管理と権利
僕には何か突出して出来ることは無い。
中学校を出たての若い奴が何を言ってんだと言われるだろうけどさ…僕には元々熱意とか意思が弱いんだよねり
いっその事、自分に降りかかるのが不幸と不公平ばっかりだと叫ぶのを生き甲斐にすれば良い。と考えたことがあった。
可哀想な僕を助けて下さい!とか言ってさ、だれかの手を借り続けながら生きてくの。
ま、これからの事はこれから考えるとして…問題は目の前のにある同居人問題だ。
レイピアと名乗る少女が同居人として提示してきた条件はなんと金銭面の提案だった。
現実的というか、こっちにメリットがある話をいきなりしてきたのにはちょっと驚いた。
そんなに切羽詰まっているのだろうか…
僕は様子見を決めて一回息を入れた。
条件としては全く良いものだし、これ以上を望んでも足元を見ていると思われてしまいそうだし、
提案の内容自体は結構魅力的な内容だよ、家賃の三割が浮くんだからその他の事に使えるんだって。
僕らにとって一万円って言うのはすっごく大金なんだよね…けれど、それとこれとは話が別です。
「北村君がうーんって唸ったまま見事に考えこんじゃってるわね~」
マリアさんも困った顔を見せてくるけど事態はそれぐらい大変なことなんです。
お金を工面してくれるとは言ってくれたけど…だからといって目の前にいる少女と一緒に住んでくれって言われたらさ…答えは「難しいですね」としか悪いけど答えられないよ…普通に考えれば分かりきった事じゃないか。
「むむむ、この手でOKをくれると思ったんだけどな~、涼くんさては君、結構頑固ものだな~!」
レイピアは僕の事を品定めするような目でじっと見つめてくる、ちょっと思っていたけどこの子もしかして可愛い子なのでは…? こんな時に思うのも嫌だけどさ。
さて、なんと言われようとも僕は首を縦に振るつもりは無いからね、僕は悪くないよ。
「レイピア、あの事も言っておいたほうが良いんじゃないかしら?」
え、まだ何か話していないことがあるんですか!?僕はここまでの展開でもうすでにお腹一杯なんですけど、更に何かあるんですか!
「あ~、実は~ね、私は…家から出て来ちゃったんですよね~」
家から出て来たって…え、だから帰る場所が無いって…そんな事だったのか…それなら尚更僕は君を僕の部屋に入れる訳にはいかないよ。
未成年者が保護者から離れたらいけないって聞いたことがある、家出した子を保護するのって理由が何であってもそんな事しちゃいけないと思うんですけどね…
「あぁ北村君、君が多分心配している点については大丈夫よ、然るべきところにはすでに許可を得ているから安心してね?」
お茶を飲みながら素知らぬ顔でマリアさんはそんな事を言ってきた。然るべき場所ってそれってどういう…
「と~に~か~くぅ~! 私には今泊まる場所が無いの、だからお願いします!ちょっとの間だけでもいいからあの部屋の和室だけでも貸してください!!」
貸してくださいって頭下げられても、僕からは問題になるから絶対に反対だとしか言えない、
例えそれがお金の話を含めたとしたら、尚更だよ。
悪いけどね、僕は人助けをする程出来た人間では無いんだよ。
僕は首を横に振り続ける。聞き分けの無いとか優しくないとか言われようと、僕にとってリス クとリターンが釣り合っていない事は僕は全力で回避する事にしている。
だからね、この話はここでお終いって事で良いかな? 別に今すぐに荷物をまとめて出ていけーとかそんなひどい事は言わないさ、だけどねぇ…今日の内には荷物をまとめて貰いたいかなーって思いますよ、僕個人としてはの話ですが。
僕の主張は一貫して目の前の女の子に対して酷い現実を突きつけている。お茶の味ってこんなに薄かったっけ? ばつの悪さも手伝い、管理人室には気まずい沈黙が漂いつつあった。まぁ、原因は全て僕にあるんですけどね!
「困ったわね~、お話が平行線のままなんて~」
なんてことはない、マリアさんが僕に管理人の立場からレイピアを泊めなさいとお願いではなく指示とか命令としては言ってしまえば僕は立場上、どうする事も出来ない。
マリアさんの性格と印象からはこの場で問題を解決して欲しいのかもしれないけど…
多分お互いの主張はこのまま歩み寄りもないままなんじゃないかな?
「私としては妥協案というか譲歩をしてるんだけどな~?」
僕は譲る必要が無いと思っているので、無理にでも管理人室から飛び出して寮室から家出少女の荷物を片っ端から廊下に放り出してしまえばいいかもしれない。
そんな事の出来る薄情者だったら良いのに…
「こんなにお願いしてるけど君は首を縦に振ってくれないんだね」
それはそうだよ、僕はこれでも良識派の小市民だからね。肝っ玉も小さいし、ただの一般人さ。
目の前の少女には何か自信があるようで、これだけ否定をしても表情を崩さずに僕のことを観察する様に見つめている。
「そしたらね〜うーん、思いつけば後一息なんだけどな〜」
僕の反応と態度の何処に後一息と判断する要素があったんだろ…
ともかく僕は絶対に首を縦に振るつもりはないからね、絶対だよ。
「あーそっか…あんまり取り繕っているから取りあってくれないんだね〜そーゆーことなら早く言ってよね〜まったく〜」
大げさな溜息の後で、レイピアと自称する少女はゆっくりと僕の前で頭を下げて来た。
お願いします、どうしても私は今の家には居場所が無いんです。
ゆっくりとしかしはっきりと彼女は僕に頭を下げた。
見ず知らずの同級生に対してお願いをする為に…そんなのって….
正直な話、家出をする理由なんて親子間の喧嘩とか居心地のいい場所が友達の間だからとかそんな理由なんだって事は分かっている。
この子の家庭環境なんて僕には関係のない話だし、それこそ学校や児童相談所とかそこら辺に対処を依頼すればいい話…僕はただの高校生に過ぎない。
絶対に上手くいきっこない…
レイピアは頭を下げたまま、僕の反応を今か今かと待っている。僕が認めた瞬間にわいわいと騒ぐに違いない。 どうせ演技でしょ、腹の中で何を考えているのか分からない。
僕は打算が取れる時しか人に善意を持って接したくないんだ。だからさ嫌だって、当たり前じゃん、諦めてよ。
取り繕わない沈黙…だからどうしたっていうんだ。
僕は部屋に戻らせてもらおうか、あの部屋は僕が契約した部屋だ。 荷解きをしなくちゃいけないし、お茶も飲み終わった。
僕も君も意見は出し尽くした、話はこれでおしまいですよ。
マリアさん、申し訳ないのですがご馳走になりました。お茶の淹れたコップの後片付けはお願い致します。
「はーい、そっちに置いといておいて下さーい」
頭を下げたままの少女をそのままにして僕は黙ったまま管理人室を後にしようとする。
「北村くーん、それで話はどういう結論に至ったのかを寮の管理人さんとしては聞いておきたいな〜?」
背中にマリアさんが追いかけて来た。
結論ですか…僕としてはとても不本意な結論に至りましたね。
全くもって、僕の普段の信条とは別物な答えが出た事に自身で驚いていますよ。
"借りた部屋を部屋を貸す"なんて中々面白い事じゃないですか。
それにしても僕が貸すという契約なので、基本的なルールとかはこっちが決めて良いですよね?
振り返ると頭を下げていた少女は不思議そうな顔を僕とマリアさんに向けていた。
事態を飲み込めていないみたいだったけど、マリアさんの笑顔と僕の表情から理解できたみたい。
「あの!! これから先何度も言う事になるかもしれないけど、ありがとうございます!」
さっきより一段と深いお辞儀をしてから、僕へ笑顔を向けてきた。
合理的に考えたら寮費は浮くし、一人では持て余すかもしれない部屋を貸すだけだから特に大きな問題は無いよ。
あー、まぁ…それとこれは誰にも言えないけど、女の子はやっぱり笑顔なのが良いよね。
寝泊まり出来る場所はないといけないし、今にも泣き出しそうなくしゃくしゃになりかけの顔をされたらそれはしょうがない。
「よーし! じゃあきた…ごめんなさい」
北村だよ、き・た・む・ら
「北村…涼くん、うんうん! これからお世話になりまーす!」
口調に元気が戻ってきた少女に促されて僕らは管理人室を後にする。
先が思いやられる展開に自分でしてしまったわけだけど、早くも後悔しているのは内緒だよ?
次回へ続く!