番外編 空色ターコイズその2
永らくお待たせ致しました。
レイピアの番外編の続きになります。
私は誰かと何かを共有したって思い出が殆ど無かった。
兄弟もいるって話も知ってるけど私は数回しか見かけたことがない。
人は家族って言葉を毒の様に吐いて回っている…
私には隣に誰も居ないし、前にも先導してくれる人も居かった。
後ろで引き止めるだけの執事しかない。
誰かが困るからやめなさいって言われてばかりで貴方のためですとは言われた事はなかったよ?
品格が問われるから節度を持って下さいって何?
ちゃんと生きてる言葉にしてよ。
危ないとか
私に投げかけられる言葉は温かさも冷たさもないただの音でしか無いんだ。
ま!今の私にはカンケーないんだけどね‼︎
どーにも一人になっちゃうと途端に嫌な事を考えちゃうなー、そーゆー癖は治さなくちゃないもダメだね。
今日はのんびり、明日はどうかなぁ?
学校が始まるまでどうなるかも分からない半透明な一日を過ごしていくんだ。
閉じられたあの場所よりよっぽどいいよ、何が起こるか分からない方がよっぽど私は好き。
お、およよよ? 道の向こうに見えるのはひょっとして…?
赤と白が目立つ巫女さんの服の後ろ姿、あれはひょっとしてお知り合いの人かもしれない!!
私は気づかれない様にその背後ゆっくりと近づいて…予想していた通りの人だと気づく。
肩を後ろからトントンと軽く叩いてみるとぴくって肩が震えて恐る恐るこっちを向いてくれた。
「えっ、わっ…ええと…もしかしてれいぴあさん?」
そーだよ!初めて会った時からぶりだから二度目まして! レイピアだよー?
神社の神主さんらしいこの人はきみやさん…でお名前合ってるよね? 間違ってたらごめんなさいなんだけど…
「ええ、そうです。 私の名前は来宮 優花です、良く覚えていてくださいました」
そうそう私、こー見えて人の顔とかお名前覚えるのとっくいなんだよねー!
とは言ったもののこの街中でその恰好は目立つよねー、良くも悪くも
「そうなんですよー、一応何か上に一枚羽織るものと薄めのコートを持ってきたんですけどあまり寒く無くて…」
今日暖かいもんね~、こうもぽかぽか陽気だと眠くなってきちゃうよ。
「お昼寝も考えたんですけど、やっぱりお茶菓子があるとのんびりできるので買って来るつもりで社を留守にしてきました…今日も何の予定もなかったので」
来宮さんのお家は神社の宮司さんをしているみたいで実際すっごく広い林と立派なお社さんを持っているみたい。
でもすっごいよねーあんなに広いとお手入れとか大変そうだよね。
「それはもうすっっごいですよ、雑草なんて抜き始めたらキリがないですし、夏場は蚊が沢山湧いてくるのでもう…色んな所刺されてしまうので大変ですよ~」
池とかあるから夏になると涼しいのかなって思ったりしたけど来宮さんによるとそうでもないみたい。
そういえばだけど来宮さんって高校生だけど、宮司さんなの? お手伝いをしてるとかアルバイトとかじゃなくて?
「あー、そうですよね、この歳でって思いますよねーはぁ、わたしも青春時代っぽい事とかしたいんですけどねー」
えっと…答えづらかったら別にいいんだけどご両親とか親戚のもっと大人の人が管理すれば…?
「うん…名義上は今現在も父と母が神主さんなんですが…その…私の両親なんですけど…」
話ずらそうに来宮さんがそっと私に耳打ちしてくれたけど耳を疑ってもう一回聞いたから間違いない、
来宮さんのご両親は今…海外に出張中でボランティア活動中…っとなんとかPOとかに参加してるのかな?
「困っている赤の他人よりこっちの神社の方が大事なんじゃないのって問い詰めてもいつも知らん顔ですよ…こんな事あったんですよ。 12月の末ってクリスマスじゃないですか、プレゼントとかうっすらと期待して寒いなって起きてみてみたら両親居なくなっているんですよ」
諦めた顔でため息を吐いて、来宮さんの背中が少しだけ丸まってた。
一年で数日間家に帰ってくるだけで半分出稼ぎみたいな感じだって来宮さんはそんな話を私にしてくれたけど…私も似たり寄ったりだからさ…
「神社も安心して胡坐を掛けるほどの余裕もないのでまぁ…仕方のない事だとは思うんですけど、代々守ってきたお社を蔑ろにしてはいけないと思うんですよ‼︎」
そう来宮さんはその胸を張って主張する。言葉の綾じゃなくて本当に張ってる…コホン、それはそれとしてなかなかの帰ってこないのは大変だね来宮さん。
自分の世話の自分でちゃんと出来る人と出来ない人が居るからねー、わたしは多分…出来ない方の人だと思うよ。
「掃除に洗濯とそこまでは一人分なので問題ないんですけど…神社の用務がどうにも人手が足りないんですよー、管理と維持を同時にするのが難しいのですよ」
来宮さん一人だと出来ることに限界があるんだね?
うーん、わたしに良い考えが思いついたら…
「あ、でもですね、土曜日と日曜日限定なんですが手伝って下さる方がくる様になるんです。 幾分かはこれから楽になるんですよ‼︎」
お手伝いに来てくれる人がいるんだね!
私がどんな人かと聞くと来宮さんは私と同じ位の方ですとなんでか少し照れ臭そうに話してくれた。
「何でもこの辺りの歴史に興味があったとかで私の知らない事を色々話して下さるんです」
へーそうなんだ、私はそーゆーのの良さみたいなのはよく分からないや。 好きな事があるのは良い事だと思うけど。
「レイピアさんは何か好きな事とかお有りなんですか?」
うーん、そうだね…甘くて美味しいものを食べたり…小物集めとかかな? ネックレスとかバックとかにつけるキーホルダに取り付ける様な小さなものを並べて見ると楽しいよ?
そうだ!来宮さんも食べに行かない? 今日は確かパンケーキだったと思うよ?
「パンケーキ…それは今噂のふんわり系パンケーキですか⁈」
それはーどうか分からないけど今週はパンケーキがメニューにあった気がする…でも来宮さんすっごい食いついて来たよ?
「あの分厚くてでも柔らかい洋菓子がテレビでやってたのを見たんですけど、中々お洒落なお店って入りにくくて食べられてないんです‼︎」
なるほどなる程、なら来宮さんも私と一緒におやつ食べに行かない?
「え⁉︎ 良いんですか?…ご一緒させていただいても?」
そんなにかしこまられちゃうとこっちが困っちゃうよー、私こう見えても来宮さんと一緒の学年だから!
高校一年生に見えない程、私の見た目が子どもっぽい事は私が一番よく分かってるからね、だから仲良くなってくれる人にはそれを言わない様にして欲しいなって…
「そうですよね、気にしてますよね…すみませんでした」
来宮さんは直ぐに謝ってくれた。 まぁ…高校生には見えないサイズ感だし…だし…これ以上は辞めよう。
隣を歩く来宮さんに圧倒されちゃうからね…はぁ。
「レイピアさんって、先日神社を来てくださった際には参拝が目的で来てくださったのですか?」
え? うーんと、単純に散歩してたら見つけたって感じ?これからお世話になる場所だし、色々と知っておいた方がいいよねって事になったんだっけ?
「そうですか…いえ、その今後とも神社の行事等ある際にはぜひ来ていただきたいなー、という様なすっごく事務的なお願いなんですけれど…」
事務的なお願いなのー?
「はい…」
神社の神主さんとしての事務的なお願いじゃなくて、来宮さんからのお願いだったらいいよ!
そんな事を言ったって差は無いけど、頼まれるならそっちの方がいい!
「…! それなら私からレイピアさんにお願いしますね?」
来宮さんによるとれいさい?という神社の祀ってある神様のお祭りのほかにも大体季節に一回は行事を開いているんだって。
一番近いお祭りはお花をお供えして今年の作物の豊作を願う舞を踊って神様にお願いするって来宮さんは神社についての話をずっとしてくれた。
昔はそれこそこの地域で一番大きくて古い神社であった事、祀っている神様の故事・逸話を簡単に教えてくれた。
お話はゆずの木に着くまでの間では収まりきれない程の話になりそうだったから一旦それ位にしてもらって私達は成り行きでゆずの木さんの扉を叩いた。
ますたー!やってるー?
マスターはカウンターの奥で静かにコップを拭いている。
結構昔のものが沢山置いてある店内で、レコードみたいなのがくるくると回って音楽を掛けていた。
曲名とかはぜんぜん知らないけどゆったりとした歌詞の無いやつだね。
「はい、いらっしゃいませ…おや? レイピア、今日はまた違うお客様を連れて来てくれたんだね」
いらっしゃったよー、こちらえっと? なんて神社の神主さんだっけ?
「は、はい! 四の宮熱川神宮宮司見習いを務めております、来宮 優花と言います! 初詣に年の瀬、除夜の鐘、祈祷、除霊、結納などの折は是非とも熱川神宮をご利用くださいませ‼︎」
来宮さんが90度深くお辞儀をしながら一気にこの台詞を通しで言ったのには素直に驚いちゃたよね。
「なるほど…なにかとお世話になると思いますので宜しくお願い致します。
喫茶店ゆずの木の店主、皆からはマスターなどと呼ばれています。来宮さん、ご丁寧にどうもありがとうございます」
マスターも深くお辞儀を返してカウンターの席へ私たちを案内してくれた。
「はっ! はい!あるがとうごじゃいます!!」
来宮さん、緊張してる?噛んじゃってる、噛んじゃってる。
「そうそう、今週ののケーキはパンケーキにチョコレートソースかメイプルシロップ、ドリンクセットは紅茶かコーヒーです。 あ、席はこの通り空いているのでどうぞお好きに」
他にお客さんはいるかなって見渡してみたらスーツ姿の男の人や新聞を広げて唸るおじいさん、窓際で井戸端会議をする若い女の人のグループがいる…
もしかして混んでる時間にお邪魔しちゃったかな?
「そんな事ないですよ、このお店のでは皆さんが思い思いにゆったりとした時間を過ごせればいいのです。注文待ちも音楽やご友人とのお喋りでどうぞごゆるりと…」
そーだね!それじゃあお言葉に甘えて!
私は来宮さんをカウンターの席へと案内する。
マスターが私たちの注文を聞く前に私がケーキドリンクセットを二つね!って言っちゃったけどいいよね?
「あ…はい、大丈夫ですよ?」
む…来宮さんもしやメニューとかも少し見たかった?
あー、そうみたいだね、仕方ないですって顔に書いてある…来宮さんごめんなさい。
パンケーキ食べたかったから全然良いんですよ。
って来宮さんはそう言ってくれたし、よし私も気にしないよ!
「それではケーキセットをお二つ、飲み物は選べますが…この中から選んでくださいね」
マスターは静かにカウンターの中からお冷やを二つ置いてから注文を聞いてきた。
私は、うーんと…私はロイヤミルクティーでパンケーキのシロップはメイプルね!
「あの、私はカフェラテにチョコレートソースをお願いします」
おんなじでもちょっと違うものを二人で頼んで内心ワクワクしながら今日のおやつを待っていた。
程なくしてマスターが持ってきたそれは衝撃的な姿をしていたんだ。
パンケーキ…本当にこれがパンケーキ⁉︎ これプリンじゃないよね?
「…凄いですね」
来宮さんは感心した様な声を出してるから…これ本当にパンケーキなの?
なんかこう…均等に厚みがあって焼き目がついてるし…すっごい柔らかそうで…ババロワとかゼリーみたいに今にも崩れそうな柔らかさと不安定さをもって私達の前に現れた。
マスター、これってどうやって作ったらこんな風になるの⁉︎
「そうですねー、詳しくは企業秘密を含んでいますので言えませんが色々と手間を惜しんでいます。
それと一つだけ教えるとすれば…これでもかというほどメレンゲを入れていたりするかもしれません」
マスターがそう話す自信作は、指で突けばポヨンと微かに震えそうで私の知ってるそれとは全然違うよ、見た目からしてなんか凄いよねこのパンケーキ!
一緒に目を丸くしてくれるかなって来宮さんの方を見たら、来宮さんがすっごく目を輝かせてた、本当嬉しそうにチョコレートソースの入った小瓶の蓋を開けてね。
あっという間に自分の世界に入っちゃった来宮さんに、私は何も言い出させないままパンケーキ(みたいなもの)に挑む、恐るおそる…ナイフは要らない程に柔らかいそれを掬い取って口に運ぶ…
お味がどうだったかはまた次回まで取っておくよ! 折角だからね!
次回へ続く。
ここ最近思うところがあって、筆を折るとか考えたんですが…
自然消滅するのもなんとも恥ずかしいので、亀更新で宜しければ時々この子達のわちゃわちゃを追いかけに来て下さい




