?
「それは私どもには及ばないです。早急にしなければいけない事は、お嬢様の身の安全を確保ですから」
こっちが本音なのかな、それとも?
僕が考える暇もなく久井は僕に言葉を残して去っていった。
「後ほど伺わせていただきます、出来れば有用な情報を下さるととても嬉しいです、その際には気持ちだけでも受け取って下されば幸いです」
報酬をいくら積まれたとしたって、僕は傍観者の立場から当事者にはなりたく無いからね?
会釈して制服姿に紛れながら、久井は学校から去っていった…多分、これで学校に居座り続ければ彼は不審者として警備員さん達と大立ち回りを演じる事になるだろうし、とにかく最悪の事態ははパス出来た…
久井の視線がこっち向き続けてたから良かった。
僕は緊張をそのままに教室まで一人で戻ったのだった…
レイピア、実はの話があるんだけどいいかな?
僕はレイピアと来宮さんと打ち解けつつあったモノトーンの三人組からレイピアを呼ぶ。
「はーい!はい?」
レイピアは振り返って素直に僕の席まで来てくれたので、こそこそと廊下へと誘導する。
少なくとも教室では出来る話じゃないからね、それはレイピアには伝えておくけど。
話があるんだけど、噓だと思ってもいいよ。
「涼君が私に嘘なんてついたことないでしょ、ささっなんでもどうぞ?」
どうして君はそんなに無条件で僕の事信用してくるんだと思いながら、入学式に久井君が来てたんだけどと僕は直接要件を伝える。
それを聞いたレイピアは怒りとも困惑が混ざった顔を一瞬だけ見せて、眼をつぶる。
「楓は私について何か言ってた?」
特には無かったよ、探してほしいって念押しとお嬢様の身の安全が第一なんだってさ、どうにも慕われるみたいだねー
「ちゃんと心配してくれるだね、楓は。
それだけでも家出したのは正解だったかも」
え、レイピアさん?
「うんうん、それは副産物みたいなもので私がこうなった理由は涼君に話した事が全てだよ…顔も出さないしその癖過保護な親に嫌気がさしたんだって、それは本当だよ」
真剣に言うけどさ、その言い方は嘘が含まれている時の言い方だよ、と内心そうは思っていても僕は口に出さない。
まだ家には帰りたく無いんだねと改めて僕はレイピアに聞いた。
「もっちろん! まだまだ私は帰らないよ!だって涼くんが隣にいてくれって言うんだからしょーがないよね!」
う…ん? 僕そんな事言ったっけ?
「そうそう! ひとりぼっちは寂しいもん!ひとりが好きな人はいるけど、ひとりで全部何でも出来て完璧な人なんて居ないよね?」
そうだね、全部1人でやれたら…良いかもしれないね。
「私はみんなで仲良くしたいけど、涼くんはどう思う? 1人で完璧になりたい?」
なんでも出来るのとなんでもするは違うからね、というか話がずれてるって。
「えへっ?」
とぼけてもだめだからねレイピア、それで…君はこの三日間を家から出てみてどうだった?
何か変わった? 何か変えられる思った? これから…どうする?
「そうだね…私は今が大事かなって」
今が大事…そうか、でもこの状況をそのまま続けるのって多分難しいよね。
久井さんもここまで来てるし、僕らは大人じゃあないから保護者って言うのがどうしても必要なんだよね。
「そ、そしたらマリアになってもらえば私は寮生になれるのかな?」
…多分、それも難しいと思う。
「どうしたらいいの? 涼くんは知ってる?」
レイピアの父親が彼女を虐待しているとかそもそも養えるだけの収入状況じゃないとか…
方法と条件はあるにはあるよ、世の中には僕らにでも出来ない事はそんなに無いんだ。
けれど、選択肢のカードを見つけられるか、交渉のテーブルに対等に座れるかはとても難しい。
「その感じだと多分頭のいい涼くんでも知らない事だったり、私じゃ出来ない事なんだよね?」
話ながらレイピアの表情は曇ってしまう。
僕から出来る事なんて精々うそをつくこと位しかないんだよ、問題ごとを持ち込んだら万事解決なんて夢の道具は無いんだって、それは分かってほしい。
沈黙は金雄弁は銀って聞いたことがあるけど、僕は銀のほうが良いかな、だって金より良いって漢字だもん。
結局はレイピアが父親をどうにか納得させるしか方法は無いんじゃないかなって思うんだけどな…
本人達が多分それを望まないし、さっきの話で言えばそもそも交渉のテーブルに座ろうとしないだろうから… 部外者同士で決めたことに従わせるのが良いんだけど…久井をこっち側に取り込めるかどうか…
「涼くん? ちょっと顔怖いけどだけど大丈夫?」
ううん、ちょっとねー、自分の出来る事とできないことを出来る事をちゃんと整理しなきゃって思ってさ、僕は比較的に何も出来ないからね。
ないものねだりはしない事、常識を捻りだして丸く収めれれれば僕の勝ちだ。
それだけ分かっていれば万事上手く行ったなら、僕は傍観者のままでいられる。
普通でいられればいいし、僕は背中に背負いたくないだけなんだよ。
「そんなこと言っておいて~涼くんは実はやればできる子だって私知ってるよ? もうちょっとだけ涼くん…私に協力してくれないかな~?」
何その拗ねた子供をあやすみたいな口調、僕は協力にはそれ相応の対価が必要だって思ってる人だよ?
「そ~なの?そしたらね~」
レイピアは少し考えて閃いた様に口火を切ったのだった…
次回へ続く!




