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僕の部屋には座敷わらしが住んでいる  作者: 峠のシェルパ
第四章 路地裏と宣戦布告
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番外編 空色ターコイズその3

レイピア番外編は一旦ここまでです。

(長かった…

 あーあ、まだまだ私は帰りたくないなー、だって楽しいんだもん。

屋敷の外の世界はこんなにも色取り取りなんだからもっとここに居たいなー。

勇気を出して正解だったよね、3日前の私に今の私なら花丸あげちゃいたくなるよ‼︎


だって、知ってる人とカフェでお話できてるんだよ!すごいよね! いやー、やっぱり凄いなーわたし

っ!!偶々だけど!!せっかくの機会だもの、めいっぱい楽しまなくちゃ!!

いつどんなことが私を待ってるのか分からないからね。


私がこのパンケーキを食べたら一体何が起きるんだろね…私には全く味の想像がつかないよ。

おっかなびっくりで私はスプーンで掬ってゆっくりと口に運ぶ。


それは舌の上になった瞬間に何もしなくてもじんわりと甘味が広がる。 でももう少し味わっていたいと思うのと裏腹に直ぐに溶けてなくなっちゃう…

まとめると未知との遭遇過ぎて他のお店とかと比べてどうとか言えないけど私はマスターのパンケーキ美味しいって思う!


甘いメイプルシロップをかけたらもう無敵って言ってもいいよ!アルマダ!


黙ったままパクパクと食べ進めたい気持ちを抑えて来宮さんはどんなリアクションを取るのかな?

って隣を見てみると…

「んん…はふ…」

言葉も無く吐息と細めた目をしてなんか…大丈夫、来宮さん? ちょっと目を離した隙に頬っぺた落ちてない?探したほうがいい?

目からと頬っぺたは良く落ちるから拾っておかないとダメなんだよ?


「あっ、ごめんなさい」

我に返った来宮さんはすっごくおいしいですって素直な感想をマスターを言った。

「それは何よりです」

マスターは静かにカウンターの中でカップを磨きながらつぶやく、私も何か言おうと思ったけど素直な感想がぱっと浮かんでこなくってすっごくおいしいね!!なんてありきたりの詰まんない言葉しか出てこなかったよ。


「お二人とも是非是非ゆっくりと召し上がって下さいね」

私達ははーいと返し、もう一口ぱくっと口に運んで舌鼓を打ちながら今度はシロップをかけて…

う~ん…これは絶対に美味しいよ、もう食べる前から分かるもん。


はっきりと付いた鮮やかな焼き色に黄金の蜜をかけるとちょっとした宝石だよ、食べるの勿体無い…

そんなこと言ってるけど食べちゃうんだけどねー


一口、二口と食べ進め、もう一口大きめに食べようとして来宮さんのパンケーキにかかっているチョコレートソースも美味しそうなことに気が付いて…


「レイピアさんどうかなさいました?」

ううん、何でもないよ!!ちょっとだけチョコレートソースのかかったパンケーキが食べたいなーなんて思っていないしそんなことは私口に出さないよ!謙虚だからね!!


「…あ、折角ですし少し味の交換をしませんか?」

いいの⁉︎ やたっ!


二人でパンケーキの乗ったお皿を交換してもう一度、私達は目を輝かせて舌鼓を打つ。


ちょっとだけチョコレートのかかったとこを掬い取ってパクリと口の中に広がる。

少し苦いチョコレートの味とパンケーキ自体の甘さがほんのり…甘く無いけど甘いね、なんで言えばいいんだろう?


私が不思議なお味に首を傾げてると来宮さんが

「レイピアさん、ビターチョコレートは知っていますか?」

って聞いてきた。

ビターチョコレート? 白いチョコレートはあるの知ってるけどそっちはあんまり知らないね。


「ビターチョコレートとは砂糖や生クリーム等を少なくしてカカオの栄養価を高め、苦味を楽しむと言った目的で作られる種類のチョコの事です」


マスターは静かにコメントを残して今し方入店してきたお客さんの応対しに行った。

「マスターさんって…お話好きなんですか?」


そーだなー、雰囲気が良ければずっと相手の話を聞いたり、色んな事喋ってくれるよねー?

お話好きじゃなかったらお店屋さんなんてやらないよ。


人目にはちょっと付きづらい所にあるけどほら、今の世の中インターネットがあるし、流行ると思うんだ。マスターのお店!


パンケーキは美味しいし、イチゴミルクは美味しい。

他の料理も…きっと美味しいんだよ!きっと!


「レイピアさんはこのお店を気に入ってるんですね」

そだよ、私の紹介できるものって言えばこの場所位だもん。


来宮さんには私自身の事はあんまり話せないかなって私はパンケーキを半分くらい食べて決めた。


既にマスターとマリア、それに涼君を巻き込んじゃってるんだもの、これ以上他の人を自分の都合に付き合わせる訳にはいかないよね。


「あのレイピアさん、確認なんですけどレイピアさんって今年高校に上がるんですよね?」


そーだけど、もしかして来宮さん私を中学生とかそんな風に思ったのかなー?

私は人を見かけで判断するのは好きじゃないよ、簡単だけど難しい事だからね。


「あの、そーゆー訳ではなくてですね…もし良かったら学校が始まっても仲良くしていただけますか?」


え、もちろんいいよーって返事をした。

けど自分が多分嘘つきになるんだろうね。 明日明後日、それに今日も私はここにいる自分自身を特別だと思わなくちゃいけない。


涼君の言ってた事を信じるなら入学式が一つのリミットみたいだからその後の事は私には分かんないや


はぁーあ、私も来宮さんちが良かったなー。

私も色んな事を自由にやってみたかったー


チョコレートソースの苦味がまだ舌の上に残っていたのかもしれない。

私はそれが凄い大変だという事は分かっているはずなのに…言い終わってから私は気づいた。


「そうですねぇ…檀家さんに氏子さんも減ってきたので昔程の力は残っていないんですよ。

精々江戸時代の手前位ですね、ぶいぶい言わせてなにかと出来たのは」


カミサマが振興だったり信仰で力を持つことが出来るのだとしたら今の世の中はさぞ生きづらいんだろうね。


「それに殆どどこか遠いとこに行こうとしても代わりを出来る人が居ないので半日以上離れられないんですよー」

さらっと来宮さん言ったけどさ、それってそれってすっごく不便じゃない? 学校は行けるの?

「流石に学校はいけますよ? 将来の展望も約束されてますけど、本当に知名度とかとにかく露出が少ないので…はぁ…」

来宮さん…私にはかけられる言葉が見つからずにパンケーキにフォークを伸ばしてみる。


「この格好も本当は恥ずかしいんですけどね…いい加減慣れましたよ」

その服鮮やかな紅白だから確かに目立つもんね、コートとか着てても私分かったもん。


ぱくっと来宮さんもパンケーキを頬張っては幸せそうな笑みをこぼしてるし…気分を悪くしちゃったわけじゃなさそうだね、よかった。

神社さんの仕事と学校を一緒にするのってすっごい大変じゃない大丈夫なの?

色々と私の知らないことが沢山ありそうだけれど、多分儀式とかお祓いとかあるんだろうなぁ


「日常としてはほとんど何もない事の方が多いんですが、滅多に無い冠婚葬祭ですとかお祓いなどが入ると一変して準備に入ると忙しくなったりしますね」

神社って結婚式も出来るんだ…私そーゆー事は全然知らないからなー


「はい、実はそうなんですよ、その時ばっかりは父か母のどちらかに戻ってきてもらいますけど」

でも滅多に機会が無いんだよね?

来宮さんはさらっと「まだ二回ですね」と話してくれた。

二回かぁ…私には分からない事だけれど、もう少し位帰ってきてもいいのにね。


「えぇ、事情は詳しく話してくれませんし、生活できる分のお金は入ってくるので今の私では文句の一つも言えませんから…」


来宮さんは口に運ぼうとしていたカフェラテのカップをコトリとテーブルに置きなおす。

柔らかい来宮さんの笑みが静かにフェードアウトしていく…

流れている謎の曲、低い声の女の人が静かに何かを恨めし気に歌っている。


マスターもいつの間にかカウンターに戻ってきていて私に一度笑顔を向けたと思ったら何かお店の裏に引っ込んじゃうし…急にやってきたお互いが話すことを考える忙しい沈黙…こんな時私にはどうしたらいいのか分からなくなっちゃう。


「羨ましいって思うほど良い物でもないんですよ。 立て直してから暫く経つので、うちの神社いたるところの設備が古くて暗くて狭いんです…そんな場所を一人で掃除とかしていると…たまーになんですけどちょっとだけ、ちょっとだけフツーの人に憧れたりします」


「フツーの人」か…涼くんは良く「普通に」「普通で」「普通の」とか何かとつけてその言葉をくっつけたがるんだけどこれってなんていうんだっけ?


「口癖なのでしょうか…それとも?」

あー、何だろうね? 自分の事になると突然このに文字が登場するからねー。

「あ、そうでした!枕詞って知ってますかレイピアさん」

まくらことばー?

「簡単に言えばああ言えばこう言うって感じの定型文ですよ確か…」

「…枕詞ですか、そうですね例えば久方のと言えば光といったような…今でいうのならお決まりのフレーズといった例えでいかががでしょう?」


あ、マスター、注文は一回落ち着いたって感じかな?

「いえ、ディナー用の仕込みを少し」

いつっも忙しそうだもんねマスター、このお店ってお休みしてる日とかってあるの?


「毎週不定期ではありますが日にちを決めて休んでいますよ、疲労と精神的負荷は良い仕事の敵ですので」

マスターは小さく息を吐いて明日辺りでもお休みにしましょうかねと呟いた。


私、二三日ここに居させて貰ったけどマスターって本当に突然今日は休みましょうかっていってお店に三時間占めちゃうから凄いんだよね。

でもそれでやっていけるのかな このお店…分かんないけど結構賑やかな場所から外れたとこあるし…


「たまには私もあの…休んでも良いのでしょうか…」

マスターが休んでいる事を話したら来宮さんがこんな事を聞いてきたんだけどこれは私にじゃなくてマスターに聞いてるだろうから私は静かにしておくね。

できる女は場の空気をバッチリ読むのだ!


少し考えてからマスターはそうですね…って来宮さんを諭す様に続ける、

「休むのは決して悪い事では無いと思います。

休息と負荷のバランス感覚をちゃんとしていれば休息の時間を過ごすことも良い事ですよ」


来宮さんが神社の事で色々なことを抱えきれないほどきっと抱えているんだろうね。


私には勿論分からない事ばっかりだから言葉は掛けられない、マスターの言葉だって全て正しい訳じゃ無い

でも、少しでも来宮さんの助けになったら良いよね。


「分かりました、私これから上手にサボってみます!」

「来宮さん、私の言葉はあくまでさそさささすも参考程度にしてくださいね?

人の言葉に従うのは簡単で心地良いものですが、他所は他所内はうちでしっかりとした自分を持っていないといけませんから」


マスターがちょこっと釘を刺して話題は別のことに移った。


これから始まる学校のこととか、大体が来宮さんの事を私が聞くって形だった。

来宮さんはばっと花が咲く様に会話を広げてくれた。

でもね、私の言葉は相槌と共感ばっかりを並べたものでちっとも時間が進んでくれない…

なんだかちょっとだけ、ちょっとだけ…やだね。


まぁね、私の話なんてしても仕方ないんだよね、だって灰色の空と本棚位しか登場しないもん


「レ、レイピアさん!」

え、何どうしたのかな? 私に何か聞いてた?


「いえ…何か考え事をなさっている様な表情をしていらっしゃったので」

考え事と言うよりもどっちかって言うと悩み事かなー?

「それなら、私に相談してみませんか? 熱川神宮では悩める仔羊達に光ある道へと導く手助けをさせて頂きたいのです」


え、来宮さんって神社の宮司さんなんだよね?

それって…なんか違くない?


「良いじゃないですか、さあ天上におわす主の導きのままに…」


来宮さんは両手を組んでキリスト像に祈る修道女の真似をする。

いやいやいやいや、来宮さんは宮司さんでしょ?

それはなんて言うか…神社の作法としてはしても良い事なの?

「そーゆーのはあんまり気にしないですよ、日本の神様は色んな形をしている方がいらっしゃってるのできっと大丈夫です」


そうなの?

「はい、仏様も神様も織り交ぜて合祀すれば問題はありませんから!」

その手の話は来宮さんの方が詳しいだろうから私からは自信満々の来宮さんには相槌位しか打てなかった。



美味しいデザートと弾む会話、ゆったりとした名前も知らない音楽…何にも気にせずに交わされる言葉、私はいま「自由」を謳歌しているんだよ!


私にあれやこれやら小言を言ってくる世話焼きの執事も居ないし、私の事なんかまるで考えていない肉親もここには居ないんだ。


そんな世界があるのなんて知らなかったよね!

どうにかしてうちとは折り合いを付けられれば、こんな日が続くのかもしれない。


私はわたしなんだからって駄々をこねても家の事とか理屈を並べられて力ずくで連れ戻される…


あーあ、やだなー少しも話聞いてくれないんだろなー、あの人にとっては私の事なんてどうでも良くって子供が癇癪を起こしたとかそんな感覚なんだろうな…


来宮さんが席を外した少しの時間でこんな考えを巡らせ、勝手に想像ができちゃうのはそーゆー事が以前あったから

うん…忘れよっ! 私にはそんな結末は見えていない、例え未来なんて見えたとしてささもろくなものじゃないんだ…


マスター、ごちそうさま! やっぱり何を食べても美味しいかったよ! ふわふわパンケーキ…また食べたいな!!


「そう言ってもらえると嬉しいですね、レイピアさんの舌に合うのであればさらっとレギュラーメニューに加えてもいいかもしれませんね」


やたっ! マスター、私と来宮さんが期待してるからね!!よろしくね!!


「あ…あの、ご馳走さまでした。 また 邪魔しても宜しいでしょうか?」

「ええ、勿論ゆずの木は皆さんをいつでもお待ちしております。 ただし水曜日と土曜日は不定期でお休みをいただいておりますのでお気をつけてお越しくださいませ」

マスターはで私達とは違う時間を生きてるみたいに

ゆったりと微笑みかけて送り出してくれた。


二人で結構長話をしちゃって太陽は傾き始めて黄色味かかっている。

少しだけ伸び始めた影に怯えながらも、私は来宮さんの夕飯選びを手伝ってもうちょっと寄り道をした。


「今日はありがとうございました、すみません夕飯の買い物まで付き合わせてしまって…」


御礼なんて言われる様な事は私してないよ?

「お話に付き合って頂いただけで十分です!」

だって、来宮さん本当に物腰が柔らかくて丁寧なんだよねー。

宮司さんとか神主さんとか、神様と関わると優しくなれるのかな?


「優しさはどこからやって来るのかという話ですか?」

うん、そんな感じ

「なるほど…私は特段自分が優しいとは思っていないのですが…」

え? そうなの?


「…余裕があれば他の方に負担を強いられたり、自ら負荷を負っても大丈夫かと言われれば必ずしも当て嵌まる訳では無い。

種類はありますけど、許容量は人によって差がある。良薬になるか毒になるかは人それぞれですしタダより高いものは無いのです…って私も聞いた話なんですが…」


さらっと答えが返って来るのかなって思ってたからこーなるとは思ってなくてちょっと言葉が出てこない。

…なるほどね…優しいだけじゃぁ駄目なんだ。

「やっぱり、変なこと言っちゃいましたよね!すみません‼︎」


来宮さん謝らなくて良いよどうしたの?

そんなに謝られてもその後私がどうしたら良いか分かんなくなっちゃうから。

来宮さんは優しさって良いものとは限らないよって言いたいんだね。

私には考えつかなかったよ…


「そうですね…私のこの考えもある方の半分受け売りなので、私が全部考えたわけでは無いです」

少し照れ臭そうにして買い物のビニール袋をまた申し訳なさそうにぶら下げている。


私は来宮さんに少しだけ聞きたいことがあったんだけど、考えがまとまらなかった。


結局人通りのないY字路で来宮さんと別れることになった。


「レイピアさん、私はこっちなのですみませんがここでお別れです」

さよならをする時になっても来宮さんはぺこりぺこりと会釈する。

どうしてそんなに不安そうにするのか、私にはイマイチ分からない。


ここの道は寮の目の前の道から確かそんなに離れていないし、なんなら右に行けばそのまま小谷荘辿り着くし、来宮さんの熱川神宮は確かにこっちの方向じゃ無いもんね。


うん、それじゃあ次会えるよね!会えたら…

そう言いかけた広げた口を塞ぐのに時間は掛からない。

だって、私がここに居るのはただの偶然の組み合わせなんだから。

第一、明後日の始業式までに楓が動いて私を連れ帰るのだってすっごく起こりうるよ。 そうもうすっごくね…

私は塞いだ口をいつもより控えめに開け、ドライな感じでゆっくり「またね」って答えてそこでバイバイをした。


「ん、おかえりレイピア」

寮室に戻ると涼君がラジオを流しながら半分うたた寝してたけど、私が挨拶をする前に気がついてくれた。


誰もいない冷たくて灰色の部屋じゃない、誰かがいてくれてのんびりしていてくれる…

私があまり経験したことが無い事だからきっとぎこちない片言の返事をしちゃったと思う。


嬉しい様な、心の奥がむず痒くなって、きゅっと少しだけ苦しくなった。


明後日より先が私にはあるかは私には全然分からないけど…それでも良いと今はそう思えるよ。

なんでかは…分かんないけどね。


ちょっとした小話のつもりが長くなっちゃったけど今回はこの位にしたいと思う。


たまには私も話をしたいなって思ったからしてみたんだけどどーだったかな? それじゃまたね!


次のお話に続くよ!!


亀ですいません(平謝り

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