陽だまりエントランスその4
僕が思う一番いい展開はは何も起こらず、激しい異変や衝撃のないまま、緩やかに世界が終わってしまうことなんです。なんて、自己紹介で言えたらいいのに。
僕はたまに山の様に積み上がったものを一気に壊せたら楽しいのにななんて思う。
自分の苦労を自分の手で一瞬にしてふいにしてしまうのは一体どんな感覚なのだろう…
ええと微風さん、何故僕らは見知らぬ人に睨まれているという状況になっているのかな?
「おおぅモノ、貴様はどのクラスなのだ?」
モノと微風に呼ばれた男は髪が長く、ちょこちょこと跳ねている。
僕よりも少し背丈は小さい位で、眉間にはシワが寄っていた。
「あー、それがね何故かは知らないけど、ここのクラスってなっていたよ、微風は?」
僕らから目線を離して自分の席に荷物を置きながらモノという男は微風に尋ねる、席は微風の後ろみたいだ。
「この場に我が居る時点で察していよう? モノ…貴様と我は同じ運命を辿るのだよ!」
「…君がそうしたいならいいけどさ、キャラ付けされて苦労するのは君だからね。 変人扱いがデフォルトになっても僕は何も感知しないし、無視するけどいいの?」
微風の高くなったテンションにモノは水を指す。
どうするのこれ、二人が黙っちゃったら誰もこの空気変えられないって。
「うむ、それではモノよ、ここに居るのは我がクラスの同輩達だ。 今の内に自己紹介でもするのはどうだろうか!!」
僕もお喋りなレイピアが空気を読んでるうちに済ませた方がいいと思うよ、多分質問攻めにさせるだろうから。
ひっそりとそんな事を思いながら、僕らの視線はモノと呼ばれた男の子に集まる。
「え、何、微風、このみんなもう知り合いな訳? 本当に? 手回しはやっ、微風にそんなコミュニケーション能力あったっけ?」
「おい、モノよ、それは流石に我に失礼だろ…」
「あー、はいはい、分かったよ。 あとでなんかするからそれでいい?」
「む、それはいいから、ここの諸君は貴様の事を知らんのだ、何か簡単に自己アピールをしたら良いんじゃないか?」
モノは面倒だと言いたそうにため息を吐いてぱっぱと手短に自己紹介をした。
「ええと…微風の知り合いのも、モノトーンです。
微風とは同じ中学でした、あーっと…好きなものとかは…漫画と後は体を動かす事とが案外好きだったりします、よろしくお願いしま…す」
目線を逸らしてモノトーンは僕らに頭を下げる。
「モノトーン…白黒? 分かった!パンダだ!」
突然ですがここに来てレイピアの連想ゲームが開始されました、静かだなーって思ってたら何を考えてたんだレイピア…
「あー? パンダね、嫌い…じゃ無いよ、連中みたく日がな一日ゴロゴロしてたいって思う時もあるし」
「可愛いよね! コロコロしてて、丸くて!」
相変わらずレイピアはぐいぐいと人と押し相撲するよね、押しすぎると引かれて転ばされたりしそうだけど。
「…よく木から落ちたりするのを見て何やってんだかって思ったりする?」
「するする! あーっ! また落ちちゃったー!って思う!」
あれ、意外とモノトーンちゃんと話を返してくれてる…
「あ! 私の事って言ったなかったよね! 私はレイピア! それでこっちの男の子が涼くんで…こっちが来宮さんだよ!」
レイピアに呼ばれて僕と来宮さんは会釈をモノトーンに返す。
「なるほど北村さんに来宮さんと、レイピアね…ん、分かりました。なんか衝撃な事とか起きなければ、覚えられると思う。これからよろしくお願いしま〜す」
モノトーンからは脱力感のある声が返ってきた。
「うむうむ、まー何はともあれ見知った仲がいると言うのは心強いものだな!」
微風はモノトーンの前の席、レイピアはその更に前で、僕が列の二番目…あれ?この席順番って名前の順番? でも、微風は本名じゃ無いからこれも判断がしずらいよね…
でもね、ちょっと待ってほしい…僕の後ろの席は来宮さんなんだよね。それを踏まえて考えるとやっぱりこの席の順番って名前の順なんじゃ…
そんな渾名の人たちの本名探しは置いておいおこう。
教室には他にも数人がいたけれど基本的にはみんな互いの様子を伺い、探り合っている最中だ。
相手が本当に信用に足る人物か、ひととなりは自分と合うかどうかだ。
そしてこの教室で徒党を組み、最大派閥として発言力を得てその実権を握るのはどんな人たちになるんだろうか…
少なくとも今の時点で僕らはモノトーンを含めて五人、クラス内ではある程度ものが言えるかもしれない…
なんて、四月の学校開始で知り合いがいる時点で僕にとっては十二分なんだけどね。
「みんなの名前がわかった訳だけど次は何の話せばいっかなぁ〜?」
レイピアがうーんとおでこに手を当てて考える素振りをする。
「そうですね、好きな事やこれからどんな事がしたいかと言うのはいかがでしょう?」
来宮さんがさらりと話題を出してくれたので、僕等の視線は来宮さんに向かう。
「まずは言い出した私からですね…朝早くに起きて掃除をしてお昼前にうとうとする事ですね」
来宮さんの好きな事はあまり共感を呼ばなかった様で、みんなからの反応は少なかった。
「そうですか…」
来宮さんは少し残念そうな顔をして「それなら、中学生の時は何をしていましたか?」と話を切り替えてきた。
来宮さん…多分だけど自分の話をした後は誰かに発言権を渡されないと、多人数がいる状況だと誰も話に乗れないと思うんだよね。
僕はそう思いながらもこのグループ内で下手に目立ちたく無いので助言はしない。
話は来宮さんとレイピアが中心となって、繰り広げられ、微風さんとモノトーンさんもぽんぽんと会話に参加していたので、僕達は学校初日で五人のグループを作ることに成功した。
このアドバンテージは実に大きいよ。
僕一人だったら多分話したとしても会話が続かないだろうからね、一人きりで四月五月と過ごさなくて済むもの。
「涼くんはねー、私にカレー作ったくれたんだよねー?」
そんなこともあったね、それ以降はおざなりなものしか作れてないけど。
「何っ、やはり先日のあの食欲をそそる匂いはカレーだったのか」
そういえばか微風さんはこれまでに何か作ったりした?
「いや…我は基本的には中食…だな、何か作る気も起きずにこの数日間過ごしてしまった…寮の食事がスタートするまでの辛抱だからだが」
痩せ型ですらりと長身の微風は見ていて不安になる程に体のパーツが細い。
「微風、あんまり食欲無いからって朝ご飯が抜けて昼しか食べてないなんて事は無いよね?」
「ま、まさか! そんな訳…あるわ、最近だいたいそんな感じの日だったわ」
お昼ご飯しか食べてないのはちょっと…ね。
微風が何故痩せているのか何となく分かったところで、話題はご飯の話に代わっていった。
先生の居ない教室は正に生徒たちの楽園である。
大人のいない国、子供だけの世界…それは時に残酷な人間関係を浮き彫りにする。
子供だろうと大人であろうと、爪弾き者が出来るのは予定調和なのだ。
「おはよーございまーす。はーい、皆さーん席に着いてくださーい!」
こんな台詞を言うのはこの場で一人しかいない、教師が遂にこの教室にやって来たのだ。
僕達も含めてわらわらと自分の席に座って教壇に立つ教師の姿を確認した。
「はい! ようこそ白銀城址学園へ、私はこの一年十組を担当させてもらいます古森りんです、はい。」
痩せ型の鋭い目をしているのに口調が可愛らしいこの人が一年間僕らの担任か…綺麗な人だな。
「はい、私の担当教科は数学系です、後は箏曲部の部活も持っています。 この後、入学式で演奏するので興味を持った生徒さんは部活動見学期間にはどうぞこちらへお越し下さいね」
古森先生は小さく静かな笑む。
古森先生は抑揚がついた話し方をしながら5分ほど事務的な報告とこの後の日程を説明する。
「そうですね、大体この流れで皆さんには行動してもらいます。 これまでで何か質問などはありますか?」
説明もわかりやすかったし、質問は来ないんじゃ無いかな?
「はい…古森先生、教室の後ろにいるこの方は誰ですか?」
眼鏡をかけた女の子が手をあげて質問するのと同時に生徒たちが一斉に振り返って、そこにYシャツにスラックスを着た男の人がいる事に初めて気がついた。
「あら…あららごめんなさい、紹介を忘れてしまっていたわ。先生、簡単に自己紹介をお願いします。」
古森先生がもう一人の先生らしい人にぺこぺこと謝ると、男の人は静かに口を開いた。
「どうも、一年十組の副担任をさせて戴きます。
枕木夢路と申します、担当教科は社会系で古森先生よりも少しだけ後から教師になりました。
担当している部活は男子バレー部です。背の高い方でもそうで無い方も是非いらっしゃってくださいね」
低い通る声で静かに注目を集めた枕木先生はそのまま話を古森先生に戻す。
「はい、という訳でですね、進路や勉強で相談がしたい時は先生達に是非とも聞いてください。」
古森先生は僕達の視線をぱんっと手を叩いて誘導する。
「先生達は皆さんよりも少しだけ色んな経験をしています、だから先生によって見方と言い方は違うかもしれませんけど。
皆さんの為に協力は惜しみませんからよろしくお願いしますね!」
先生の話もそこそこにそろそろ入学式の為、体育館に行かなくてはならない様だ。
古森先生と枕木先生、二人の教師と一年十組の二十八人の一年間が今始まる!!
次回は続く!




