座敷童子とツツジの執事その1
高校生にもなって来ると義務教育ってカテゴリーから外れて、望んで勉強していると言うことに建前上なってるんだって…
でもさ、みんながみんな勉強を続けたい訳じゃないし、僕だって頑張っても苦手なものは苦手なまんまだった。
でも、世の中の中学生の大半の人が高校に進むって言うし…公立大学付属の高校に行けば補助も受けられるって言うから僕はこの高校に相当無理をして勉強して入ったんだ…
これまで住んでいた場所からは結構離れているけどそれもこれも自分のせいだから仕方ない…ね。
レイピアの執事?らしい久井君が現れた時にはとても驚いた。
彼の話ぶりととその後のレイピアの話が繋がった時にはうわー、もうこれ捕捉されてるじゃんって追い詰められた気分でこの二日間内心ハラハラしてた。
しかし、不意な訪問客といえば寮母のマリアさん位、他には僕とレイピアが外出して帰ってくる他にはほぼ何事も特に起こることも無かった。
けど翌々考えてみたら、レイピアがこの部屋にいる事自体が異常なんだって頭の隅で考えながら過ごしてた。
何にもないとあっという間に時間が過ぎて行って、今日はいよいよ入学式の当日の朝になっちゃった…
レイピアの事をどう解決させるかまるで思いつかないまま、また久井楓がこの部屋にやって来る…
部屋に上がり込み、家宅捜索なんてされたらレイピアの私物を見つけて気づかれる可能性は大いにあり得る。
マリアさんに預かって貰うのも考えたけど…結局何にもせずに僕らは当日の朝を迎えてしまった…
静かな期待と胸の奥に閉まってある好奇心が滲んで現れている。
浮ついているって言った方が分かりやすいのかもしれない。
一回り大きくてダボダボな、濃紺のブレザーは洗濯のりでパリパリになっている。
洗面所に行って映っている自分の姿はどう見ても制服に着られている少年だった。
似合うかに合わないかで言ったら絶対に似合ってないと思う…これはひどいなぁ。
ネクタイだって結んだことが無いから調べてやってみたけど、薄い水色と黒のストライプの配色が喉元でこんがらがっているのを見ると行く気が削がれるよ。
「りょーくーん、洗面所借りてもいいー? 髪の毛がちょっと逆立ちゃってさー」
レイピアの眠そうな声と共に蛇腹状の伸び縮みするカーテンがそろりと開きかける。
ち、ちょっと待ってまだ開けないでね?
そうは言ったものの、時既に遅し…レイピアが目を擦りながら洗面所に入ってきた。
え…本当に髪の毛逆立ってるじゃん、何したらそんな感じになるの?
短く纏まっているイメージのあったレイピアの髪の毛はその性格を表しているかの如く、後頭部と側面の髪が彼方此方にに伸びているのだ。
「涼くぅーん? なんでもう制服に着替えてるのー?
入学式は午後からだよねー?」
うん、知ってるよ?
「んー? それならなんでー?」
折角だからちょっと試しに着ただけだよって言おうとするより先にレイピアが気が付いた。
「涼くん、ネクタイが氾濫してるけど大丈夫? なんか…急いで結ぼうとしてた?」
いや…その…十分間位格闘した結果なんですけどね…?
レイピアの声には欠伸が混ざっている。
これまでなら真っ直ぐ髪の毛が伸びた姿しか見た事無かったからあちこちへ伸びた寝癖のレイピアは初めて見た…
レイピアのとぼけた格好にこの子もこんな風になるんだって、僕はちょっと微笑ましく思っちゃったりした。
「ふーん、涼くんもしかして、ネクタイ結んだ事無いの?」
…いやいや、中学校の時学ランだったけど大丈夫。 ちゃんと結べた事あるから! うん、半分本当で半分嘘だけど。
「んー、それにまだちょっとネクタイ結ぶの早くない?入学式午後からだよー?」
うっ…それは言って欲しくなかったよ…素直にネクタイ結べるか不安だったとか、制服を着てみたかったとかそんな浮かれた事を考えていたとは僕は絶対にレイピアには言えないよ。
「…ちょっと涼くん、じっとしててくれる?」
え、どうしたのって言う前にレイピアは僕に手を伸ばしてきた。
状況が掴めない僕を他所に手際良くレイピアがしたのは…
「はいっ! 出来た!涼くんのネクタイ!」
そう、さっきまでぐちゃぐちゃで結び目が胸のあたりにぶら下がっていた制服のネクタイがあるべき姿になってしゃんと締まっている。
「涼くんも寝ぼけちゃうことあるんだね、それじゃぁ私顔洗ったり色々するからほら、交代して交代!」
さっさと僕を洗面所から追い出してレイピアはちょっと遅めの身支度をし始めた。
どうしよう、僕が結ぶより上手なんだけど…ネクタイ結ぶの…
ちょっともう一度試しにネクタイ崩してみようかな…なんてそんな事は決して考えてはいないけど、溜息を一回吐いて僕は入学に必要な資料を確認し始めた。
入学早々忘れ物なんてしたくないからね…
次回へ続くよ。




