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僕の部屋には座敷わらしが住んでいる  作者: 峠のシェルパ
第四章 路地裏と宣戦布告
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誑かしと訝しむ

彼は厳格にして別格な男だった。 飴と鞭は使わない、苦々しい後味も白々しい甘酸っぱさもなくてあるのは鼻に抜ける辛さと後に来る深い優しさだけである。

もしも主人に再び出会えたとしてあの方の行動をただひたすらに問いただすつもりは彼には無かった。


お嬢様がそれに耐え切れなくなり御屋敷をほぼ着の身着のまま飛び出した要因を自分は分かっていたから。


そしてそれを阻止出来る立場でありながら放置したのは自分の負い目であり落ち度があると自覚しているからこそ私は今勝手に苦しんでいるのだ…


身辺警護と執事を兼任する職業がまさかこの国に実在するとは思っていなかったけれど、彼の話が真っ赤な嘘だとしてこんな話がすらすらと出てくる訳無い。


明言は避けるけど彼は多分レイピアの関係者であり一番近くで彼女の様を見てきた人物なのだろう。


…ならば僕は彼にもある程度の敵意と言うべきか怒りを示したいものだ、事情と立場はどうであるかは僕には分からないけどね。それは僕の100%自己満足だ。

「さて、北村涼様」

「あんまりフルネームは好きじゃないんだ、名字に様をつけるのがいいかな」

「なるほどそうですか…それでは北村様、私は遠回りに話をするのが嫌いですので単刀直入な物言いをします。

正直に答えてください、私はこれでも日常的に使う道具で拷問する方法を心得ていますので…今この部屋には貴方以外の人が居ますか? 」


針の様に尖った視線を僕に投げつける久井君に狼狽えてはいけない、付け入る隙を狙って来るのは火を見るよりも明らかなのだから。


「…誰もいないです、今この部屋に居るのは久井さんと僕の二人だけですよ」


※この場には居ないだけでいつレイピアが戻って来るやもしれないこの状況は非常に、非常にマズイ。


「その様ですね、私も人の住んでいる部屋へヅケヅケと入っていくほどの図々しさは持っていません、そして貴方もどうやら嘘をつけるような方ではなさそうだ」


僕は平静を装って安堵を隠す、恐らく久井君に情報を渡したのはD51だろうけど一体どんな風に話したのだろう。


「貴方の部屋には隣人は居ない、それではもう一つ、この寮には座敷わらしなる妖怪が住み着いているとの話は本当ですか?」


座敷わらし…レイピアが寮母であるマリアさんの部屋や僕の部屋の様な空室にいるのを「座敷わらし」って呼んでたって話のはず、レイピアの話を聞く限りではね。


「座敷わらしが妖怪かどうかは分かりませんけど僕は寮監さんからそんな話を聞いたことがあります、恐らくは寮監さんの従姉妹とかなんだろうなぁ…」


久井君は興味がないと言いたげに小さな溜息を吐いて視線を僕から晒す。


「それはまた出会うことができたらば青い鳥の如く幸運でも舞い込むのでしょうね」


必要な情報以外は聞く耳持たずといった具合に聞き流す久井君へ僕は関係無いフリを装いながら話を逸らすかお引き取り願いたい、


「その…「お嬢様」はどんな方なのでしょうか、もし街中で見かけたとしても特徴などあれば…」

「北村様、ままさか協力をして下さるのですか?!!」


久井君の目の色がキラリと輝きを持って僕に迫る、そんなに切羽詰まる状況なのか…手掛かりがD51の意地悪に中途半端な情報だけならまぁ当然なんだろうけど…あいつどこまで教えたんだろ….?


「得られた情報が小谷 202しか無く全く情報として不十分で何が何やら…そこで他者の協力を得られる事をあの方は教えたかったのか….?」


久井君は何か勘違いしてくれた様だが、D51…正解をそのまま教えてるんだけど…!? 「あいつ何してくれてんのさ!! 」と僕は心の中で吠えた。


「しかし、回りくどい事は時間の無駄だ。好意はとても有り難い…がこの事案に関しては私の案件であり私の所為でもあるのだ、だからお嬢様の行方は私一人で調べ続ける、すまない」


久井君はレイピアに何か負い目があるのだろうか、それとも執事としての仕事への使命感からか久井君は僕の協力は仰がない様だ。

いつまでも隠し通せるものでもないからどうしたものだろうか…


「そう…ですか、とにかくこれ以上の進展がないのであれば私がここにいる理由は ないか…」


大きな溜息をついて回れ右をしようとすると彼を僕は何となく引き止めた。

「髪を濡らしたままだと寒さにやられますよ。まだ濡れてるじゃないですか」


久井君が僕の言葉を確かめる様に頭に手を伸ばす、僕の見立てではまだ完全に乾いていない様だったが…


「…確かにまだ芯が濡れている、北村様申し訳ないのですが替えのタオルを貸しては貰えんだろうか」

久井君の提案を快諾し、替えのタオルを取りに僕は洗面所に向かう。


「体が冷える程濡れているでは無いのだが、また急に降り始めてしまって…」

あんまり長居させる訳にもいかないと思いつつもこちらになんらかの有利な情報を得たいと僕は柄にも無く欲をかいた。


「天気な中々思うようにはいかないものです、それが季節の変わり目なら尚更のことだったりしますよ」

そんなおべっかや中身の見つからない世間話は余りにも興味がないのだがここは我慢しよう。


「それもそうか…ハァ…まるで情報が無いのは当たり前と言えばそうだがここまでとは」

久井君はD51以外に他に当たれる情報筋とか無かったのかな?


「うーむ、この街より遠くは生活圏をはるかに超えるから出ると言う可能性は低い…ましてや進学先の学校も始まることも考慮すれば学生寮か学校近くの宿泊施設を転々としているのではないかと思うのだが北村様どうだろうか?」


久井君の推測はレイピアが「お嬢様」で今頃下の階でマリアさんと話し込んでいるの女の子だと考えれば正しいものになるね。


だがしかし僕は昨日の電話の声がこの人だと確信している!!

つまりこの人が探しているのはレイピアに他ならない、電話のこえは本人のものでないとしてもだ。


「そうかもしれない…けど出来心とか一時的な感情では無くて、入念な計画の上なのだとしたら…どこか頼れる場所を決めて遠方に行っている可能性もある…かも?」

ならば僕のやる事は久井君には悪いが君を撹乱する事だ。


「お嬢様は何も考えていない様に見えて物事を考え抜いている…が時としてすっぽ抜けて直感での行動で痛い目にあう事もありました。」


あー、確かにあの子は物事の順序立てより勘で動いた後で調整する方が性に合ってる気がする。


「雰囲気としては仔犬…というのは失礼ですので動物ではなく花で例えましょう」


久井君…さては君、嘘を付くのとか隠し事が苦手なタイプだね?

「花で例えるとしたらそうですね、相応しいものが何種類か思い浮かびますが…私が考えたのはかすみ草です」


霞草…? 聞いたことない花だけど…覚えてれば後で調べてみよう。


「黒髪で肩に届がない程度に短く、猫の様なツリ目な背丈身長だけで言うとかなり小さめで…

もし…もし見かけましたらこちらの電話番号までお願いいたします。 出来れば引き止めて説得してくださいませんでしょうか!」


そんな誠実にお願いをされてもごめんね久井君、僕は君の側にいないんだ。それに説得をしろと言うのが僕は納得がいかない。


あの子の話を、あの子の意見を、あの子の夢を君たちはさっぱり聞いてあげていないでしょう?


「説得…? 家出までした子供をどうやって引き止めるのか聞いてもいいかな、久井君」


「それは北村様、屋敷にいる者達やお嬢様の父上も含めて皆が心配で心配で…夜も眠れないのです、お屋敷は浮き足立っています。 お嬢様の身を案じているからこそ、お嬢様には無事にお屋敷にお戻り願いたいのですよ!」


何故そこに反応するのだと思っていそうだが僕はそのび事件に色々と知っているし、座敷わらしが家を出るのは…

「家出なんて、親が悪いんでしょう? 」


子供は親を映す鏡だからちゃんとしなさいと人前に出る時はよく言われていたものだが親と子を「=」で示すのは正しくないと思う、「≒」で表すのが適切なんじゃないかな?

レイピアの親子が鏡に映ったら似た側面は出てくるのだろうか。


「……何故そんな事が言えるのだ北村涼」


「何も難しい話じゃないよ、家を出て行くんだから原因はそのお屋敷にある。 そして一番説得ができそうな君が選ばれてここに来ている、君のお嬢様に対する意識は多分信頼と親心みたいだし、そうなるとそれ以外の全てが原因だよ。」


形として親から子への暴力は無かった。

だがしかし、無関心とそもそも子どもとの時間の共有をしないというのは親子関係を稀薄にしかねない。


それが途中からというのであれば尚更だと思う。 それこそ家を出るに至った経緯が重要だけど僕はそこまではまだ踏み込めていない。


「まるでお嬢様を知っている口ぶりだな、部外者としてでは無く何らかの関わりを持っていそうだが…まさかお嬢様と何処かで会っている?!」


あー、その勘の良さは凄いと思うけど残念ながら会っているじゃないんだよね…君はここから先へは絶対に行かせない、証拠を掴む前に髪を乾かして、折りたたみの傘を押し付けて御退場願おう。


「知らないよ、僕にはなんにもない。 ありふれていない君らの視界の外側の人間だ、この話はここでおしまいでいいかな? 僕もなにかと親子関係がこじれたタイプの人間でね」


不服そうな顔をされても困る、状況的証拠だけ集めれば、うちの部屋の座敷わらしは君の探しているお嬢様になり得るのかもしれない…けど


「そのお嬢様を入学式で探したい、入学予定なのだとしたら姿は抑えられないまでも名前とクラスだけでも抑えて情報を渡したいのだけど…いいかな?」


久井君はこちらに一瞥すると胸ポケットから名刺を渡してきた。

「私の名刺の裏にお嬢様の名前を書いておいてあります、何か情報を得られましたら下記までご連絡ください。

それと一つこれは助言なのですが慎重にお嬢様とは接触をはかりお話をしてください。

彼の方は……とても臆病で繊細な方ですのでくれぐれも邪な考えなどは持たぬ様に願います、そんな事は無いとは貴方を見ていれば分かりますが…ね」


久井君は「それでは入学式が終わりました頃には私はまたこの場所を訪れることにしますのでそれでは」と足早にきびきびと部屋を後にしたのだった…


さてと、うちの部屋のお気楽妖ガールちゃんは一体どこで油を売っているのかな…?

悩みの種が学校の始まる前なのに大量に仕入れてしまった僕の明日は一体どうなるのだろうか…



つづく!!


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