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僕の部屋には座敷わらしが住んでいる  作者: 峠のシェルパ
第五章 ツツジの執事と座敷わらし
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座敷わらしとツツジの執事その3

おはようございます。

定時更新間に合いました。(滝汗

 偽って隠すのはそんなに悪い事なのでしょうか。

後ろめたいことの一つや二つ人にはあって当然なのに、皆ひた隠しにしながら普通を気取っているじゃありませんか。

さも当然、自然なことなんだと言いながら段々と差を付けて、大人たちは僕らを量産型にしたがるんだ。

いいじゃないですか、安価で使い捨ての普通な量産品。

考える必要に迫られず、特徴がないのが特徴ですなんて胸張って生きていられるなんて無様になれる訳がないとかそんな事を言ったところで、僕がやりたい事もないし、失敗したからって変わる切っ掛けにする訳でもない。


はーぁ、相も変わらず僕は空っぽのまんまさ、スッキリとした晴れた空とおんなじ位何にもない。

底の方にだって何にもいないし何にもないのさ。

希望と期待満ちているはずの季節の初めと学校の初めに僕がこんな風になるのも全部レイピアのせいなんだ、こんなにも卑屈になるのは僕の悪い癖だよ。


影を引きながら優しい嘘で心を満たすのには僕は慣れている。

わかりやすく言うと、僕はレイピアが久居楓に見つかると思っている。

でも結果を先延ばしにして結論を出さずにレイピアが学校に行くのを止めないし、だからと言って久居楓に嘘を吐いたり、レイピアが見つかったとしても僕は…僕は第三者のフリをするんだ。


最低だよねー。臭いものに蓋じゃないけどさ…気付かないフリをして通り過ぎるんだよ。自分の白々しさを晒しながらね。


止めよう、止めよう、こんな独白を聞いてたって何にも面白くないよ。

とにかく…今は久居楓が最寄りの駅までに居るかどうか、まさかとは思うが学校の周辺に張り付いているとかそんな事は無いと信じたい。

もし学校の周りにいるとかならその時はその時だ。


小谷荘の寮から駅までそんなに距離離れてなかった筈なのに僕の足取りが重いお陰でまだ半分も進めていない。


寮に久居楓が来たとしても、マリアさんは事情を分かっているし、僕から説明はしている。

久居が来てもなんとかはぐらかしてくれるだろうけど…ここに来て心配なのはレイピアが何処まで分かってて行動してくれるかなんだよね。


ここから先は行き当たりばったり、そう…僕が苦手で一番嫌いなやつだ。

…とにかく、この後は野となれ山となれと投げ出したい気持ちを抑えつつ無知を装うだけ、溜息と憂いを抑えなきゃね。


「お、何やら冴えない顔がいると思ったら、北村さんじゃぁ有りませんか?」

なんで反対方向から一番この場で会いたく無い顔が歩いて来るのか僕には理解ができないんだけどさ…

ボサボサ頭に縁取りの太い眼鏡を掛けたにやけ面、面倒方が向こうから足音を立ててやってきた。


…これは無視でいいよね? 僕にとっては他人だし、見えないフリをしてこの場を去るとしよう。

まだ時間には余裕あるけど、この人は多分僕にとって害しかもたらさないから無視するよ、無視。


「おぉい、ちょっと待てって」

声を掛けてきたのを無視して通り過ぎたら肩を掴まれたので仕方なしに振り返って伸びてきた手を払う。

…なに? D51、僕は生憎と忙しい身の上でね。

君の絵空事に付き合う気は毛頭無いんだけど? 


「おいおいなんだよーその仏頂面は、似合ってるぜ?」

…はぁぁ、嫌味だけ言いたいのなら言うだけ言ってどっかに行ってくれて構わないよ、もう正直いうとあっち行け。


そう言ってもD51は肩を竦めるだけで口角は上がったまま表情は曇らないし、なんかついて来るんだけど…

え、一緒に行くような奴がいないから僕に声を掛けた?なにそれすっごい不名誉だね。一人ぼっちになる原因は自分しか見えてないからだよ、分かる?


「ンなわけあるかよ、結局のところはエゴが重なっているだけさ、知ってるかい? 天才は孤独な生き物なんだぜ?」

なるほどね、じゃあ君は人の神経を逆撫でする天才だって事でいいのかな?


「ははっ、測らずも遠からずだ」

それで、何か言いたいことがあるなら言ってからどっか行って、僕はレイピアを駅で待ってるって仕事が待ってるからさ。

D51は目線を僕に向けずににまるで退屈な独り言を溢すように雑な話し方をする。

それじゃあ相手に何も伝わらないと思うんだけど…僕は別に何も言わない。


「それであのお嬢ちゃんは入学式に出て来るのかい…ふーん、せめて今日は休ませたほうが良かったんじゃ無い?」

うん…それも確かに考えて伝えたことなんだ。

明日一日行かなくても、別にクラスの中で遅れて入ってもこの時期なら大丈夫だって、

「ほうほう、その話はしたわけだ。 で? なんて回答が返ってきたんだい?」


それは…ちゃんと向き合うって、レイピアはそう言ってる。

丸っきり尻尾を巻いて逃げるって選択肢をあの子は自分から無くしたよ。

「ぷっ、なんだよー! あんたよりあの嬢ちゃんのほが肝据わってるじゃん、面白っ!」


D51はいつも口角が上がっているから言葉通りの感情を持っているのか僕には分からない。 けれどレイピアのちょっとした決意を笑われるのは…あんまりいい気分じゃないよ。


「あぁ、そうだったそうだった」

D51は急に思い出した様に僕の肩を叩く。

「北村君、吾輩が君にとって必要なものを持っているとしたら…どうする?」


どうするって言われても、僕が欲しいものなんて君に分かるわけがないじゃないか。

そんな思わせぶりなフリをしておいてすっごいどうでもいい事を言うつもりなんでしょ? 君はそういう人だ。


最寄り駅にはもう直ぐ着くけど、この前見た桜並木はその姿を変えて若緑の葉が少しずつ顔を出している。

目の前には駅のホームが見えるけど、ここをぐるりと迂回しないと駅に辿り着けないんだよな…


突然足が止まったD51をそのままにして僕は駅へ向かいたかった。

「ふーん、なるほど…久居楓が今さっき何処にいるのかって情報なんだけどなー? 涼くんはそれを要らないって言うんだねーなるほどねー」


いやいやいや、待ってくださいよD51さん冗談じゃないすかーそんなのーちょっとした前振りですよー!

白々しい…即答だった。

見透かされた餌に食い付く哀れな魚みたいだな、僕はそんな事を頭の片隅で思った。


「よしよし、そうかい?なら対価を貰わなくちゃな、こいつは貴重な情報だぜ?」

….コーヒーで良いんだっけ?

「off course!」

D51はなんかカタカナの発音とは違う感じの発音をしたけど、そこの自販機で僕はお財布から小銭を投入する。

致し方ない、情報はお宝の山だからね。中身がどうであれ、使うのは僕だ。

「よーし、じゃあ交渉成立って事でぇ….何処から話をしたものかなー?」

別に何処からでも良いけど、久居楓が小谷荘前で張り込んでるとかそーゆーのは止めてね、シャレになんないから。


D51はそうだったら面白いのになーなんて縁起でもない事を言って立ち止まって、コーヒーの缶を開ける。

「まぁまぁ、流石の久居楓もそこまで鋭い訳じゃないって事よ」

僕も一応もしかしたら寮の門前に仁王立ちで待ってるとか想像してたけど居なかったからね。

というか、D51は久居楓を知ってるの? 僕は会ったことあるが、目の前の少年が缶飲料目当てに嘘をついたとか…


「おいおい、なんか疑ってないか? はぁ、吾輩は真っ当なつもりなんだけどなー」

真っ当な人は自ら正気である事を疑ったりはしないよ。

はいはいそうですねーと適当な返事をしてD51は話を続ける。

「久居楓なら知ってるよ、あの嬢ちゃんの捜索依頼を吾輩が受けた際に会ってる」

そう…なんだ、なら良いけど…

「…なんだよー疑いの目が晴れてねーじゃねーか」

それは自分の胸に手を当てて見れば分かる事だよD51…

「話が進めると、吾輩は久居楓をこの先の駅で見つけたんだよ」

…本当に?

「あぁ、吾輩は報酬を貰ったら嘘はつかない…てかいつも嘘は付いてないんだけどなー、なんで疑いの目を向けられるのか、分かんないんだけど」


D51はそう言って首を傾げる。…うん、それは多分君の雰囲気とか話し方とかが起因しているんじゃないかな?

「そんなこったどうでも良いんだよ、吾輩は別に吾輩自身の話をしに来た訳じゃない、

久居楓に会って話をしたことが伝えたいことさ、内容としてはこうだ…」

D51の話は久居楓との世間話や誘導尋問まで諸々全部入っていたのですっごく話が長かった。


「一つ、久居楓…彼が探している人物はお察しの通りお嬢ちゃんで間違いない。


二つ、父親はこの件に対してもあまり関心が無いが、お嬢ちゃんを戻ってこさせるのには容赦しないだろう。


三つ、お嬢ちゃん本人の意思がそこに介在する意思は無く、連れ戻すのは決定事項で否応なしな手段もいとわない。


四つ、嬢ちゃんがあの学生寮に住んでいる、または誰かに匿われていると久居楓は睨んでいる。 少なくとも一番怪しいのは寮の管理担当者と言っていた。


五つ、彼本人の意思としてはお嬢ちゃんには概ね戻って来てもらいたい様だ。 その理由までは聞かなかったが、久居楓は何か思い詰めた雰囲気だった。」


D51は最後に話を要約してくれたけど、僕からすると今までの話は必要なかったよねって思う。


「なんだーその…映画であらすじとラスト10分だけあれば良いよみたいな顔は」

だって…話全部蛇足にしか聞こえなかったから…

「はー、分かってねーなぁ、その蛇足こそが物語を物語として成り立たせる理由だろうが、感情移入させる話ってのは難しいんだぜー?」


それは…そうなのかもしれないけど、僕が聞いたかったのは別に終わりのない物語じゃないから、そこは要点を抑えてくれても良いんじゃないかな?


「ともかく、俺はあんたに情報を渡したから後はそれをどう活用するかだな…」

えっと、ごめん。 久居楓は今もあの駅にいるの?


「んあ?どうだろなー、お嬢ちゃんがこの街にいるってのは分かっているし、進学先も知ってるんだろうがまさか本当に通学するとは…思ってないんじゃないかねー?」

…分かった、久居楓ってやっぱり頭とかって良いのかな?

「んー、少なくとも吾輩よりは良いだろうな、多分勘とかは鋭いぞ?」

…分かった、ありがとうD51、支払ったモノに釣り合う位の情報は得られた。

僕はやっぱり優柔不断で駄目なやつだよ、全く。

「迷いあるうちが花だぜ、ま、時には退路を絶って進まなきゃいけない時もあんだよ、じゃーな」


D51は僕が来た道を戻って行くみたいだけど…え、何処に行くの?

「んー? 慈善活動だよ、慈善活動。 吾輩はこう見えて神様に時には縋りたい者なんだよ」

それだけ言ってD51は悠々と去っていった。

僕は駅に向かうためにまた歩き始めた訳だけど頭の中で色々と考えていた。


D51の話が嘘だと断定できるだけの根拠はない。

けれど去り際にさらっと言ったはなしが一番確証を得る話だった。

「お嬢ちゃんの話で気になったのは、あれだな。

お嬢ちゃんが何か家中で大切なものを取っていったらしい…旧い家に伝わるものってなんだろうね、刀とかだったら面白いんだけどなぁ?」


なんでD51はそうやって答えを当ててくるんだよ…って思ってて見ていた後姿で気付いたけど、今日入学式だけどジャージ姿だったな…


次回へ続く!

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