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僕の部屋には座敷わらしが住んでいる  作者: 峠のシェルパ
第三章 神住む森と紅い外套の男
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路地裏大百足

別に空を見上げて感傷的になるほどの感情が湧いて出たわけじゃないんだけどね、そこまで気にするような事象があったとしても僕の矮小さ加減には辟易しているのでなんか今更だよね。


僕のとなりはで数分前に出会った少女は(とはいってもあの子よりはよっぼど大人びている)薄曇りの空を見上げて何を思うのだろう…

とそんな悠長なことを言っている暇は僕らにはほぼ残されていないのだけどそりゃまぁ自分達の身長よりも大きいものが突然排水溝なのか上水なのか分からないけどマンホールを吹き飛ばして現れたらそれはそれは頭の中で思考回路繋がるまで時間が必要になるよ。


柊さんはというと鎌首をもたげ威嚇らしき行動をとる大型生物に顔をしかめたかに見えたんだけど

「…なにこれ怖い!!」

…なんて前回までの挑戦的な態度は急に身を潜めて流石女の子なので虫とか苦手なのかな?


「お~やぁ?御子様、このような虫けらを嫌悪するのは分かりますがまさか恐怖を感じてしまうのですかぁ、それはなんとも残念ですねぇ…ひとならざるひなのですから憐れにも引き寄せられ身を投じてしまう悲しきこのものたちを受け入れてはくれませんか?」


僕らに覆い被さる影の向こうで神経質な声が聞こえてきたけど正直それどころじゃないよね、 今のところはとぐろを巻いているだけだがこれがいつ僕らに牙を向けてくるか…ほんとに目の前の異物はムカデなのだろうか?


「私苦手なのよねこういう足のたくさんあるやつ、このためわしゃわしゃ忙しなく動くし、本当に見てるだけで鬱陶しいし背筋がざわざわするから止めてほしいわ」


飽き飽きすると言わんばかりに首をふってまだ静かな怪物の姿に隠れている男へ言葉をかける。


「今のところはまだ貴方のことをまだ敵対視する要素は揃っていないからなにもしないわ…なんにも、これといって実力行使はしないし対話の相手に対して多少の敬意を払って行動するのがまぁマナーってものよね。

けど私達は宣戦布告とも取ることの出来る行動と言動を取られた人には残念ながらそれ相応の対処をさせてもらうのだけれど、良いのかしら?」


あくまでも警告を投げ掛ける様にゆっくりとしかし重い口調は確かに威圧の意味が込められていた。


巨大にとぐろを巻いて僕らを観察するように様子を伺っている奥で男はこの警告にどう反応するのか…


「なんとも…警告とはやはり人の上に立ち導く者は度量が違う、

こんな化外この者にさえ慈悲深いとはいささか困りましたな…とはいっても!警告の次の段階があるのでしょう!?」


声を大にすることじゃないけれど演劇でもしているかのようにわざとらしい男の態度は変わらずにかえって口うるさく、僕には少し不快だった。


「警告の次の段階?あれよ、抹殺」


さらっと物騒なことを言い始めたけど柊さん警告の次でいきなり喧嘩腰の相手を抹殺しちゃダメだよ!この国は残念ながら法治国家だから命はとっちゃダメ!


「北村は心配性ねぇ、別に本当に息の根を止めるわけないじゃない。

私そんな悪鬼羅刹みたいなことしないわ、今の世の中じゃそんな事も出来なくなっちゃって…ただ社会通念上それに近い状態に陥れるかもしれないわね、何処までも何時までも擦っても消えない汚点をくれてやるわよ?」


さらっと言えるような台詞じゃないよね!?驚いて僕は思わず隣の女の子を二度見した。


「ごめんなさい。貴方を巻き込んでしまって、全くもって自分の運の悪さに嫌気が差すわ、これはどうやら私が処理しなきゃいけない案件みたいね」


彼女は軽く溜め息を空に向かって吹くとこれから苦虫を潰す様な顔をして商業ビルの壁を這いながら観察するように様子を伺っているそれの奥でほくそ笑む男を睨み付ける。


こんな僕からすると訳のわからない状況を歓迎はしないまでも場数を踏んで馴れていると言わんばかりだ。


「おやおやぁ、御子様は未だに眠れる子羊でありたいと仰せなのですか…いい加減に果すために努力たらどうなのです目覚めなさい!自らの天恵を!使命を果たし!人々を救うために!」


男は悲劇の語り手であるかのように話を聞いているをまくし立て早く自分の手に余る怪物の鎖を絶ち切って暴れさせたいのだ。


「…はなっから話し合うつもりは無いのにこれ以上論議を重ねようとしても時間の無駄になるわね、time is money(金は時なり)話し相手は自分にとって価値のある相手にしたいものよ…」


急に沸き起こった日常の異常事態をまるで茶飯事だとでも言いたげに人の図体の何倍もあるかという怪物に立ち向かおうとしているのだからこれが冷静ではいられるものだろうか。


何も出来ない僕が声をかけても何ら意味が無いことは確かで、かといって横槍を入れられる程のナニカを僕は持ち合わせていない

なんでこんなバトルファンタジーみたいな展開が僕の人生に用意されてるんだと内心平穏無事であり続けたい涼くんとしていただけない状況だよね。


「貴方がなにかをする必要は無いわ、そんなに時間は掛からないだろうし…別にこの場から逃げたとしても貴方を責める気はないからね、まぁ私みたいなはみだしものにはあんまり構わない方が圧倒的に気が楽、覚えておいた方が良いよ。


そいつらをちっぽけな同情と常識的に考えない方がいいわ、だって普通なんか真っ平御免だもの」


柊さんはそう言って持っていた包みをほどいて中から木製の薙刀を取り出すと切先を黒い鎧を着た昆虫へ向けるけど流石に無茶だよそんなの、いくら柊さんがもしかして薙刀を指南する免許皆伝者側の人だとしてもあなたが相手にするのは尋常ならざるものだよ?!


「柊さん、ならば貴方にとって普通なことってなんなんですか?」

僕の口について出てきた言葉はそんな程度のつまらない台詞だった。


彼女はさらりと「変わり続けることよ」と言って僕の一歩前に躍り出るとオオムカデと男と対峙する、その影はビルがすっぽりと覆い隠して周囲からの視線を減らしている。

路地裏で辺りを見渡してもあまり治安がよろしくないのか、アーティスティックな作品が自己主張をしているのでここの人通りは極めて少ないのだろう、この場から助けを呼ぼうとしても中々見つからないに違いない。


ところで何処からか仄かにものの焦げた匂いがするのは何故だろう、僕の頭の隅がチリチリと焼けているのかな?

自分のはっきりとした価値観を持たない人間ではないと自分でそう思い込んでいた。


僕の過去は別として特別な環境でもなくこれが平凡で誰かが歩む焼き直しであるとも思っていたのだけれど、平均値を綱渡りする事くらいしか考えない僕には一味変わった人たちの巣窟な気がするこれからの環境はもしかすると自殺行為に近いのかも…


「さーて、とっととその手綱放り出しなさいよ、どうせコントロールとか出来ないんでしょ?それとも他人が持ち合わせていない暴力を振りかざすのは自分に酔ってしまうほどそんなに楽しいものなんでしょうね?」


柊さんはあくまでも自分の口調を変えることなく、毅然としている。この人は何時も目に妃を灯して事態を変えてやろうと行動をしているのだろうか、僕とはやっぱり違うモノの様だ。


「残念至極です、貴方が私とともに在るべき場所へ向かうというのであればどんなに私の心が救われたことでしょうか。

しかし…私が司祭様から授かりましたこの猛威を前にしてもなおその目は凡俗に染まり曇ってしまった…その心を晴らしてご覧にいれましょう!」


男の甲高い声とともに乗用車ほどある黒い顔部と牙がゆったりと僕らに迫ってくる。

「そーいうやつ嫌いなのよ、面倒くさい押し付けがましいやつのこと。

聞いたことあるんじゃないの、束縛する女の子は好かれるが束縛する男はお縄に付けって」


柊さんが下へ向けた薙刀の鋒はいつの間にか空を向いていたのだが僕が驚いたのは柊さんの薙刀の刃が鈍い銀色へ変化していることだ。

柊さんは真剣をてにいれた!殺傷能力が上がった!

いやいやいやいや、ふざけて良い場面じゃないから真剣にやろう、本当にこの人はあのオオムカデとどうにか一戦交えるつもりだぞ…?


「生きるってことはその身を焦がすこと、燃え尽きるまでは走りつづけて踊り続けてあげる!!

…なんちゃってそんな格好の良いもんじゃないけどまぁまぁそんなことよりもコイツをなんとかしないとね!!」


迫る百足の牙を薙刀をまるで居合刀を振るうかの如く目にも留まらぬ速さで黄色いそれを弾くだなんて…

それはやくも普通の人間の挙動を越えてるし金属同士が衝突しあう甲高い音がして黒い巨体の動きの軌道が変わったというのも充分僕を驚かせた。


「案外と重いけど呼吸さえ合わせれば力の向きってのは変わるものなのよ」


けろっとしてるよ柊さん…本当に柊さんなんだよね?僕と年の変わらないしかも女の子なのに…はっ!?まさか柊さんはゴリ「ほらさっさと安全なとこまで逃げ…何よその顔はなんか失礼なこと考えてんじゃないでしょうね?」


目は口ほどにものをいうからみんなも失言よりも態度に気を付けようね!


「図体ばっか…とりあえず固そうな節を今の感じで斬り落とせるかどうか試してみましょうか?」


狭い路地の端へ逸れた頭を無視したまま少女は軽く跳躍をしながら振りかざした自分の強化した最早真剣になっているで節の1つめがけて降り下ろす。


正直なところ打ってみた感触はあまりよくない、打撃の威力だけでなく自分の薙刀は鉄とまではいかないがある程度の切れ味を持っているはずなのだが…


「傷一つつかないのね」

柊は小さくそう言って自分を追いかけてきた牙から身をかわす。

それを分かっていたかのように一瞬だけ確認した痩せぎすの男の顔は気味の悪い顔をしていた。


「えぇ、そうでしょうとも!その虫は大司教様の手により力を授かりました貴女方に救いをもたらすモノなのです!

そんな程度のつまらなく意味のない行動では何時までも逃げ回ってこの無数にある足に捕らえられてしまうか、庇うはずの少年がこの聖虫の毒牙にかけられ殉死者として貴女がその罪を背負うかしかなくなってしまいますよぅ!?」


んんー?!なんで僕も標的になってしまっているのか聞いても良いかな!?


「馬鹿なこと言わないで頂戴、前途あるかもしれない人の人生をあんたみたいな意味の分からない奴の一人遊びの為に終わらせてたまるもんですか。

あんたいま殺人予告したんだからね、自分が何をしたのか分からない様だけどそれただの犯罪よ」


「私を裁くことがお出来になるのはこの世でただ一つの神のみである!」「ここは法治国家よ何を中世みたいなことほざいてんのよ。はぁ…」

確かにその通りではあるんだけれどさらっと僕巻き込まれている事に正直なところ困惑してる、厄介事を起こすのではなく突然舞い込んでくるものだと僕と柊さんで駄目だあいつどうにもならないと多分おんなじ事を思った…。


次回へ続く。

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