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僕の部屋には座敷わらしが住んでいる  作者: 峠のシェルパ
第五章 ツツジの執事と座敷わらし
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想定外の再会

謹賀新年

 皆さんはもう気付いていふかもしれないけれど、僕は自分という人間が好きになれない。

自己評価が低いとか、そんな話で片付けられてしまうのかも知れない。

世の中の人は大体嫌いだけど、その中でも自分が一番好きにはなれない。


こんな話をすると大人は大抵の場合、自分を好きになれよだとか、もっと外向的になった方がいいぞとか言ってくる。

…だが僕にとってそれは全く当てにならない助言だと思ってるよ。

だって、嫌いな人から何か言われたところで、ストレスとして抱え込みたくないから真に受けないでしょ?


こんな話をしておいてなんだけど、僕は自分が嫌なので他人になってみたいといっつも思う。


嫌いだけど、「分からない」ままではいられないから、少しでも「分かったつもり」になって彼らに近づきたいんだ。

だから僕は普通でありたい。誰から見てもおかしくなくて…尊敬はしてもらえなくていいから自分に満足していたい…だなんて、一人になると段々と浮ついてるなーボク。


最寄駅の改札へは歩いてきてD51と出会った場所から、雑居ビルをぐるりと迂回しないと辿り着けない…もう、ホームは目と鼻の先にあるのに….面倒くさい。


もしかしたらまだ久居楓がいるかもしれない…

自分の事よりもいまは考えなくちゃいけない事がある。

僕は少し警戒をしながら雑居ビル迂回する。

この駅、いま改めて考えるとマンションの一階部分にあたる場所がホームになっている奇妙な駅だと二回目で気がついた。

前に降りた時はそれどころじゃなかったからね。


紙の切符をわざわざ買わなきゃいけないのも、なんだか昔の感じがする。

時刻表を確認しても次の電車までは時間あるし、なんなら入学式までだいぶ余裕を持ってきているから僕は暫くここで待ちぼうけかな…

切符売り場の前にベンチがあったので静かに腰掛けて溜息を一度僕は漏らした。

よし…なんか整理してみようか。


一つ目にレイピアは久居楓に会ったら自分の思いをぶつけるつもりでいる。

でも、有無も言わさずに話を聞かないままに、力ずくって事も考えられる。

だから僕としては、鉢合わせをしない様にしたいなって思ってて、時間をずらしてリスクを減らしたい。


…でもこの行動はレイピア達の為と言いながらその実、僕がついた嘘がバレないな様にする為だった。

人が不幸にならない為の嘘は人によっては許せない人もいるからね、罪悪感はやっぱりあるよ。


それでも僕はこの事態には直接的にというか…積極的に係わりたくない。

偶々の積み重ねなのは間違いないけどさ、僕らはまだ高校生になりたての若者だよ。

巻き込まれたに過ぎないいざこざを纏めて解決出来るだけの技量なんてある訳がないんだ…

はぁ、言い訳ばっかりだね。


久居楓がこのまま姿を現さなければ、何事も無く話はちょっと変わった学校生活で収まるのに…


…さっきまでここにいたかもしれない、少年のあの後ろ髪を探してみたけど…やっぱりいないか、D51に文字通り一本飲まされたかな?


少しすると反対方向へ向かう電車の接近を知らせる為に踏切が鳴る。

日中のこの時間だと電車に乗る為にホームに向かう人はまばらにしかいないみたいだし、この電車の会社大丈夫なの?なんてことを考えていたんだ。


キョロキョロと辺りを見渡しながら、僕の見知った顔の男が駅の改札に並ぶまでは…


「わざわざ切符を買わないといけないのか…何かと不便だな…」


街中だと目立ちそうな燕尾服に似た服装、朱色の髪を伸ばし、首元で小さく縛られている後ろ姿…

今僕が一番会いたくない人が現れてしまった。

まさか、D51の情報が本物だったとは思わなかったよね、普通にすぐ近くにいたじゃないか。


切符の券売機とにらめっこをした後で紙の切符が珍しいのかしげしげと眺めている。

そのまま背景に溶け込みたい僕に気づかずにこの場を立ち去るか、してくれると僕にとってはとてもありがたいんだけどね…僕はそう、路肩の小石…路肩の小石。

見つかると声掛けられて面倒くさい事になりそうだからね。でもこんな時に限って…

「ん…? 北村様でございますか!?」

あーあ、見つかった…仕方ない適当にはぐらかしてどっかに行って貰えれば良いけど…

あ、どうも久井さん。あの時はお役に立てなくてごめんなさいね。


「い、いえ…とんでもございません。 こちらこそあの時は突然お時間をいただきましてありがとうございました。」

勿論だけど久井さんは他人行儀な態度で接してくれる、レイピアはあんな性格なので特に意識もなくトテトテと近づいてくるし、悪い言い方をすれば馴れ馴れしいからその態度を取ってくれると僕にとってはありがたい。


それからどうですか、お探ししてる方は無事に見つかりましたか?


言ってはみたけどあまりに白々しい。

僕の口からでた言葉だとは信じたくなかったよね。 嘘を吐いたその時から自分の中に冷たい塊が沈んでいく感じが段々せり上がってきた。


「…それが、痕跡も手掛かりもなく…本日中に見つからなければ…」

見つからないと大事にせざるをせないのだと僕にはなんと無く分かった。

「…申し訳ありません、北村様には関わりのないことでしたね」


関係大有りどころか、共犯者にされかね無いんだけど…そんな事をこの人に言える訳もない、僕はあくまで第三者としての立場を貫くよ。


まぁ…僕にはお話を聞く位しかは出来ませんけど、それで良ければお気軽にどうぞ。

そう、僕とここにいる事に価値は無いと悟って速やかに立ち去ってくれ、レイピアとの待ち合わせの時間が来ちゃう…


「ふむ…確かに、人と話すことによって見えてくることも有るかもしれませんね」

少し間を置いて久居楓は僕の座るベンチに少し離れて腰を下ろしてしまったのだった。


いやいや、待って待て、だから僕と話したって何にもならないよ? やんわりと断ったんじゃ伝わんないのか…


「はぁ…お嬢様は一体どこに行ってしまわれたのですか…」

久居さん、なにも宛てもなく探していると言うわけでは無いのですよね?


「えぇ、お嬢様の御家柄からして親類の方々の所にいらっしゃるという線は無く、あの方何かとちゃっかりしていると言いますか…使えるものは使うみたいな所がございまして…」


なるほど、確かにレイピアはそういうとこあるかもしれない。もちろん思うだけで口に出来ないけど。


「それで…本来、入学して通う事はおそらく無い学校の周辺にいるのではないかと…私は予想しました。

家を飛び出された原因のひとつに学校に通えない、通わせてくれない事が影響をしているかと…」


え、学校に行けてなかったの久居さんがお仕えしているお嬢様って、体が弱いとか何かご病気をされているのですか?

聞いておかなきゃいけないと思って聞いてるけど、

まぁ、見ての通りレイピアは明るい時すっごく賑やかになるから、絶対何も無いはずなんだよね。


「いえ…それが全くの健康なのです」

うん…見れば分かる、絶対言えないけど。

「こちらの家の中の事情なので詳しくはお話し出来ない事はご容赦ください。ただ、お嬢様は進学するのに必要な最低日数のみ通学する事を許されていました」


学校に行けないか…学校ってそんなに良いものでも無いと思うけどね。

「…それでもお嬢様にとってはお屋敷よりも素直でいられる居心地の良い場所であった様です」


自嘲気味に彼は話しながら溜息を吐いた、久居さんはこの前会った時よりも弱っている様に見える。

心労から来るものなのか、それとも肉体的なものなのかは分からない。

だけど、レイピアの事を心配してくれる人がちゃんといるのだと僕はそう思うことにした。


「あの方は一度言ったことは中々曲げませんから、わたくしが見つけて半ば力尽くで連れて帰らなくては納得されないでしょうね」

彼の話すレイピアの話は物凄く共感出来る部分があるよ、頑固なとことか、明るいとかさ…


なら…どうしてあの子は家出する事を自分で考えついて実行するって事態になったんだろう。

いくら四六時中そばにいたとしても人の心は話さなきゃ、人には理解出来ないって話なのかもね…


ふむふむ、僕一人で納得してもしょーがないから何か聞いてみよう、勿論彼のいうお嬢様を知らない体を装ってだけど。


そうですか〜、話だけを聞くとわがままな方に振り回されて大変だ〜みたいに聞こえますね

苦笑いをしながら僕は彼の話の情報だけで答えてみた。

「いえ…人のお話を聞かないと言うわけでもなく、自分で決めた事を守ります。」

なるほど、話をまるで聞かないって訳ではないんだね?

「そうですとも、訂正する際にはきちんと誤りをお認めになるので、いつもわがままで気ままで困ると言うのでは無いのですよ」


彼の話を今のレイピアにしたらどんな顔をするのだろうかと思っていた時だった。

噂をすれば影がさすとは言うけれどこんなタイミングでなくたって良いよね?


駅の入り口の先にレイピアらしき少女がこっちに歩いてくるだなんて都合が悪過ぎるよ…見間違いでも無いみたいだし、久居さん、頼むから振り向かないでくれ…!


あぁもう、僕はどうすればいいんだこの状況は…⁉︎


次回へ続く!


皆さま最近寒いのでお気をつけて

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