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僕の部屋には座敷わらしが住んでいる  作者: 峠のシェルパ
第三章 神住む森と紅い外套の男
36/75

番外編その2熱川神宮の希望に満ちた小規模な日常

試行錯誤中ですので色々不備があったりします。

あとついでに番外編はあいつがよく出ます(意味深)

 中核都市の中心部から外れた場所にひっそりと佇む朱塗りの立派な社がそこにある。

社は薄暗く昼間でも日が参道を照らすには役不足な程に鬱蒼とした鎮守の森を抱えていて、人の手もさほど入っていない今時珍しい原生林に近い針葉樹と広葉樹混成林が広がっている奥にひっそりとその存在を確かめようという人はそこまで多いわけではない。むしろ少数派だ。  


ここで奉られる神は曰く風と金運を運んでくる神様であり、台地の端に有るため湧水が自然と湧いてくるのと台地から都市へ風の吹き下ろしが起きるためこの地に社が置かれたと言う…先の戦争でこの社に願掛けして縫った千本針を持っていった若者や氏子の家には被害が及ばず無事であったという嘘か真か分からない言い伝えまで残っている。

それほどに強いご利益があるのだがその反面マガツカミとしての一面も強くご神体や神社自体への落書や不敬などはもちろんご法度であり、祟りが原因だろうと言われる怪事件も

地元市民の間では「旋風やすきま風は社さまが見ておられるから悪事は働くな」等といった言い伝えも残っている。 


 過去から現在に至るまでの変遷は殆ど資料が無く謎が多いがさる学問の神様と同様に人を祀った社がそもそもの源流であるらしいことは市内図書館の資料に現存していたがそれ以上のことは明らかにされていない。


仰々しい決まりや例大祭も隔年で開催されるのみで基本的には「何の神として崇めても結構です。」と言ったようなルーズな信仰の元でやって来た様だが近年鎮守の森において発生した通り魔事件によって氏子は減少していくと共に社も衰退を余儀なくされるのであった…


 すこしばかり暖かさを連れてくる芽吹きの風が吹き抜けたのは開けた場所にそびえる石造りの鳥居だった。

寂れたというには語弊があるので寂しげなと言い替えておくとしよう、とはいえ言い換えたところで人気があまりないことには違いないのだが…上空を唸る風の音が低く非難の声を上げるのでかまいたちに会わないうちにここから移動するとしよう。


そこから少しくねった石畳を数分歩いたところが本殿がしっかりとそこにそびえ、渋い色をした漆塗りの立派な構えが過去の繁栄をこちらへ訴えかけてくる。神主は居るので神社として機能はしている様だが平日の日中だからだろうか、本殿が閑散としてしまっていて閑古鳥が今にでも鳴き始めてしまいそうで絵にはなる雰囲気だが…

 神主のいる社務所兼事務所らしき窓口では神社によくある御神籤と御守りが自販機で無人販売されている、

有人でやる時も有るようで丁度高校生位の女の子が一人、白いニットに明るい赤色のフレアスカートを履いてなんちゃって現代人版巫女服?という出で立ちで座って何かをしている。黒色の髪を左右の耳の辺りで結んでいて、少し垂れた目がチャームポイントな彼女は退屈な欠伸と伸びをして向かいにある神楽殿の屋根で跳ねる小鳥を眺めながら一息いれる女の子の名前は来宮優花という。

まだ神主何ヵ月目の新米さんだがこの休みの間にこの仕事の内容と春から進学する学校の予習もばっちこいという感じで優雅な午後を一人孤独なまま過ごしていた、昼の献立を考えることくらいには暇をもて余していたのである。


 「はぁ、徒然なるままに…あれは椋鳥かしら? そういうことにしてー、暇にかこつけ筆を取る…だなんて言ってみたところで事態は動くわけでも無いのですー」

独り言を言い続けるというのはあまり良くないらしいのですがこうも一人でいると溜め息を付く回数よりか独り言が増えてしまいます…


はぁ、私は中の私が何時も言うのは親に対しての義理立てや私の生まれ育った環境に対しての愚痴ばかりでした。

「こんな社を守って一銭の得にもならんならさっさと焼いてしまえば良いだろうに…」

口調が急に代わったのはあの…二重人格と言うわけでは無くて自分を守るためかないつの間にか出来ていた少しだけやんちゃなわたし、昔から女性の神主を排出するお宮さまでしたので何とか連盟からは何時も視察員などが派遣され嫌味のような事を親が言われていたのを私は幼いながらに知っていて、たぶんその頃から何ではないかと思います。


父母ともに仲が極めて良いのですが父は海外を拠点とする商社のビジネスマンで母は神主の仕事を書類等は今はインターネットとかで何とかなると言い残して父に付いていき…残った私ですか?氏子さんで私の叔母と共に社のそばにある生家で暮らしています。

仕送りや叔母も働いているので不自由はあんまりありませんがいかんせん面倒な事がお社の存続でして…


「ふぅ…アルバイトとか正規に宮司さんを雇うことが出来れば少しだけでも私の負担は減るんですが…」


社務所で電卓とにらめっこしているのが私です、本日も来客の気運無しなので巫女服着ようか迷いましたが今は私服なのでーす。


本殿の周囲に広がる鎮守の森は雀や椋鳥などのねぐらになっているしタヌキやらイタチもときたま姿を現すのでここにいるのもあながちつまらないだけではないのだが、餌をやり始めると居着いてしまうのでその葛藤を続けている。


「あの人…都合の良いことをふんわりと言うだけで本当にそうなるか確証も無いですよ…」

市の中心部から少し外れた場所に叔母の結婚相手がいるとの叔母の惚け話を聞かされてお役所に申請する書類ついでに…ついでに…道に迷い…思い出したのは失策だったのです。


少女の溜め息の数々のうち半分は恋やら自分の体重の事やらそんなことであってほしいものだがそうもいかないのが彼女の困った状況である。

溜め息の数だけ幸せが逃げるというけれど数えただけでまた加算されてしまうので意識はしない様にしている。


「高校生活なんてこんな状況じゃ春の夜に見る夢のまた夢…だなんて暗くなってても仕方ないから人も来るわけ無いのでやることも殆どなし、課題もこのペースを守れば問題無しなので不在票を出して奥の座敷でお昼寝でも…………?」


と思って腰を上げようとした時でした、どこかで人の足音が近づいて来る音がしたのです。

小石を敷き詰めある境内に誰かがやって来たみたい、

参拝する方は私のわかる範囲で統計を取り続けている限りでは右肩下がりなのが否めないのですよ…

今日はまだ七人しか来ていないので平均的な数字ですね、昼寝をしようと思っていたのであんまり応対もしたくないのだわ…  


自分の背後では時計の針が丁度天辺を指していた。 

昼寝と食事を兼ね休憩を取ろうとした矢先の来客に対して表情は崩さないまでもお昼の献立を彼女は考え始めていた。


「ええっと、本殿があれだとして…あそこは…

舞台みたくなってっけど…あれは一体?」

始めてここに来られたのでしょうか、観光客等が来る事は滅多に無いので近所の人では無い人…?

そんな詮索をしたところでとは思うのですがまぁ、あんまり気にしないで私は社務所に不在票を提示してお昼の休憩を…


「参拝する前に社務所に誰か…お、ごめんくださいな」


席を少しはずそうとしたときに限ってこんな展開になってしまうなんてついていないとしか言い様がありませんね、やれやれ信仰心が足りないのでしょうか…


「はい、なにかご用でしょうか」


「ええと御神籤と…そうだな、金運上昇の御守りを一つづつくださいますか?」「かしこまりました」


なんだ本当にただの参拝の人ですか…珍しいこともあるものです。

「初めてこのお社さん来たんですけど結構立派ですね~、敷地が広くって看板とかあっても来る途中不安になりましたよ~」

お喋りな方ですね、声から察して若い男の人でしょうか。

「御神籤でしたらこちらから引いていただいた番号の棚の中に入っています、後は…金運上昇の御守りですね少々お待ちください」「お待ちしておりまーす」


やけに親しげというか人見知りをしない参拝客に少し戸惑いを感じながらも彼女は指定された御守りを手にする、

「宮司さん若いけどバイトの子?いやー巫女服も似合…あれぇ?」

…これってもしかするとわたし今「ナンパ」されてます?

「いやいやいや、ちょっと待った。

なんで宮司さんが社務所にいるのに私服着てるんです…?」

あ、違いました私の格好が気になっただけのようです。

「えーっとそれはですね」

あまり下手な言い訳をしてしまうと彼の口からまたこの神社のあること無いこと様々な噂が立ってしまいそうです、何かこう人を納得させる上手い言い訳は…


「あの、本当は神主さんががいるはずなんですが丁度休憩時間なので私が代役で入っています、すみません」


素直に謝ってしまえば彼方も変な難癖を付けては来ないはずですよ普通なら…たまにいるんです、酔って迷い込まれた方や御朱印を探してここまでこられる方、

神社に印鑑目的に来られても困るんです…


「ほうほうなるほど今は私服なんですか、確かに和服みたいなのって着付け大変って言いますしわざわざ着なくても…というのは野暮ですね」


「確かにそう思うこともありますねー、あの格好で何時も買い出しに行くとどうしても目立ってしまうのでそれも困ってしまう点の一つです」 


「巫女さんの服を着た女の人がまさかチョコレートとかケーキとか洋菓子とか買っていたら驚きますものね?」

自然な流れで実にありふれた会話が始まったが男の人の姿は窓口に顔を出さないのはすこし不思議なんですよね…


「別に巫女さんでも僧侶さんでも好きなものが紅茶だったりハンバーガーだったとしても何を気にすることがあろうか…」


窓口にやっと姿を現したのはカーキのチェスターコートを羽織りベージュのチノパンを履いて穏やかに笑みを薄く纏っている眼鏡を掛けた少年だった。


私と年齢的にはあまり変わらない位でしょうか、だからなんだと言われればそれまでですが服装から硬派に見えて案外と押しとかに弱かったりするタイプ…?


「あぁ失礼、御神籤と御守りを貰うと言うのに御代を出していなかったとあれば盗人に他ならないですからね、金は天下の回りもの回すからこそ福があるなんて言ったり言わなかったりしません?」


人見知りこそしないですが案外相手の反応を見て身構えたりする人いますけどそんな感じの人だな、とこの時私が感じた事をこの後本人から聞くことになるとはこの時私も目の前の人も微塵も思っていなかったのです…。

不穏で不吉な予感が的中してしまうのは私にも良く分からないのですが一人でいることが多いので考え事をしすぎてその中のことと現実のことを単に結びつけて考えているだけなのかもしれませんね。


「それでですね、ここの神主さんに依頼をされたのでそれを受理するついでにこちらに参拝でもしようかと思ったのですがね…出直しますかぁ」

任務依頼そんなのも出していたのを思い出しました。周辺の高校に授業の一環として地域のためのボランティアを単位に含むというものでしたがそんなに人気のある場所でもありませんので来ないものかと思ったのですが…来ましたね、これはちょっと以外ですよ。


「今は神主は…」

実は自分の母が三十五回目の新婚旅行に言っていて絶賛神主さん不在という状況なんですけれど…!?

自分で言っていて悲しくなってきますけど仕方ないですよこれ事実なんですから。


「現在我が熱川神宮では神主が絶賛体調不良のために神事等で人手が足りなくなってしまっています、そこで一ヶ月間近隣高校の生徒を任務を与えました、とは言え雑務中心でお社もこの有様ですので退屈になってしまいますでしょうがそれでもよろしければ…」

正直なところ日中の参拝者など殆どありませんので正月と秋・春先の祭りのとき位しか忙しくないですからね、叔父と叔母に祖父母もいますから行事の管理はあちらサイドに依頼すれば良いことですし……


「あぁ雑務でもなんでも構いませんよ、退屈と言っても吾輩は神事のことなどは疎くてですね、これをいい機会に学ばせてもらおうかと思いまして…自己紹介がまだでしたね、吾が輩D51と申します、その手では有名な機関車の名前だったりするんですがいやはやこんな任務名にしなければよかった…」


少しはにかみながら目の前で少年は私に向って御神籤とお守りのお題を私に手渡してきました。

素直にそれを受け取ると早速御神籤を引いてみたようです、

「こういう神社にある御神籤って大抵吾が輩吉とか末吉とかそんな反応に困る運気が巡ってくるんですが、ここって受けとか狙って大吉とか一杯入れてたりなんて…うーん、また末吉…そう言えばなんですけれど末吉と吉ってどっちがいいんですかね?」  


それは…私も分かりませんね、神社によって変わるんじゃないです?

「運気は笑っていれば舞い込んでくるものですので穏やかに笑っているのが一番ですし一度に良いことが巡ってこなくても幸せ等というものは気がつけばそばにあったりするんですよ、なんて私が言っても仕方ないんですが…ふふっ」


北風も少しだけ春の風にそろそろ変わる頃だろうか、春は再生と新たな出会いを生む季節であると同時に波乱を巻き起こす、春一番は舞台袖で出番を待っているにすぎず、この男もまた然り春の風にのってふわりふわりと珍道中噂の種と面白おかしい小話を探しているので御座います…


「それもそうか、なぁに今年もどうせ良いことやら悪いことやらで振り替える暇もないのだろうなぁ…とこれから何かと事前に予定とか言ってくれればこちらもなるだけ合わせるようにいたしますんでよろしくお願いいたしますぜええっと…宮司さん?」


金運上昇の御守りを背負っていたバックに早速取り付けながら目の前の少年は此方を振り返る、楽しそう顔ではあるんですがそんなに斜に構えなくてもいいと思うのです、本人の考え方の問題なので私がとやかく言って関係を悪くするわけにもいけません。 


折角なのでしていなかった自己紹介でもしていくことにしましょうか、

「宮司さんではなく来宮…優花です、上の名前の方が呼びやすいのではと思いますがいかがでしょう?」

南米の国で蝶が羽ばたくと嵐が起こるなんて言葉を聞いたことがありますが一人の人との出会いがこの先どんな効果や意味を生むなんて予想することの方が難しい、どうかこの出会いが私とD51さんに幸を運びます様に…祈るだけならば罰は当たりませんしただですので良いことです。


祈ったからと言って叶うかどうかはその人の行動次第ですからね、うちの神様に参拝したからといって人生は順風満帆とはいきません。 


「神様も時には人に試練を与える…神様はあんまり信じちゃいないけども何分自分よりは信用できるってんで頼りにしようかなって」

私はこの時彼の口からカラッとした悲しい笑みが零れたのを見逃してしまったけれどこのあとのことを考えたら見ておかなくて良かったと今になってはそう思うんです…


「と言うことで一ヶ月位かな、どうぞよろしくお願いしまする!」


一先ずは境内の掃除ついでにこの神社の簡単な説明をして…それから何をしてもらおうかな…?

親の事はあんまり話題にしたくないので避けながら…何か今までとは違う新しいことが始まりそうですね!


境内の掃除を殆ど済ませ、帰りがけに同学年のこの少年が背後から悪戯でも仕掛けたのでは思い冗談混じりで投げてしまったら全く違う男の子ですっごくビックリすることになったのはまた別の話なので御座います。


「どうせじきに誰もこの地に足を運ぶ気など起こさなくなるのに何をはしゃいでおるのか、さっぱり儂には分からぬのぅ…」


口の悪い方の私は拗ねた様な事を言いますがまぁ、自身のストレスが頭のなかで現れているだけでしょうし放っておきますね。


影が歩む石畳に此方を睨む苔むした大鳥居を抜けるとそこに現れる漆塗りの大きな拝殿にてその少女は静かな時を過ごしている。


「待ち人来たり」というのは御神籤にはよくあるフレーズだがこの神社のご利益は金銭と人の出会い、そして健康を司る神だという、恐れるなかれ神と目を合わせ偽りなどしないうちには疫撒くマガツカミになることもない、人は欲に溺れるなかれと巫女は一人今日もまた小さな祈りを捧げるのだった…。


番外編の2

熱川神宮の希望に満ちた小規模な日常了

次回へ続きます!!

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