暗がりの怖がりさん一
今年の筆の書き納になったりならなかったりです。
格好は良くなくても良い、駄作とも格好を付けることだけは忘れるなよ?男ってのはそんなもんだ。
こんな台詞を言う程にうちの親は機嫌の良いときにはこの様な威勢のよいことを言い、 弱音を吐く時は人類滅亡が起こるんじゃないかと言う人だった。
良くも悪くもビックマウスなのだけれど、僕も調子に乗ると普段なら絶対に云わないであろう言葉を口走ってしまう事がある。
やれやれやっぱりあの人の子なのだなぁと少し嫌になるのだった。
本当に冷静になってみると実に余計でまたキザな台詞を言ってしまったと後悔がひたひたと押し寄せてきたし、恥ずかしくなったのは言うまでもない。
一体何様のつもりであんな事をしていたんだ、
魔が差したで済ませられるなら嬉しい話だ。
しかしそうは問屋が卸さないのが現代の社会である。
そっと抱き寄せた小さな肩の震えは僕から離れようとはしない。
未だに僕の手の届く距離に彼女は収まっていた。
いやー、これセクハラ案件だよこれって絶対…怖がって動けないんでしょ。
「あのさー、レイピア?」
ほんと軽率なことばっかりしてるな僕、面識があるとは言ったって出会ってからまだ2日と経っていない女の子に対してなんて事をしてんだよ…⁉︎
映画の中では主人公とヒロイン達がが紆余曲折、七転八倒あったけど王道なハッピーエンドへ突っ走っていたけど僕らはそれどころじゃない。
彼女にこの寮からも「逃げること」を進めるだなんて、これはしかも僕が嫌いな一時の感情に任せた突拍子もない無責任な考え方だ。
出来ない事や合わない事からば僕は逃げてしまった方が良いと確かに思っている。
追い込まれて正常な判断ができなくなるよりはよっぽど良いと個人的には思うんだけど…まぁ時と場合によるって話ではある。
僕が自分のした事に
「うーん…あ、涼くん腕はちょっとそのままでいてね、 多分涼くん今すっごく恥ずかしいのは分かってるんだけど、私…ちょこっとだけ…あ、甘えちゃいたいから」
レイピアの表情は俯いてて分からないものの、彼女は僕を気味悪がって拒絶するとかそんな事はなかったけれども冷静になった僕にとって僕には少し酷な話だが、それでもレイピアが良いというのなら、しょーがないよね? しょーがない、しょーがない…
「ねぇねぇ涼くん、涼くんってみんなにこんなになるまで優しくしてくれるのはどうしてなのかな?」
薄く影が広がる中で彼女はポツリと僕に質問を投げかけてきた、そうだね…僕の「優しさ」というものは無関心と人によく思われたいという自己顕示欲もある種絡んでいる。
僕が本当に他人を思いやることが出来たのならあんな事にはならなかったし、半ば強引に学区から離れた高校を進学して寮生活をする今の状況に落ち着いていない。
少なくとも僕の姉は死んでたりもしないだろうな… 黙っている僕を見兼ねたのかレイピアは二の句を繋ぐ。
「あのねあのね、私ばっかりがいい思いしちゃっている気がして仕方無いの。 人に優しくするのって誰にだって分け隔たり無く出来ることじゃないって私ね、思うんだ」
「誰にだって優しくする」事は果たして正しいことなのだろうか、僕はその手の考え方を2つに分けて考えたことはなかったし、多分b僕の矮小な個人的領分の外で起きるあれやこれやに関しては基本的に無関心で関わりを持ちたくない。
外の世界で起こる一切合財が僕に影響を与えずに青信号で進めるのならそれには越したことはないんだけどさ?
「誰にだって無色透明な存在で僕はありたいんだ、意識の外で一目をたまに置かれるのが理想で、事件と事故の当事者にさえならなければいいと思う」
平穏無事であればいいと切に願って行きてゆくはずだったのだけれど、レイピアといるとどうにもいつものステルス涼君が出来ない。
「でもさ涼くん、私はね涼くんと知り合えてよかったなって思ってるよ。 男の人ってこーんなに優しい人がいるんだなって!!」
優しい人か…レイピアは僕をそう言ってくれるけれど意外と僕は計算高くって空っぽなんだからね?
「ありがと涼くん、きっと偶然なんだろうかど君がこの部屋に来てくれて本当に良かったよ!!」
こうも正直にお礼を言われてしまうと返す言葉も出てこないんだけどどう致しまして位が精々だった。 僕はレイピアの…そういう所がズルいなってつくづく感じている。
レイピアは僕に預けていた肩と重心を離して静かに立ち上がると僕の前に立ってゆっくりと高らかに宣言をした。
「私は涼くんのお話みたいにここから逃げちゃってもいいかなって、少しだけ考えてた。 多分君と一緒にいる生活っていうのは一人でいるときとこれまでの何倍も楽しいことがいっぱいだと思う…」
「ここから逃げて暮らす」なんてただの妄言しかなく現実的な話じゃないとレイピアも僕も分かっている。
それなら僕らが取るべき手段は僕の考えでは2つしかない、大人の言うことを聞いて素直にレイピアが元いたお屋敷に戻るか、それとも…
「でも、後ろ髪をずーっと引っ張られながらってのも嫌だし、引き伸ばしたり…ややこしくしたり、迷惑かけちゃうのはもーッと嫌だからもうはっきりした答えを出しちゃおうって思うんだ!!」
「へぇ…どんな?」
「お宅の娘さんは反抗期です!!ってね!!」
「…つまりは、はっきりと家には現状のままでは戻りませんと言うわけだね」「そういうことになるね!!」
予想通りといえばその通りなんだけどそれはまたどうしたって気の進まない話だなぁ…僕に彼女の決定を止めることは多分出来ないし…犯罪の片棒を担いでいるといえば語弊は有るんだけどさ…僕が気乗りするような展開ではないよ。
気乗りしようがしまいがこのまま事態が進んでゆくと恐らくは「お嬢様を誑かした諸悪の権化」になりそう…嫌な予感しかしない。
そんな苦悩と心配を他所にレイピアは両手を広げて、なにをするかよく分かってない僕を無視して「ど~~ん!!」と声を上げて僕に向けて抱きついてきたのには全くもって予想していなかったけど、既のところで避けた後の彼女の表情はふくれっ面だったのだがその話はまた次回にするとしよう…




