提案と対案
自分の力では対処しきれない物事が突然、僕らに襲い掛かってきた時に皆はどんな行動取るのだろう。
諦めてそれも人生だって受け入れる? それとも反抗してみたりするんだろうか…
僕は余りにも自分にとって不都合なら抵抗するけど並大抵のことは受け入れちゃうんだよね。
なんというかさ、その労力を他の事に充てられれば事態が好転するかもしれないじゃん?
そもそも物事は白と黒だけじゃないからさ~、あんまり諦めてばっかりでもしょーがない。
「補足しちゃうとあの部屋と隣の部屋は生徒さんが二人入っても大丈夫な様に作られているし、何なら隣の部屋は生徒さん二人で住まわれてますよ~?」
そ、それは僕の部屋とは別の部屋の話であってですね…僕の入室が決まった時には全く無かった話ですよ? それに、思春期真っ盛りの男女を一つ屋根の下に共同生活をさせるとか常識のある大人なら「普通に考えてそんな事させないと思うんですけど…?
僕はマリアさんと少女の良心と常識を疑わないけど…どんな事情があったとしたって、部屋に転がり込ませるって言うのは僕からするとちょっと有り得ないかなって。
この寮の管理人であるところのマリアさんに頼まれてしまうと何とも立場が弱いので、僕は断りずらさを全面に出しつつ、全力で彼女たちの提案を波風立てずにお断りする算段を頭の中で画策する。
「そうね…でもね、あの部屋から追い出されちゃうとレイピアは居場所が何処にも無くなってしまうの」
それは…実家が遠くって今すぐ帰れないとかそう言う事ですか?
僕の質問にマリアさんは意図的にレイピアと自称する少女の顔に目を向ける。
「生憎と学校の持っている女子寮の部屋は、全部生徒さんが入室してしまっているので彼女には泊まる場所の宛てが今無い状態なのよね~?」
レイピアは静かに縦に首を振る。
そうだとしても、ひと先ずは自分の家に帰って準備が出来てからこっちの学校に来るとか出来ると思うんですけど…
レイピアさんだって見ず知らずの人といきなり住めって言われたって困るでしょう?
プライベートな部分だったり、ナイーブな部分があるだろうからそこがやっぱり問題としてはある訳で…
僕としては反対です。
はっきりと言っておかないと、有耶無耶にされてしまいそうな気がして僕は早めに釘を刺す。
今日泊まる場所が無いっていうのはそれこそ問題なのかもしれないけど…
それこそ現代社会ならネットカフェとかカプセルホテルとかで、お金は掛かるけど雨風は凌げるよね。
マリアさんはごねる子供に諭す様な口調で僕に話す。
「北村君には迷惑が掛からない様にはするわ。 何よりもこの話はこの学校生活の間ずっとって訳では無くて、一時的な話に過ぎないの。お願い出来るかしら?」
寮の管理人で学生寮で唯一の大人であるマリアさんにお願いと言われてしまっては一生徒からしたら従わざるを得ないんだよね…
レイピアさん、君さっきから借りてきた猫さんみたいに何も口を挟んでこないけどさ、それはさ…ずるなんじゃない?
マリアさんに話させてばっかりで、自分の事なんだよ?
僕は口には出さないけど頭の中ではそんな事を考えていた。
全くもって理不尽な状況、流されたら絶対碌ロクなことは起きないと分かる。後悔は先に立たずだけど、後悔する様な事態を予測して回避する事はできると思うんだよね。
「ふぅ…平行線ね〜」
マリアさんは僕を説得する気でいるみたいだけど、僕にとってデメリットしかないこの話を続けても何も始まらないと思うんですよ。
マリアさんは私にはこれ以上かける言葉は無いみたいね…と小さく呟き、一息ついてからお茶をゆっくりと飲み切ってコップを机に置いた。
「分かった任されたよマリア!! 」
レイピアと呼ばれた少女が堰を切ったように声を出して明るくなって、寮室での仏頂面のレイピアはどこへやらはにかんだ笑顔を向けてきた。
「私はレイピアって言います。 キミのお名前はキタムラ…リョウ君で良かったんだよね!?」
合ってるけど、マリアさんから聞いたのかな?
「そうだよ! それでねそれでね!私はちょっと訳があって家を出てきちゃったからあの部屋を出ちゃうと行くところが無くなっちゃうだー、困っちゃうからお願いします!!ちょっとの間だけでいいの、あの寮室の和室だけ貸してくれませんか!!」
お願いします!!と大きな声でレイピアは勢い良く頭を下げた。
行くところがないって言うのは分かったけどさ、嫌な事を言うけれど僕にとっては君を泊めることでのメリットが全くないからね。
損得勘定だけで話がしたいとか言うわけではないけれど面倒な事態は御免被りたい…
「う~んそうだよね~、ちょっと待ってね今いい考えを出してみーるからね!!」
レイピアははうーんと唸りながら首を傾げて考えている。
あ、あの聞いておきたい事があるのですが…
「えっとなになに~?なんでもどうぞ~?」
レイピアさんは何時からこの寮で…僕の部屋に?
「そうだねー、マリアー多分一週間くらい前だったと思っているけど合ってるかなー?」
「そうね~丁度その頃だったわ~」
成程…その時期は僕の引っ越しの日程が色々あって伸びた頃だ。
確かにそこで身寄りのない子が迷い込んで来て「行くところが無い」なんて言ったら空いている部屋で寝泊まりしてもらおうかって話になるのは十歩ぐらい譲ったら分からない話じゃない…か。
「よーし、この手でいこう…私に打てる手で多分涼君に一番効き目のある作戦だと思うんだ…」
何かレイピアには僕の首を縦に振らせるような必勝の作戦を思いついたみたいだね。
言っておくけど、僕に泣落としとか理攻めで来られても議論になるなら僕は少しだけ負けない自信があるよ? さあ、どんな提案をしてくるのかな?
「わ、私はね…あの部屋の三分の一を今占領している状態にある訳なので、それを続けていくのであれば必然的に色んな料金が発生するよね?」
それは…そうだけどそれとこれとは話が違う気がするんだけど…いまいちピンと来ないな。
「そうなの? そしたらね~教えてあげる!!」
レイピアはお茶の入ったコップをテーブルにおいて僕の事を真っすぐ見つめながらこんな提案をしてきたのだった。
「家賃と光熱費等と30%、つまりは三割を私も支払いをする代わりにあの和室に一か月間だけ住まわせて下さい!!お願い致します!!」
えっと…それは…待ってレイピアさんちょっと…
「やっぱり、難しいのかな。そう…だよね…」
家賃の三割を負担してくれるのは…え、本当に?えぁ…ちょっとそれはなんて言うか…揺らぐかもしれない…。
次回に続く!!