番外編 〜レイピアはじめてのおつかい〜その2
三人称風小説の実験回です。
下手なのは許してください。
悪い事が続いてしまったとしても、良い事はやって来るんだ。
人生においてプラスマイナスを測るメーターがあるとするなら、今はたまたま…たまたまマイナスになっているだけなんだとレイピアはそう考えている。
何故かと、運が良いなと思える様な出来事があまりに最近多いからだ。
準備をしたけど行くところが無くて失敗しかけた家出をマスターや、マリアのお陰で雨風を凌げる場所を貰って食べ物まで食べさせてくれた事。
それに加えて、自分が寝泊まりをしていたのは、あくまでも寮の部屋の学生が来ないからで…まさか自分の提案を受け入れて、本当にシェアハウスみたいに計らってくれるとは思っていなかったのだ。
さて、話はレイピアとその同居人、北村涼のお馴染みの店になりつつある喫茶店ゆずの木に二人が向かうところから再開する。
何回行くんだと言われるかもしれないけれど、レイピアはここの味はどこか懐かしくて好きだった。
涼の方も特段と言ってこの辺りに詳しい方では無いので、他の選択肢はチェーン店になってしまう。
涼としてはそれでも構わないのだが、レイピアの素性が何となく良家とか旧家のお嬢様だと思うと選択肢にオレンジ色の牛丼屋を入れるのはどうにも気が引けてしまうのである。
「よーし、今日は何食べよっかなっー!」
寮の部屋でのんびりダラダラとしているのも良いけどやっぱり刺激があった方が楽しいよね。
小さな体で大きく背伸びをして、ちょっと鼻歌なんて歌ったりもして、レイピアは実にご機嫌だ。
「そんなにはしゃぐと転ぶよレイピア」
涼は溜息を吐いて歩調を早め、レイピアに追いつこうとする。
「そんな事ないよー」
レイピアはスキップをしながらゆずの木へと向かうガード下に入ってゆく。
前にもここに涼くんと来た事があったね、あの時は……私の秘密をちょっとだけ話したんだっけ?
レイピアは数日前の事を思い出して小さく笑う。
変だな、私ってこんなに笑うような感じだったっけ….?
「レイピア、ちょっと待って」
車道の音に掻き消されかけているが、レイピアには涼がそう言っている様に思えてそっと立ち止まる。
「あ、ありがと。レイピア…あんまり先に行かないでね、見てて不安になるよ」
不安になるの?なんで?レイピアは涼に聞く。
「なんか…ここに来るとレイピアが車の影と一緒にどっかに連れてかれちゃう気がする…」
思い詰めたような顔で涼がそんな事を言うからレイピアはそうなんだ、としか答えられなかった。
涼くんからしたらむしろ私が笑い飛ばした方が良かったのかもしれない。
そんな気まずい雰囲気は苦手なので、レイピアは気を使ってそんな事より涼くんはゆずの木で何が食べたい?と質問する。
話したい事は沢山あるのに話しかけてはいけない状況はレイピアは一番苦手な場面で、背中と首がむず痒くなって仕方ないらしい。
「そうだね、洋食ならオムライスかな?」
あの、何とかソースが掛かってるのがいいなと涼は付け加える。
なんとかが分からないと返し方が分からないよとレイピアは言ったが、大方デミグラスソースなんだろうなと察しは付いている。
それでも話を続けるためにちょっと惚けるレイピア、
「ご、ゴルゴンゾーラソース?」
「え、なにその口にした人を石化させてしまいそうなソース…」
違うよ涼くん、そう言う名前のチーズがあるんだよ。
あれ?意外…知らないの?
涼くんは自分よりもずっと物知りだと思っていたのでこの反応はレイピアには新鮮だった。
「そうだなー、僕は知ってる事よりも知らないことの方が断然多いよ。」
涼はそう言ってレイピアと並んで歩き始めた。
ふーんと返してゴルゴンゾーラチーズの話をちょっとだけレイピアは話した。
「チーズって….たまに凄いのが中に入ってるよね…」
発酵してるたべものだから言い方を変えると腐ってるんだよ、チーズとかって。
レイピアは涼に食事前にそんなこと言わないでと釘を刺されたが本人は特に気にしていない様子だ。
「マスター!こーんにーちはー!」
店のドアを開けるとそこは「喫茶店ゆずのき」古いレイピアの背丈くらいはある大きな振り子時計、黒い電話器や蓄音機など前の時代にタイムスリップをしてしまったかのようなレトロな雰囲気の置物などが所せましと置いてある、純喫茶をイメージしたカフェレストラン?である。
何度も出入りしているレイピアとは対照的に少し気まずそうに入店したのが涼である。
「いらっしゃいませ、どうもレイピア」
入口から見て右側のカウンター席、オークの濃い色合いを暖色のライトがそっと照らしている。
その中に佇むバーテン服を着こなす長身痩せ型の男こそ、この店の店主である。
マスター以外にお客さんから呼ばれているのを涼は知らないので店主としか呼んでいない。
「いらっしゃいましたよーマスター、お昼を食べに来たよー」
店内には数人まばらに座っている様で、それぞれゆったりとそれぞれの時間を過ごしている様だ。
「なるほど、それならいつも出しているランチセットがおすすめですね」
レイピアと涼を席に案内しながらマスターはそう口にする。
「ランチセットかー、うーんと…なにがあったかなー?」
メニュー表を受け取ってどれどれとレイピアが確認する。
「飲み物とメインが三種類の中から選べて税込み800円です。詳しくは表の裏側にありますので、お二人で仲良く決めて頂いて、決まったらお呼びください」
そう言ってマスターは涼とレイピアに深々のお辞儀をしてカウンターへ向かう。
涼はどんな経験をしたらあんなに若いのに落ち着いた雰囲気が出るんだろうと不思議だった。
「涼くん、涼くん!オムライスかナポリタン、それにグラタンだって!」
メニューのランチセットにはこの三種類の料理と好きなドリンク、サラダが付いてランチ価格でお安くなっていると書かれている。
ランチで800円ならディナーで食べに行ったらどれくらいなんだろうと嫌な予感がして、お昼とおやつ以外ではちょっとお店に入るのが怖いなと涼は思った。
「じゃー、わたしはーナポリタンと…ココアにしようかな?」
メニューを見ていたレイピアが早速頼む料理を決めてくれたので、涼もさくっと直感で選ぶ事にする。
「そしたら僕は…オムライスとアイスのカフェオレを頼もうかな?」
あー、そっちも美味しそうだよねーなんてレイピアは移り気でまた少し悩んで、グラタンに変える事にした。
「マスター!ご注文したいです!」
レイピアがマスターのいるキッチンへ声を掛けて料理を注文する。
「マスター!ここに書いてあるグラタンって何のグラタン?」
レイピアがやって来たマスターに質問をすると彼はマカロニグラタンですねと静かに答える。
「そっかー、マカロニ…ねぇマスター、これにトッピングとかって追加できる?」
涼はアドリブや突拍子もない事は好きではないので、レイピアの質問をギョッとして聞いていた。内心はやめて欲しいし、すごく恥ずかしい。
「そうですね…例えば、シーフードですとか…野菜を盛るぐらいなら出来ますが、どうです?」
マスターは考えた後でレイピアに提案する。
「じゃー、野菜で!」
レイピアはそう答えてオーダーを取り、マスターはしばらくお待ちくださいねとまたキッチンに戻っていった…
「ちょっと、レイピア!さっきのはちょっと余計だったんじゃない?」
涼は声を張り上げないまでもレイピアを咎める様な口調で言った。
「そーかなー? 素直にどんなのが出てくるのか分からなかったから聞いたし、料理が出て来た後でとやかくいちゃもんつける方がナンセンスじゃないかな?」
涼にそう言われてもレイピアはそこまで気にしていない様子だった。
「ま、マスターの料理は美味しいから正直な話、あんまり気にしてないんだけど」
それなら尚更聞く必要は無かったんじゃないかと思う涼を気にせず、コップの水を飲むレイピア、
「そうだ、レイピア渡した地図だけど大丈夫?道とか分からない?」
これからレイピアにはちょっとした買い物を頼んでいる。
だが、見慣れぬ場所で見慣れぬお店に入ったレイピアが、無事に買い物を完遂して尚且つ寮室へ戻って来れるのか…
「正直に言うと僕は結構心配してるからね?」
涼が自分の感情を話すのは珍しい、それだけその様に思っているからなのかもしれない。
「だ、大丈夫だよ!そんなにしなくたって、私だって買い物くらいひとりでできるもん!」
その自信満々に言えちゃうところを不安に思う涼であった。
次回へ続く!
次回長めに書いて、終わらせたら番外編をまとめるのもアリかもです。




