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僕の部屋には座敷わらしが住んでいる  作者: 峠のシェルパ
第四章 路地裏と宣戦布告
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訪問と尋問

手に負えないと判断したものには一切手を出さない。と決めていたんだけど僕は今正に手に余る話に首を突っ込んでいる。

事態が動かなければどうと言う話では無いが、昨日の夜の事も考えると…うちの座敷わらしの出所からまた何かありそう、それはおいといて一先ずは鳴った玄関チャイムに対応しなくちゃいけないよね。

さっきうちの臨時同居人がマリアさんところにDVDかなにかを借りに行ってきたからきっとその帰りだろうと確認をするために僕はインターホンを覗きこんでみた。

「は~い、何方ですか?」

覗き込んでは見た、見たもののそこには残念ながらガランとした廊下とその奥の景色があるだけでチャイムは鳴ったが誰もいないという…あれ?


まだぞろD51が悪戯か何かしに来たのかもしれないけどあのしたり顔は当分の間拝みたくないよ僕は。嫌だ…あの人、正しいのかもしれないけどそれでいてあれだけ我が強いと言うことは多分あまり人当たりが良いとは思わないのだろうな…


この部屋に他に用事がある人はマリアさんとうちの座敷童くらいなものだが…


「あ…こちらがカメラか…不躾な真似を致しまして申し訳ございません。つかぬ事をいくつかお伺いしたいのですが少しお時間はありますでしょうか」


来訪者はいつだって突然にやってくる、今回もその通りだった。

僕らと変わらない位に見える少年、朱色の髪をした差し支えない整った顔立ちが画面には写っていた。

えっと…どちら様?まだ見ぬ 隣人が挨拶回りでもしに来たのだろうか。


「あ、ええと…時間はない事は無いんですが、これ何かの勧誘とかでしたらご遠慮します。 ウチは無宗教なので」「あ、その類の回し者ではないのでご安心下さい」

口調は恭しく丁寧な人だ、だけども格好が格好なだけに怪しく思えてしまう。

だって、どう見たってアニメとか漫画でしか見たことの無い「燕尾服」みたいな格好をしていたのだから怪しまない?

真っ黒なフロックと赤紫色の中着を見事なまでに着こなしている。正直男の僕でも格好いいと言わざるを得ない美男子っぷりだ。

「私はとあるお家に仕えている者です。少々お尋ねしたい事がございまして伺った次第なのですがよろしいですか?」

うーん、品定め…悪い人…には見えなかった。 悪意はそれこそ最後まで隠しておくものだろうけど、燕尾服(そんな格好)をして街に出ている時点でもう悪い人ではない気がする…気がするだけだけどね、 僕の直感はよく当たるんだ。


「もしかしてですけど外は雨模様ですか?」

静かな異音がしている、実は彼の背後で霧雨がにわかに降り始めていたのだった。


「あぁ、あいにくと雨具を持ち合わせていませんでしたので目的地付近に到着するまで我慢をしていました…お陰様で少しばかり濡れてしまいましたが…」


気温はそこまで高くない今日この頃にそんな涼しげな顔をして外にいられるものだろうか、

「そんな場所で立ち話でも味気ないでしょうし、何よりそこでは体を冷やしちゃいますから上がっていきませんか?」

急な来客は初めての事じゃないし、四月になった早々に彼に風邪を引いてしまっては僕も夢見が悪いからね


「げ、玄関先で構いませんのでタオルなど貸して頂ければ幸いです」

カメラに向かって一礼する様子を見て僕は少しばかり胸がもやもやしたけど、洗って畳んである洗面所のタオルを片手に玄関のドアを開けた。


「すみません、お休み中に。私はとあるお家に近侍しております者、名前を久井楓と申します」


背格好は僕よりも細くこの歳の男の中ではかなり華奢な方だと思う。燕尾服とは言っても近くで見るとカスタマイズされていて一般的な服に近づけているのが分かった。

「近侍する…つまりは身の回りの世話をする、という事かな?」

「概ねその認識で間違いないかと思われますがおはようからお休みまでと言う訳でも無いのです、近頃は色々と厳しい審査が有ったりしますので…」


取っ付き難いかと思いきやすんなりと対話に応じてくれたので僕としては有り難い、話の通じない人とか結局自分の中で話が完結する人とは文字通りお話にならないのでとても相手にしたくない。

久井楓と名乗った少年は頭と体を簡単に拭いた後で彼の顔はすっと引き締まったものに変わる、気は許すが仕事に入ると礼儀ありと言ったところかな?



「私は…ある人物を探していおります。それは先日から姿をくらましてしまわれいる方で現在、屋敷の一同で捜索をしている次第なのです。」


人探しか僕には生憎と心当たりがなぁ…よし、無いことにしよう。 なにも知らないし、この部屋には隣人などいないいいね?


「諸事情で公安へ届け出をする訳にもいかず…この春から通う事になっている高等学校への問い合わせと協力を要請したのですがそれも功を奏す事はなく、事態は…かなり深刻です」


言葉を濁すことは無かったけれど僕には彼が思い詰めている様に映った。 何だろう、その一件は自身に非があるのかは分からないけどこの人は多分「自分を責めている」と僕は思った。

下手をしなくてもこの人はあの子の関係者なんだと気づかさせたのはこの直後になる。


「私よりも幼い御年で…直接的な理由があったのかどうかまでは存じませんがお屋敷を夜中、皆が床についている隙を狙って脱出した様なのです。 素直なところ、不届き者達の良からぬ企みによもや巻き込まれてはいないかと戦々恐々で…私事ですがあまり最近寝ていません」


弱々しく笑みをこぼす久井君に僕は返す言葉を持っていない。

それだけ心配をこの人かけさせておいてあの子は「自由」という翼を失いたくないのだろうか、確かにその言葉はそれはもう魅力的で蠱惑的な代物であると言える。

現に僕だってそれを得るためにわざわざ学区も違う高校へ進学を決めたのだから人のことは言えない。


「…ふう、見ず知らずの家に上がり込んで弱音を吐いている様ではダメだな、ちゃんとお嬢様を探さねば御当主様にお叱りを受けてしまう」

久井君は首を左右に振って弱音を振り解く、一念発起というには大袈裟だがお嬢様探しを再開する様だ。


だけども残念ながらその迷い人は実はこの部屋の一室を間借りしていて、しかも君が今いる場所に数分前まで居たしもっと言うのであればこの寮内、一階の管理人室に遊びに言ってるだなんて口が裂けても言えない…絶対に言えない!!


駄目だよ、北村涼。 僕はこの事態に、これ以上首を突っ込まないと決めているんだ、十分に当事者だがここでこの人に気取らせない努力を僕は惜しまないよ。


「そこでですね、通う予定であった高校の方に協力を依頼したのですと言う話はしましたが…」

久井君の話し方が急にさっきの淡々とした口調に変わったので僕は少し驚いたけど彼は僕に話を続ける。


「…寮生の方は大半がお留守ですし、女生徒が使っている一階の奥へは勿論入れません。その高校生の方のした話ではこの小谷荘という学生寮の一角にお嬢様がいらっしゃると…」

その情報を上げた人ってもしかしなくても胡散臭くて真実を語る某暴走機関車さんだったりするよね、本当にもうあいつは…人に信用されないんだろうね。


「…たとえそれが眉唾物だったとしても確かめる必要性はあるとわたしは考えました。 そこで情報を得るために各部屋の方を訪ねに来た次第なのです…貴方のお名前は北村…涼様ですね」

久井楓は静かに僕に視線を投げつける、僕から 真実を伝えるのは簡単だ。

そして許されるのは恐らくかなり難しい…嘘を突き通すなんて器用な真似をするであろうあの人物を僕は意を決して真似をする事にした。 それは期せずしてここへ件のお嬢様を取り戻す依頼を受けたその少年なのだが彼はそれを知らない…


次回へ続く!


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