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僕の部屋には座敷わらしが住んでいる  作者: 峠のシェルパ
第四章 路地裏と宣戦布告
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番外編 宙ぶらりんlibrary 〜微風空我は動き回る〜

義務感と言うものは不思議なもので頭で理解すればするほどに体と頭が病にでもかかった様に動かなくなるものだと空の果てを夢想する微風だった。

「おいちょっと待て、勝手に終わらそうとするんじゃぁない。 我が本編でちゃんとしたキャラでやろうとすると何か不都合な事でも起こると言うのか……!?」

その手の発言がたち悪いと隣にいる旅人は思うのだがそっとしておこう。

「と言うかあの二人は先に返してしまって良かったんだぜ?」

先の話と少しばかり時間は戻り、この話はレイピアと涼くんが早めに図書館から帰ってしまった後の微風と旅人の課題を取り組むシニカルでシュールなトークを淡々とささっとまとめてきたものである。 鎌を掛け合う訳ではないので構ってやってほしい。


「道はそこまで複雑では無いからな、わざわざ小谷荘まで送ってやる必要もあるまい?」

寮から歩くと絶妙な距離があるがほとんど一本道に近いので迷う事は無いだろうと微風は思っているのだが旅人はというと

「二人とも実はすっごい方向音痴でかんっぜんに迷子の子猫ちゃんと化して犬のおまわりさんの厄介になる話する?」


冗談半分でそんな事を言うのは大抵旅人だ。

二人は出会ってそこまで長いわけではないが何となく互いに害意がないと確信しているからこそ、時間を共有しようと思ったのかもしれない。


「それにしても何で課題って存在しているのだろうな、こんな事をしても大した成果なんて得られないと思うのだがね……?」

学習意欲を作るのはそこまで難しいものではない…だがやはり個人差がある。その点に加えて発動条件と効果がバラバラな為、一律で統一化するというのは無理なはなしだ。


「まー、そういうなって微風さん。やらなければいけないものには其れ相応の理由があるんだ

ぜ? 例えばだな、中学校の勉強って案外と小学校の頃の応用だったりするだろ?」


言われてみればそんな気がしないでもないが何せ受験の後の燃え尽き症候群で忘れた感がある微風は素直に首を縦にふれなかった。


「まぁ、しかし何だかんだでこの図書館カフェテリアやらテラスが併設されてるから正直何時間でも居られるな…」

「でも喫茶店ってそこにある雰囲気だけで満足しちゃって何にもする気起きなくなってダラダラし始めない?」


手につかないことを言い訳にはしたくない、やる算段とこれだけ遊んだから勉強しろよと自分を勝手に追い込まないと出来ない事を旅人自身の性格を分かった上で旅人は課題を進めていない。

それが自分に対する諦めなのか上手な自己管理方法なのかは意見が割れるところではあるだろうけれど旅人はいつも得意げな顔で何かを諦めている。彼自身物覚えも決して悪くはないのだが…


「限界のその先にって言葉があるだろ? 超えろとか挑めとか言うんだけど大抵そこ目指してる人間て壁を意識している人間ていないと思うのだがどうだろうか?」


キリがいいところまで来た訳では無いのだがさらりと微風は話を始める。

「んー? 限界なんて体のいい迂回ルートだぜ、何かに辿り着きたいのならやっぱり歩きは辞めちゃいけないのだからさ」

近くの本棚にあった分厚いカバー本を取り出し読んでいた旅人に何の本だと微風が聞く。

「うーんと数年前に地元の古本屋で見つけたけど高くて当時買えなかった本?」「それは何とも運命的な再開だな」「それは冗談で小学校の時に死ぬほどハマった本、児童文学なのになかなかどうして面白い」


「少年がある小島で竜と出会ったことをキッカケに物語が進む話だ」と旅人はあらすじを紹介する。

「指輪物語になんとか国物語とハイファンタジーが好きなのか?」

「うーん、どうだろうね。きっかけがあれば読むけどそのジャンルが好きって訳じゃ必ずしも無いからなぁ」

好きになるにも基準やきっかけがいる、興味があっても手を伸ばせないものもあると旅人は話す。


「きっかけって大事なのだな」「そうなんだぜ、きっかけさえあれば人類皆ハッピーになったり? 」

「うむ…流石にそれは冗談で言っているよな?」


微風から見てもそうだが彼は表情筋が何者かによって固定されがちなので口調のみでは判断しづらいのである。

「いやさほら、共通項があると数字でも文字でも人間でもくくれるじゃん? それならさ、よくある話で地球人にとって共通の敵である侵略敵性国家的な宇宙人が出てきたら人類皆兄弟とかいって人間讃歌歌いながら特攻するんじゃない? それでなんとかボロボロになりながらでも侵略戦争に勝利して…」


例えばの話であっても的を得た話ではある…が敢えてそこに波紋を起こすべく微風は話す。


「しかしまぁ、進んだ技術と自らの地位の安定の為なら他の人類なんてと考えてしまうのもまた我々なのだろうがな……」

旅人は「やっぱそーなるよなぁ…」と書きかけた数式を消しゴムでぐしゃぐしゃと力を入れて消しにかかったりする。

「救いがないが仕方なかろう、子孫を残し繋いでいくのが生物の使命なのだから」

ちゃっかりやらないとか言っていた課題を再開した旅人に気づいてこちらもペンだけは手に取ってみた。


「生き物の進化ってあるけどそれこそこの先限界来るんじゃね?」

いきなりペンが止まる様な事を言われたが、課題はやらねば終わらないので取り敢えず進める。


「まさかそんな台詞が飛んでくるとは思わなんだ。

聞いてて不安になる台詞ばかりなんだが旅人よ、何か悩み事でもあるのか?」


特にはないとここニ、三回のやりとりで聞いてはいるがそれでも何か訴えたい事でもあるのか思う程度には心配している。


「悩みなんてこの世代尽きないですよねぇ…」「まぁな」

自分という未成熟で流動体と高校より先の進路やら始まる慣れない新生活に人間関係の再構築に心労は溜まるばかりで、二人はほぼ同時に溜息を吐く。


微風と旅人のバックグラウンドには果たしてどんなものか眠っているのだろうか、それを彼らの口から聞きだすにはかなりの根気が要りそうだ。


学校という制度に少年達が疑問を持つのは少し先の話だが、学校に出なくても地域貢献の活動や社会的に活動がある。

不足単位分を免除してもらえるというのはある種、ボランティアという程の良い隠れ蓑でもって労働をさせて、その対価を支払わないとかいうとんでも制度だったりするのだが、それはまた別の話。


「旅人よ、そう言えばなのだが同じ中学の同級生などはいるのか?」

見ず知らずの人間とまだギクシャクした会話と時間を送るよりも知り合いの方が良いだろうと微風の気を利かせた台詞だったが旅人はやはり表情を崩さない。


「いないって訳でも無いね、でもどうしたんだいヤブ蚊や蛇に」

「ん? 旅人よそれはなんか増えてないか? 正しくは藪から蛇だぞ?」「え、蛇しか出てこないの?」「蛇以外に藪からガサゴソと音立てて出て欲しく無いだろ〜」

話は脱線していくが微風は気にしない、相手に話したいことは伝わっているのだから、少しぐらい逸れたところで問題無いだろう?


「藪を突いたらタランチュラとかアナコンダとかじゃ無いだけ平和なもんだぜ?」

なにその世紀末怖い、アマゾンだってもう少しましな生き物用意するぞ

「一人知り合いが女子寮のえっと…どっかにいるはず、たまに連絡来たりするけどそこまで仲がいい訳でも無いしなぁ…」

あー、成る程クラスメイト以上友達未満的な奴だな。


「うん? ちょっと待ったそれはもしかして女子か?!」

「そうだけど…微風さん、女子寮に男が仮にもいたとしたらそれはLGBT位だと思うんだぜ? それか犯罪」


旅人が短い髪を触り困った様な顔をする。 あくまで困った風の顔で眉が少し下がった事くらいしか微風には分からない。


「あ、いやすまん」「ふ…旅人さんは寛大な仏陀だからな多少はね?」

赤いコートにツンツン頭、垂れ気味の糸目の長身の仏陀か…なんとも徳の薄そうな仏陀だな?


「旅人さんはおんなじ質問を微風さんにパスするぜ、どうだい?」

話を振っていた微風が攻守交代で質問される側となった。

「こちらか…こちらは事情が多少拗れた同輩が2名少なくとも同じか校門をくぐる事になった、 我が確認出来た限りなので他にもいるやもしれんが。」


微風が思いつく限りの話で決して広くは無い交友関係なので確証もなくなんとも言えないは内緒である。

しかも彼の表情は決して明るいものでは無く俯き気味だった。

「がっかりしてメソメソしてどうしたんだい☆ とはいかないねなんかすまん」

何か触れてはマズイと判断して場を茶化しつつ…大丈夫かな?

「…ふぅ、一瞬全力で怒ろうと思ったぞ旅人さん親しき? 仲にもなんとやらだ」

良かった、緊急回避成功の様だ。

話題は中学時代の話をする事となり互いが互いにマインスイーパーを掻い潜りながらの時間となり、疲労困憊に陥ったがそれはまた別の話。


「やれやれ、こう見ると微風さんも苦労してんだなぁって」「ソッチモナー」

少しだけ親睦が深まった、そんな気がする。

「それで微風さん気になっていたのでこの際だから、そのノートの端に書いてある絵は一体なんだい?」


気付いた時には手遅れという話、まさかこれに気づくとは旅人さんは目の付け所がシャープだなぁ…

微風は視線と話題をそらせる為にこの時脳をフル回転…しなかった。

「ナ、ナンノコトダカワカラナイナァー」

としらばっくれてみるも逃さない旅人さんは追い討ちをかけてくる。

「あっ、美術部ってそういう…」「いや待て、旅人早まるな」「きちんと風景画やら絵の具の使い方や版画もべんきょうしたのだぞ!?」

それとこれとは話が間違うというジェスチャーをされてしまい、描いた本人は頭を抱えるしかない。

「へー、微風さん」「それ以上言うな、察しはついている」

「あ、分かる? 旅人さんの言いたいこと」

旅人の言いたいことだと? ふん、相手の意を汲んで何も言わずに引くとか、合わせて自分の意見を飲み込むだけの度量などそんなものは中学三年間で実績解除済みだ。

「そんな絵を描いて」「すげぇ」「だせぇ」「と思っただろ?」

揃えた声からは大事な部分が逆の感想を言われて微風は二の句をつげなくなって困惑した。


「いやー、だって旅人さん絵心をカミサマに持ってかれただろってレベルで誰かに明け渡してるからさぁ…」

そう言って旅人はひょろひょろとしたマッチ棒に似た何かを描いたが微風にはこれがなんだが分からない。

「…幸せそうに見えるだろ…これ人間なんだぜ?」


幸せそうに見えるかどうかは意見が分かれるだろうけれど、微風が見てきた絵の中でなかなかに前衛的なものの部類に入る。

「だから羨ましいんだぜ? 本当にさ」

表情は読ませてくれないがこの言葉だけには嘘がないと、微風は分かってしまってどうにも嬉しいやら反応に困った。

「と言うことは依頼してくれれば微風さんは絵を描いてくれる……?」

「料金と難易度、それと我の気分を乗らせる題材かにもよるな」

「え、本当に描いてくれんの?」

「…納期は保証しないが?」「ええんやで?」

絵を描くことがとある誰かさんによって強制されダメ出しやら助言やらを得ていたここ数ヶ月とは何やら大違いな事態に胸が少しだけ締め付けられる。

「言っておくが我はオーダー通りに絵を描かずにノリだけで突っ走るぞ?」「ばっちこい☆」


しばしの沈黙の後で微風は旅人の絵のオーダーを仕方ないという体で依頼を受け取る。 まさかの展開なのは互いに同じだったがこれからが楽しみな旅人と期間までは決まっていないがタスクが増えた微風では、感じ方は異なる結果に終わる。


期待に添えるかは別として、求められたのだから答えなくてはならない。 もしかすると奴も…


「さーてと、微風さん話は変わるんだがちょっといいかい?」「んぁ? あぁ、別に構わないが」

微風は少し上の空だったようで視線を上から旅人へ戻す。

「微風さん、まさかもう創作モード入ってた?」

彼の口調は短く低いものだが、少し高い声が出ているということは本人曰く楽しい時、興奮している時だと言う。

「いや、間違ってはいないが…それよりも気になることがあってな」

微風の気になること、それはさっきまで隣の席と向かいの席に座っていた男女二人組のことだった。

片方の気分の乗っていない男の名前は自己紹介を受けているので「北村涼」と分かる、合ったのはのは二回目だしサラッとした感じの淡白な男であることは分かっている。


「あー、あの女の子のことか?」「ああ、あれは北村の妹さんだとは思うんだ? 本人に確認してみていないので分からんが、それにしたってかなり懐いているな…?」

あんなにキャラクターが違う凸凹とした兄妹でがいるものなのかも疑問だ。

「明るそうな性格とテキパキとした手際の良さを見ると果たして同じ兄妹なのか…ちょっと旅人さんは気になったりするんだぜ?」

やはり旅人さんも気になるのか…確か我らが寮母(これを言うと本人はかなり機嫌を損なうので素直に名前で読んであげることを推奨する)さんはあのレイピアと名乗った少女の事を「座敷わらし」と呼んでほしいと言っていたはずだが…マリア寮母と北村涼はなにか関係があるとでも言うのだろうか…?


「まぁ、深まるばかりの疑問に付き合っていたとしても憶測と推論だけではなんともならない気はしない?」

課題という課題をまずは一区切りさせないことには始まらない、そこからは黙々と二人の集中力が切れるまでひたすらに作業のお時間となった。

真新しげで明るい木漏れ日とユーカリとマホガニー材の使われて机で二人の少年は一味違った午後を送っていたのである。


「そういえば…涼君を旅人が探しに行ったが本当はどこにいたんだ?小一時間とは言わないが結構かかったように見えたんが…」


「んーー、内緒なんだぜ☆」

旅人は開けっぴろげに見えて案外と秘密主義者なのかもしれない。

誰しも人には言えない内面を持っていて、それを押し殺して生きているなんて考えるのは今作の主人公くらいなものだと思いたいものだが果たして…?


次回第五章 赤の他人と碧の切り札に続く!!


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