陽だまりエントランスその3
実は五周年なのですが記念企画とか考えるだけ考えてます。
何か出来れば良いなぁ…
新しい季節、新しい環境、何かを始めるきっかけには最適だとな季節だ。
学生は一つ進級するし、社会人の人だって環境が変わる時だってあるから慌ただしく緊張感がばら撒かれているのが春だと僕は思う。
緊張しているのは僕もそうなんだけど、みんなはどうなのかな?
新しい事を始めた人は自分にはなかなか難しいと思うことがあるのかもしれないね。
ま、今の僕がそんな状況だから何かを言える様な立場ではないんだけど。
慣れるまでの辛抱だよって言うのが一つと、自分に合わないと思ったら素直に逃げちゃっていいと思う。
それが最近の人の考え方だと思うし、結局は自分を守れるのって自分しか居ないんだよね。
これがきっと普通だと思うし、普通であって欲しいと僕は切に願うよ。
さて、そんな事よりも新入生である僕らは自分たちの教室まで無事に辿り着いたわけだけど、クラスメイトが一人、見知った顔を発見して僕は安心…安心はしてないね。
隣にいる座敷わらしさんのお陰様で、僕はまるで一息もつけていない。
この場合は座敷わらしさんがいる状況を人が持っている適応力で慣れてしまうしかないけど、それもいつになったらなのか…僕には分からない。
春の勢い任せに吹く風の暖かさに舞い上がってはみたけれど、着地点を見失った浮ついた気持ちはどうすればいいんだろうね。やれやれ…
座敷わらし的な同居人のこの家出は、一体どんな結末を迎えるんだろうね。
まぁ、乗りかかった船だし、僕も船頭は出来ないかもしれないけど、航海士位はやれればいいなって思っている。
今日だって昨日だって、僕とレイピアは考えて話し合った。
それ以上のコミュニケーションは無いからね。
今この瞬間だって、この子にとっては当たり前じゃない。
「涼くん、この人って誰?」
今色々と中途半端だからちょっと待って。
「ふっ、我か…遠からんものは音にも聞け、近場寄って見よ、我こそはそよめく黒き疾風、訳して微風也」
あー、そよかぜってそう言う意味だったんだ。
なんか本人が満足そうだから突っ込むのは僕はしない。
「どうしてそんな名前になってるの?」
レイピアはサラリとブーメランを微風に投げた。
本名ではない名前で名乗るって事は、本名が知られたく無いとか、自分が好きじゃ無いとか色々と事情があるんだよ、君みたいに。
「あー、これか? これはだな…まぁ成り行きだな?」
え、成り行きなの? なりゆきでそんな名前になるの?
「そう…色々と事情があってだな、真名を名乗ると不都合な事が起きる可能性があるのだ」
何か訳がなければわざわざ別の名前なんて考えて名乗らないでしょ…ね、レイピア?
教室には机と椅子が並べられ、机の左端には校舎入り口にあった名簿の名前が書かれていた。
名前の順だとするとレイピアとは離れた位置になりそうだけど…
取り敢えず僕らの机はほぼ同じ場所に固まった様だ。
バックを下ろして、先生がやって来るまで話し込むことにしよう。
「一先ずは北村君と御両人は何とお呼びすれば良いのかな?」
席に誘導してみんなが座ったところで微風が聞いてきた。
「微風さん初めまして、私は来宮優花と申します。
中学はこちらの横須賀中学校です、他に何か紹介できる事は…特技は茶道と弓道を少々している位ですね」
来宮さん弓とか出来るんだ…なんか袴似合いそうだよね。
今まではゆったりとしたイメージだったけど、真剣な眼差しの来宮さんもそれはそれで見てみたい気もする。
「ほうほう、なるほど…来宮さんと言うのだな、あい分かった、これからよろしくお願いします。
とだな、我も簡単に紹介させてもらうとしよう」
そう言って静かに僕らの視線が自身に向くのを待って彼は自分の紹介を簡単にしてくれた。
「微風だ、大した理由があるわけでは無いが名前は変えている。
中学は隣県の中学で、この学校には色々訳あって受けてみた。入学出来たがわりと奇跡的に入れたのでこっから先やっていけるかは不安がある。
そう…だな、ほかに特筆するべき事もあまりないとは思う…あ、小谷荘寮生なのでそこの両名とおんなじ場所で生活をしているな…ま、我の紹介はこの辺にしておくとしよう」
…確か微風って絵を描けるんだよねと僕は話を広げるため、救いの手を伸ばしたつもりだったのだ。
「ま、まぁ…描けない事も…無いが我の場合には下手の横好きなのでな、あまり人様に見せられたようなモノでは無いのでな、出来ればそこは触れないでいてくれたまえ」
またまたー、僕なんて棒人間とかしかまともに描けないんだよーそんな自信なさげに言わないでよ、
出来る人の「出来ない」って言うのは常人より数段は出来るんだからさ。
「そうは言うがな、自分で満足のいくものが作れない時点でそれらはただのガラクタなのだよ」
微風は静かにそう言って教室の外を向く。
「私は絵とかよく分からないけど、何かを作れる事ってスッゴイことだと思うよ!
何んにも無い所から自分の力だけで作り上げられるなんて私には地面がひっくり返るくらいの事だもん!」
微風は一度息を吸い込んで、どこかに置いてきた自信の笑みを取り戻してそこからは結構饒舌に話をしてくれた。
「なん…だと、来宮さんのご実家神社なんですか…!? これは来宮さんが生き仏な可能性があるな、今のうちに拝んでおけば救済措置で我の極楽往生も待った無しだな!!」
手を擦り合わせて南無阿弥陀仏と唱えてみても勿論、何が起きるというわけでもない。
レイピアまで面白がって「クワバラクワバラ」なんてやりだすものだから、他の生徒からすれば訳の分からない光景になっていて、僕は苦笑いを浮かべて今すぐここから立ち去りたい気分だった。
「あのー、私の神社の主神は阿弥陀仏でもないですし、道真公でも有りませんのでその詠唱は無駄骨になってしまうかと…」
あ、来宮さんそこはちゃんと答えなくていいと思いますよ、多分二人ともふざけているだけだと思いますから。
「え、そうなのですか?」
そこのなむなむさん×2、いい加減に来宮さんを崇め奉るのは止めなさい、この学校を熱川神宮の敷地にでもするつもりじゃないよね?
来宮さん真面目で優しそうだから、誰かの為に損をしたり騙されたりしそうで心配になるよね。
まぁ、流石にそんな事は本人には言わないけど。
「なむなむって涼くんそれ、お坊さんって言いたかったの?」
そう、なむなむ唱えてるから。
「私のは祝詞とか言ってたつもりなんだけどなー」
いや、普通の人は祝詞とかお経とか区別つかないって。
「本職の人がいるから本物はどんなものなのか、いい機会だし教えて貰うといいよ、ね?優花さん?」
それはそうだね、せっかくなので来宮さん教えてください
「あ、私ですか? ええと…こ、今度神社に来てくださったら教えて差し上げますよー?」
小恥ずかしそうに来宮さんは勿体つける。
「そうかー、それならまた遊びに行くからね!」
レ、レイピア…神社に遊びに行くのって結構罰当たりな気がするんだけどいいの?来宮さん?
「いえ、基本的には人がいて、賑やかな事を咎める神様はあまりいらっしゃいませんよ。
お社に誰もいなくてしんと鎮まっている方が落ち着きはしますけど、やはり神様も寂しいがり屋なんです」
へー、そうなんだと感心するレイピアとふむふむと頷きながら考え込む微風、
「そう…だな、今度機会を作って参拝をすることにしよう」
と呟いた後で来宮さんに質問する。
「それはそれとして…来宮さんに聞いてみたい事があるのだが、よろしいか?」
「私に答えられる事でしたら、大丈夫ですが…何でしょう?」
「来宮さんが学校でこうして授業を受けている間は神社の管理はどうしているのかと少し気になったのだが…」
「あぁ、それについてはですね。 基本的には氏子さんに協力して頂いておりまして、両親がいない代わりに何かとお世話になってるんです」
ご両親の事は聞き辛いけど、僕ら二人は来宮さんのご両親が何をしているかを知っているので互いに苦笑いになる。
「そうか…それは失礼した、あまり気分の良い質問ではなかったな申し訳ない」
微風は素直に来宮さんに誤ったけど、来宮さんは困った様子で返す。
「あの、両親はいるんですけど…実は海外を飛び回っていまして…」
「は…?」
微風から間の抜けた声が聞こえてきたのは気のせいじゃなかった。
大変なのはお互い様だからという話に落ち着いて、同じクラスなので協力出来ることがあれば、協力を惜しまないという話に落ち着いた。
「あ、それでしたら…お社の業務を学生さんに体験して頂いて、単位に変える催しがありまして…」
微風に畳みかけるように来宮さんは、ボランティア活動を単位換算する制度を紹介してきた。
「認定としては週一日三時間活動を一ヶ月していただければ0.3単位の換算になるみたいですよ!」
単位に換算されても、最低限の事をしていれば単位って足りるものなんじゃないの?
「まぁ、学校という環境が全てという訳でもないからな、決まった時間に決まった事をすることが苦手だったりする奴と、授業というのは退屈で仕方ないのかもしれんな」
自分達で調べるんじゃなくて、あくまでも誰かから受けるものと考える…
そこまでして勉強する意味ってなに? と聞かれると疑問に感じる人が居ても不思議じゃないかもしれない。
「ま、学校に来てまでボランティアやら余計な事に手を伸ばし始めると手が回らなくなって、目が回って、首が回らなくなるからな」
回らないのか回るのかどっちかにしてよ微風…
「そんな事よりさ、なんかこっちをじっーって見てる人がいるんだけど…涼くん、私たちうるさかったかな?」
レイピアが僕にこっそり指差してくれた教室の前側の入り口に誰かが立っていた。
ドアに寄り掛かりながら何故か此方を睨みつけている。
レイピアの言う通りもしかして煩かったのかもしれない。
でも初対面のクラスメイトを睨み付けるってのもどうかと思うけどね…
「ん? どうかしたか北村さん?」
微風が僕らのやりとりに気づいて話に加わる。
あの人がなんかこっちを睨んでるみたいで、僕ら声のトーンを下げようかって、話していたところなんだ。
「んー ?…御三方暫し待たれよ」
微風はそう言って睨み付けている男子生徒に向かっていった…
え、微風ってそんなに誰にでも話しかけられる人だったの…?!
彼のちょっと意外な一面を見れたのかもしれない。
と感心をしていたらこっちにその男子生徒を連れて来たものだからさらに僕らは驚くのだった…
次回は続く!!
次回予告
お嬢様を探して三千里、赤髪の美丈夫さんのある話。
「待っていていて下さいね、お嬢様…わたくしめが必ずお側に馳せ参じます故!!」
次回は次週金曜日午前九時予定しております。
宜しくお願いします




