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僕の部屋には座敷わらしが住んでいる  作者: 峠のシェルパ
第四章 路地裏と宣戦布告
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第二次203号室会談その1

 丁重にかつ敵意は見せずに男は僕の部屋を後にする、静かな霧雨を背にして久井楓は深く頭を下げていた。


「本日は突然押しかけてしまい申し訳ありませんでした。

お嬢様は恐らく持ち物として紺の長包みを持っております、街なかでお見かけしましたら状況等を報告ください」


誰かさんの紺の長包み…たしかあの中には銃刀法違反の代物じゃなかっただろうか、というか完全にこれで決まったようなものだけど…僕は聞かれないから口を噤むで見送りをする。


「雨、降っているみたいだからせっかく乾かした髪が台無しになる前に、これを貸しますよ」


このまま喧嘩別れのようにして彼を返してしまうのも嫌だった。

近くにあったグレイの折りたたみ傘(何故か目付きの悪いペンギンのシールが貼られている自前の)を手渡しする。


「これは…お借りしてよろしいのですか、北村様の持ち物であるかと、加えて安価で粗雑な作りのビニール傘なのでもなく…」

「いや別にそんなに何か特別なものと言うわけでもないから別にいいです…よん」

よん…だなんて変な語尾が出たのはこれが僕のもので少し思い入れがあってその理由をふと思い出していたからだ。


「そこまで懇意にしていただけるのであればこちらも受け取らないわけにも行きません。」

実はあんまり好きじゃない傘だったからこれで折りたたみ傘を買う口実ができた。 とは僕は思ってはない。


「この御礼はいずれまたしたいと思っておりますので本日はこれにて…失礼いたします」


他人行儀で最低限に込められている僕に対しての興味を感じながら僕の寮室のクリーム色の扉は風に煽られた雨を少し招き入れてしまったのだった。


なんでまた僕の部屋にはこう突然に当然のように人が舞い込んでくるのだろうかと鍵を締めながらそう思ってため息をついた矢先、


締めたはずのドアが叩く音がして何かと思い開けてみると久井くんがまた立っていた。


どうしたんだろう、何か忘れ物をする物はもっていなかったと思っていたんだけど?


「済まない北村涼…様、重要なことを忘れてしまっていた」

なんだろう久井君、やっぱりレイピアの痕跡を探るために上がり込んできたりするのだろうか。


それは非常にマズイ、寮室の右側にある和室は「開かずの間」であり、そこはレイピアの自室だ。


それを開けてしまえば恐らくは彼女の私物から久井くんはそれくらいの事は感づくだろうからそれだけは避けなくてはいけない。


「そうだ、何につけてもこれがなくては始まらない、あの方の事をあまりに話していなかったのだ」


あ、そっちねなるほど。基本的なプロフィールとかないと人は探せない。防災無線とかよくやってるよね、年齢と背格好と何時から行方がわかっていませんとかいうつもりかな


「そうなのだがしかし、あの方は年相応に見えないので何歳くらいというのが適当か私にはいまいち分からないのだ(容姿的な意味でだが)」


「年相応に見えない…か(精神的な面でかな?)」


「そうだ、今日は一先ず傘を貸していただいた礼として我が主人さまの名前をお伝えするとしよう、捜索をする上で必要になるかもしれん」


えぇ….前提条件として教えて欲しいモノなんだけど僕が仮に見つけた時にどうやって声かけて引き留めたり、保護したりさせるつもりだったんだ。


改まる必要は多分なかったけれど久井君は咳払いをして僕へ主人の名前を呼んだ。

「あの方の名前は……」



彼はもののついでに自分が探している主人の情報を少し話して僕らの寮室をあとににした。


「正直な話をする…この瞬間にもこの学生寮の周辺であの方が居場所もなく所在地も分からずに、

どこかで蹲っているのだと思うと居ても立っても居られない、これは…私の正直な想いです」


そんなに大切に思っていたのならどうして…暖かく近くからでも遠くからでもいいから見守る事が出来なかったのだろう、幸せってのは衝突しないと得られないってのに


「彼の方を救えるのは私のだけなのだから…」

去り際彼は自分に言い聞かせる様にドアの隙間から呟いていた。

しかしあくまでも彼の身分は「執事」、あの旧家の家庭内問題を解決するだけの発言力を有しているのかは分からない。


「また随分と一大事の主犯になりそうな予感がするなぁ…」

居間に戻った僕は

僕でも知っている有名な家の名前が偶然にも出てきたものだから驚いたけれど多分偶然じゃない、あの子はかなり「旧家」と呼ばれる家の人間だったのだ。


この話、なんかとってもこじれてそうな気がして手を出してしまった



テレビでもたまに出てくるあの手のこの手で激動の時代を生き残ってきたとドラマチックに語られていたこともあった有名な家の名字が久井君の口から出てくるとは思ってなかった。



聞かされては僕の昨晩したはずの決意も早くも揺いでしまう一介の高校生で相手ができるもんじゃないこれは…僕は居間まで来て聞いていたラジオを消して思考を巡らせに掛かった。


「いや…彼女がしているのはただの家出だ、誰かをどうにかならなきゃいけない程の事じゃない。

僕がしているのはあくまでもレイピアが雨風に濡れたり、何かに巻き込まれてしまわないように保護しているのに過ぎないのだからそこには僕の意志はないんだ」

 

自分の中で形作った道を確認して次の宛のない日日を過ごす起点にする。

「人前では大人しいくせに一人になるといっちょ前に雄弁じゃないか」と付いていないテレビに映るぼやけた輪郭はあの知人のように水を差す。


しかし、僕は一度D51の電話越しに久井くんに向けて喧嘩を売っているけど気が付かなかった? 声色を変えたつもりもないし、そういえば電話越しに名乗ったっけ?


「後は…うん、レイピアが本名を言わなかった理由が分かった。 ある程度の人ならそれを知り得ているから多分、協力もせずに腫れ物に触る様に扱うのが目に見えているからだ」


それなら僕は何も知らないフリをしてあげるのが一番ってことかな、やっぱり。


となると困るのは三日後の久井くんに関することが当面の課題ってことになるよね、また来るって言ってたし。

なら …レイピアを意図的に管理人室等に誘導して執事と主人とのエンカウントを防いでみるか?


「それで防いでみたって結局の所で僕はレイピアにどうしてほしいんだろう…?」


考えてみると最後にこの疑問に遭遇するのは予想がついていた。けど折角なら僕は彼女とその父親が和解する形で事が運べば万々歳…なのだが絶対にそうはならないのは今の状況では想像に固くはない。


「というか完全に悪化しそうな未来しか見えないよね…」

溜息が浮かぶが時間が過ぎる、人の幸せを希うために動けるほど僕は聖人のようには出来ていないし結局事態をややこしくしているだけなのでないか?


「でもレイピアは…」

僕のこんな悩みお構いなしにズバッとこうなんだと言い切ってしまうのだろうからこんな思考はするだけ無駄かもしれないな。


落ち着くためにコーヒーの一杯でも入れようと思った矢先にうちの座敷童子さんは「ぴんぽーん!!」と本日二度目の玄関のチャイムを鳴らした。


「ただいま~そしてぇ、やっほー!!

ねぇねぇ涼くん、この映画面白いってマリアに言われたから一緒に見てみ…室内で大きめな虫でも見つけちゃった人みたいな変な顔して」

「…うん、レイピアおかえりマリアさんと話し込んでたのかな、ちょっと長かったね」


「うーんまぁ、乙女達の歓談はきっと太陽も邪魔できないんだよ。 それでそれで涼くんはそんなお盆と正月が一緒に来たみたいな顔しちゃって」


レイピア、そのお盆と正月が一緒来たって表現はおめでたい事が二つ同時に起きた時に言う言葉なんじゃないかな。 どっちかというと定期試験と模試が同時に来たみたいな顔をしていると思うよ個人的には、


「ふーん、涼くんって映画とか詳しそうだよね〜」


また全く違う話題をふってきたねレイピア、僕はどちらかと言うと洋画や邦画とかよりラジオパーソナリティの方家族事情とかの方が詳しいよ?


レイピアは後は涼くんやってね!! と言いたげな眼差しを向けて僕にDVDのパッケージを渡す。


彼女は映画を見る気満々、昨日買ったお茶の葉でお茶でも入れるつもりなのだろうけど…

「僕の部屋だけどDVD(これ)再生できるものは多分ないよ?」

機嫌の良かったレイピアの背中がピクリと反応して「なんでよ〜?」とは不満ありげに言ってきたので僕は普通に事実を返す。


「寮室の備え付けのテレビにはDVDプレイヤー付いてないし、僕は自前のパソコンを持ってないからね」


「じゃぁさ、じゃぁさ!買ってこよーよ!」「レイピア、高校生のお財布にそんな負荷を突然かけるもんじゃありません」


幾ら仕送りを半ば強引に取り付けたとは言っても僕の予算には突然すぎる負荷だ。

「むー、じゃあいいよ。 後で返してくるから…一回お茶でも飲もう!」


今日は少し苦いコーヒーを飲むよとレイピアに返すと「コーヒーってあの泥水みたいな色になるやつ? あれよりもお茶の方がいいよ、tea」


ど、泥水は幾ら何でも言い過ぎなんじゃない? まぁいいか、僕としてもレイピアに話したい事があるんだ。 ちょっとした珈琲の奥深さと君の話なんだけどね?


次回へ続く!

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