淡色ホープその2
一週間ぶりです。
僕は逆方向の列車に乗ろうとするレイピアを制止させてホームまで引っ張り出した。
だからさ、次になるのはあっちから来る電車だって言ったよね。え、聞いてるフリして別のこととか考えてたの?
「うんうん、聞いてなかったわけじゃないの。うーん、聞いててて分かっててもさ、その通りに出来ないことってあるよね?」
え、本当に?そんな事ある?僕はその感覚は分からないんだけど…そう言って僕は頭の上に疑問符を浮かべる。体が勝手に動いたとか僕にはそういった経験がないので分からないよ。
「そっかー、涼くんにも分からないことは有るんだね」
僕が知っている事なんて雀の涙位のことしかないよ、知りたい事とかもあんまり無いからね。
僕の周りの半径5m位が平和で、平坦で何事もなかったかのように過ぎてくれればそれでいいんだよ。
勿論必要なことは最低限出来るようにならないといけないと思うけどね。
それぐらいの事しか望まないよ。大金持ちになりたいだとか、何かに努力した先に成功したいなんて全っ然思わないね。
「りょーくんはあれだね!びーがんってやつだね!」
…え、僕お肉とか普通に食べるけどレイピアが何を言いたいかはニュアンスで分かった。
それを言うなら草食系かな?
「お祈りをするのが仕事です、アーメン」
それは聖職者だね。
「私が手ずから育てました、鰤です!」
ん?養殖?
「水金地火木土天冥界!」
えっと…なんか順番間違えてない?太陽系?
そんな語感が合っている様な言葉をジェスチャーと一緒に言わなくても…なんで連想ゲーム?
「んー?なんとなく!」
レイピアご突然顔を空に向かって両手を組んだから、
意味を理解するのにちょっと掛かっちゃったよ。
なんとなくで連想ゲームを始めないで?
「まぁまぁ、いいじゃないですかー減るものでもないし。次の電車まで後十分位あるんでしょ?折角だしお話しよーよ!」
レイピアには緊張感という言葉を是非とも辞書で引いて欲しいよね…僕は外面は平気な顔してるけど内心バクバクなんだよ、人見知りだし。
馴染めるかなとか、色々杞憂に思えることまで考え込んでしまうから。
「ねえ、涼くん」
レイピアは何度となくこの約三日程何度も僕を呼んできた。
最初から何故か親しみを持って接してきたこの子に、僕は何かしてあげられる事は有るのだろうか。
同級生の異性に初対面でこれだけ距離を詰めてくるのはどうしてなんだろう。
とか、他にもこの子についてまだ謎な部分はあるけど…
「涼くーん、涼くんはどう思う? クラスとか一緒だったらどうする?」
あ…そんな仕組まれたみたいな事起こるかな?
もしも一緒のクラスで同じ寮室ですなんて事が分かったら? あー、都合が悪いどころの騒ぎじゃなくて大問題だね。
れ、レイピア…くれぐれも学校の敷地に入ったらその…適切な感覚で接してね?
何で?と言う顔で僕を見てきたレイピアに、僕らは体裁上学校では知り合いとか、仲のいい親戚とかにしておこうと説明する。
「ふーん、別に仲が良くってもいいと思うけどな〜私と仲良しだと嫌なの?」
レイピアはむくれた不満そうな顔をする。
いやだって…学年が始まって早々に変な目で見られるのは僕は嫌だから…
学年の生徒同士の恋愛事情なんてあの閉鎖的な空間にかかったら光の速さで尾鰭がついて伝わるんだから、僕は嫌だよ。
「ははーん、さては涼くん、私との根も茎もない噂が立つのが嫌なんだね!」
そうそう、根も…あれ、茎だっけ?無いのって
「え、もしかして実も無い?」
それは違う慣用句だと思う、正しくは身も蓋もないだったよね?
「実も無いし、茎も根もこの際葉もないだよきっと!」
この際って…根も葉もないが本当の言い方なんだっけ?
そんな実にどうでもいい事を薄ら思い浮かべながら考えていた。
僕は目の前の少女とその景色がなんと無しに当たり前になりつつあるのがとても嫌だった。
僕は外面は良くありたいと思うから、今はレイピア相手になんとかなっている。
これで4月、5月と日を重ねていく事で慣れていい加減になったりするのは勘弁したいと思うのが僕の本音。
「でもさー、みんなもっと勉強がしたくて高校生になるんだけど、実際のところってみんなが行ってるから行くとか、親が行けって言うからとか、もっと言えば働きたくないからなんだよねー」
レイピアは伸びをしながらこんな事を言ってくる。
「涼くんは何の為に勉強しようって思うの? 私は涼くんの事もうちょっと知りたいな?」
レイピアはなんでこんなにも小柄で、いつもはまるで子供みたいにはしゃぐのに、どこで知ったのかこんな事を言って来るので僕は面を食らってしまう。
…レイピアが言った通りなんじゃないかな、みんなが行ってるからだと思うよ、大人の敷いたレールを歩いた方がやっぱり安心だしね。
僕もほぼ義務化されてるし、そっちに行くのが「普通」だから行こうと決めただけだかな。
僕は少し考えて答えが何も出てこなかったので適当に繕っておいた。
春だからって何もかもが新しく始まる訳でもないのに、何かに期待しまうのは本当に僕らしい。
「ふーん、そんな感じなんだねー」
質問をしてきた割にレイピアの反応は淡白だね。
「うん? 私はほら、みんなと一緒って時間が勿体無いと思われて一人だった事が多かったからさ、そのみんながAだからAにするみたいな感覚がいまいち分かんないだよー」
レイピアにはレイピアの考え方とか感じ方があるからそれでいいと思うよ。あんまり他の人とズレた事を言わなければね。
「ズレてるって思えば私は多分すっごいズレがあるのかなぁ」
どうしたのレイピア、何か不安な事があるの?
「それはそうだよー涼くん!私が毎日決まった時間に起きて決まった時間に寝るみたいな事ができる人に思う!?」
…僕は初めて出会った時の事を思い出して察しがついたし、ここ二、三日のレイピアの様子を見ていれば分かる事だった。
「レイピアは寝方が頗る(すこぶる)悪い」
確かに、晩も十時半には寝室に入って電気消してるし夜更かしをしている様子は全くない。
しかし問題は起きる方で、この三日間まるでバラバラの時間に起きてきた。真ん中の日なんて午後だったもんね。
「今日はゆっくりだから良かったけどどうしよう…いっつもって何時に起きればいいの、教えて涼くん!」
そ、そう…だね、例えばだけど朝の支度の時間を考えて…学校までの通学時間を足すと…登校時間が830でで、それだと8時までには起きておきたいかな?
因みにレイピアは最初の日以外はこの時間に起きてきた事がありません。
「お、おう…のー」
レイピアは状態異常「絶望感」に襲われてしまった!
両手を頬につけて有名な絵画の真似をする。
冷たい事を言うなら明日一緒にいるかどうかも分からない訳だし…
「涼くんどうしよう、毎日目覚まし10個とか用意しないといけないかもしれない…!」
そんなに目覚まし要らないでしょ…眠り深すぎるよ。
「毎日花火とか爆竹鳴らさないと起きないかもしれない!」
そんな冗談はさておき、早起きは三文の徳だよレイピア。
「そんな風に言うけど起きたいなーって思って起きたら、時計がてっぺんを指して一直線に並んでるの!不可抗力だよ!」
本当に? そろそろ電車来るから立ちながら寝る様な事はしない様にね?
「涼くんそれは流石にひっどいんじゃないかな‼︎?」
近くの踏切が鳴っている。二人で冗談を言い合える時間はもう残り少ないのかもしれない。
入学式が終って帰る時間になったらレイピアは裏の門から出てね、一応だけど。
「えー、私方向音痴だから帰ってこれなくなっちゃうかもー?」
何そのしらっこい嘘、地図渡してお使いに行ってもらったけどちゃんと帰ってこれたよね?
「えぇ〜楓が来るのは小谷荘のお部屋でしょ〜?
それなら私、一旦荷物とかまとめてマリアと一緒に映画見てるから、大丈夫だよぉ〜」
なんでそんなに準備周到なの? あ、そうだ荷物もまとめてくれたしこのまま家に帰るのは….?
「」
うそだよ、ごめんって…冗談だから大丈夫だよレイピア、そんな顔しないでね? 折角の一生に一回しかない高校生の入学式なんだからさ!
「涼くんって…さ、人を和ませようとするのとかすっごい苦手でしょ」
ホームに停車した電車に先に乗り込みながらレイピアがぴしゃりと僕に言い放った。
そうかもしれない…発車のベルが鳴るのに僕はその場に立ち尽くしてしまい、レイピアの後から慌てて駆け込み気味に電車に飛び乗ったのだった…
次回は続く!




