出会いと話し合い2
環境が人の性格や考え方を左右させるんだと僕の知り合いがそんなことを言っていた。
生き物は少なからず自分の住んでいる環境に適応する能力を持っているけれどもあまりの変化にストレスが掛かってしまうとそれに耐え切れず死亡してしまうことも在るのだ。
そんな事は残念ながら人間にも当てはまる事で、春の変わり目からの自殺者はどうにも多いらしい。
あ、でも僕はストレスとかそんなのはマイペースにやり過ごすし、大丈夫かと思います…
何でも根の詰めすぎはよく無い。
何故僕がこんなことを言っているのかと言うと理由があるのです。
管理人さんの事務的会話を経て僕はついに部屋の鍵を手に入れたんだ。
僕はこれで一城の主人になれるとか思ってさ…だって、反抗心に染まり切った思春期真っ盛りの男子だよ?
それはもう干渉が無い自分だけの世界があるって盛り上がりそうじゃない?
それは本題ではないのでまた話すとして、異常事態が絶賛発生していて僕は頭をリセットしようと躍起になってます。
これまた厄介ごとというか、ややこしそうな事件に巻き込まれそうなのだ。
どうしてこうなってるんだ…僕は頭を抱えて溜息を一回大きく吐いた。
僕は単に自分の部屋の鍵を開けた。ただそれだけ…それだけなのに、そこには頭痛が痛いみたいな感想しか出て来ない状況が転がっていたんだ…
僕に大きなリアクションを求めたって出来ないものはしょうがないじゃ無いか。
どうして玄関を開けて見たら目の前に布団を敷いて女の子がすやすや寝息を立てて寝ているんだい?!
荒唐無稽過ぎて理解するのに数秒かかってたけどさ、掛け布団に包まって横向きに無防備な寝顔を見せている…まつ毛長っ、それに小柄だ。
少女を起こそうとか、その他になにかやましい考えは僕にはまるで無い。
むしろこれは管理人さんに報告すべき事象が発生しているのでは…と思っている程に僕は冷静さを取り戻していた。
寝息を立てる少女をそのままに、部屋の扉をそっと閉じる。
…寮室の表札を念のために確認してみたけど、やっぱりこの部屋の所有権は僕にあるみたいだ。よ…し、取り敢えず報告するかな。
「はーい、あら北村くんどうしたのかしら?」
僕はこの事を管理人さんに報告することにした、寮室に先住民がいる事、僕にあの部屋の使用権がある事の確認する為だ。
マリアさんは管理人室でお茶を淹れようとしているところだった。
僕は引き摺って来たスーツケースを二階の寮室の扉の前に放置して、管理人さんに事情を説明する。
「ふむふむ…涼くん、それは座敷わらしかもしれないわね。」
管理人さんは神妙な面持ちで突拍子の無い事を言ってきた。
何ですその展開、座敷わらしなんて非科学的モノが居るわけないじゃないですか。
「あらっ、いないものの証明が北村さんは出来るの〜?」
え、いないものの証明…いやそれはいないから証明の仕様がないんじゃないですか。
「そう、いないモノの証明は推論は出来ても証明は出来ないの、半分以上屁理屈何だけど〜頭の体操になるでしょ?」
いえ、僕は頭の体操をしに来た訳じゃ無いんで…
「そうね…どうしてもって、なったらまたここに来てね〜何でも他の人に頼む様になっては駄目よ?」
管理人さんに釘を刺されて話は終わり、ぼくは階段を登る、僕の管理人室から二階に戻る足取りは重かった。
自分でどうにかするって言われたって…僕は一体何をすれば良いんだ…
さっき見えたのは僕の緊張と焦りからなる幻覚なのかもしれない。
男の住む予定の部屋に女の子なんて寝てる訳ないよな…?
そうだ、そうだよ、きっとそうに違いない!!
今度は部屋の扉をこの鍵で開けたら、普通に僕の部屋が待っているはずなんだ…
嫌なデジャブを予感しながら僕は恐る恐るドアノブに手を掛けてゆっくりと回していく。
さぁ、どうかな……鬼が出るか蛇が出るか…それとも…本当に僕の作り出した幻覚だったのか、浮ついたさっきより落ち着いた今ならそれがはっきりする。
まぁ、玄関に少女が落ちてるとかそんな事ある訳ないでしょう、いやほんとに。
僕の緊張と期待感はあっさりと裏切れた。
そこに先まであった筈の人とモノはなくなってしまっていて、靴も無い無人の玄関が僕を向かい入れたが…かえって僕には後味の悪い感触を残すことになった。
え、やっぱり誰もいないじゃん…確かにさっきまで中学生位の女の子がここですやすや寝息を立てていたんですよ。
自分でも目を疑った光景をすぐ様自分で信用出来なくなるとは思わなかった。
玄関先からこのまま部屋に入ろうとも思ったが、僕が見つめた部屋の奥の暗闇からは、言葉に出来ない悪寒が足元から背中に走って…
だから僕はは再び玄関の扉を閉める事になる。あはは、お化けなんてないさ、お化けなんて嘘さ…嘘さ。
この部屋は曰く付きですとか、きいてないですよ管理人さん!!
「それを報告する為にまた管理人室(この部屋)まで来てくれたんですね。」
そうです…
僕は気味が悪くなって再び管理人室に逃げる様にまた立ち寄ったのだった。
「んー、私からは何も言えませんね〜北村くんが見たものが実際にあった出来事かも分かりませんし…」
え、言われてみればそうかもしれませんけど…
「因みに一つだけ言えることがあるとすれば〜」
…あるとすれば?
「私は寮の管理人さんであって、寮母さんとは呼ばないでくださいね〜わたしは以外に思われるかもしれませんが、皆さんとそんなに年齢変わりませんから〜」
なんの話かと思ったら呼び方の話だったらしい….うーん、為にならない。
「最後に一つだけ、座敷わらしって言い張られたら私の名前を出してください」
え…?
「この寮生にはマリアさんって呼ばれたりしてるので、不本意ですけど。」
つまりは少女は少なくとも幽霊とかそう言う類のものじゃないってことですか?マリアさん?
「さぁ〜どうでしょうね〜」
意味ありげな台詞と笑みを浮かべて管理人のマリアさんは僕を再び送り出した。
やっぱりあの少女はあの部屋に居るんじゃないか…
どうしたら良いのかはアイデアか浮かばず、僕は三度目の正直だと思いながら、僕の部屋である203号室の扉を開く…
当たり前だけどさっきと同じくがらんと空いた玄関があるだけで少女の姿は無い。
やっぱり誰もいないんじゃない?僕は安易な楽観論を展開したりする。
誰かいるにしてもそれだったら玄関が勝手に開いた時点で様子を観に来るとかあるでしょう?
座敷わらしだからそれこそ存在感だけ消してもう僕のそばにいるとかだったら…大分ホラーな展開なんだけど、間違ってもそんな展開にはならないで欲しいな…
僕はここで初めて部屋の内装を観察する余裕が出来た。
先ずば入ってすぐの廊下の左側は洗面台と多分お風呂場…と、
右側は小さな部屋…布団敷くスペースがあるかないか位?荷物は一旦ここに置いておこ。
さてと、あとは奥の部屋だね。さっきの女の子はどこに行ったのかは依然として分かんないままだけど、この部屋の間取りは知ってるから後は奥の二つの部屋だけだ。
心臓の鼓動は少しずつ早くなりはするけど、必要以上には上がってはいないね。
自分の体でも、自分の言う事を聞こうとしない時があってさ…
都合の悪い時にばっかり、そういうのって重ねてやってくるのがどうにもならないけど腹が立つ。
さて、関係のない話をしてしまったけれど僕はこの部屋には僕しかいないと信じながら、廊下のドアから部屋へと入った。
誰も居ないからだろう、カーテンも閉じられて辺りは薄暗い。誰もいないじゃ無いか。
そうなって来るとさっきの寝ていた少女とマリアさんの話がすっごく怖い事になるんだけど…
僕に霊感とかは備わっていない筈だし、布団とセットの幽霊とか聞いたことがない。
少なくとも高校生男子と女子を同じスペースで住まわせるのなんて正気じゃないと思うよ、色々不便が多すぎるもの。
周囲には何も無い、家具と家電がこっそりと薄暗い中でぼやけた輪郭を浮かばせている。
一通りのものは揃っているとは聞いているけど、問題はそれを僕がちゃんと取り扱い出来るかどうかだ。
メインの部屋はこの部屋と後入って右手の和室だけなんだけど…僕は少し開けるのを躊躇っている。
なぜかと言うと、座敷わらしとマリアさんから聞いて思い浮かんだのが、畳の部屋で正座している姿だったから…
僕は襖に手を掛けたけど無闇に開ける真似はしなかった。
一先ずは何もいなさそうだし、よしよしこれでここには何もいませんでしたとマリアさんに報告できるな。
お化けなんてないさ、お化けなんて嘘さって感じで僕は一安心してくるっと振り返った時だった。
結論からするとさ.油断は禁物なんだよね。こう…忘れた時にやってくるって言うけど本当にその通りだと思う。
僕の真後ろには真っ白な何かがこっちを顔のないのっぺらぼうがいた。
さっきまで気配も何も無かったのに、幽霊だから気配が無いのは当たり前かもね。
実は僕はひどく驚いて、断末魔みたいな叫び声を上げて一旦その部屋から脱出した。
取り敢えずあの部屋にはなんかいる…何かは分からないけど…何かいる。
なんで? なんで僕の部屋に得体の知れないのがいるわけ?
誰か座敷わらしとか適当なこと言ってたけど、地縛霊とかたちの悪い系のやつなんじゃ無いのあれ?
一度廊下まで撤退して僕は考えを巡らせる。
薄暗がりに佇む白いシーツの様な白い塊…僕は平凡な学生生活を送りたいだけなのに何で学生寮には幽霊が出没しているんだ…塩とかで退散しないかな…
まださっきの場所にいたら嫌なんだけど…あそこだって部屋の中央部だよ?
もー勘弁してよ、僕には霊感とか全く無いからどうしてやることもできないだよ。
ここの部屋で…? え、事故物件ってやつなのかも?
どちらにせよ、管理人さんは一度問いたださないといけないよね。
しかし、幽霊の正体見たり枯れ尾花って言葉があるから…本当、どうしてこんな事やってんだろ。
廊下にある部屋の奥に行く扉はすりガラスの様に半透明でモザイク模様になっている。
ここからだと部屋の奥は暗くて様子が窺えない(うかが)けど…さっきのはまだ部屋の真ん中にいるのかな…
今度は部屋の照明のスイッチを押して、座敷わらしだか幽霊さんだかにはご退場願おうか。
大体照明のスイッチは部屋の入り口のを壁についている事が多い。
僕は急いで奥の部屋の壁を確認していく…頼むからあのシーツみたいなお化けさんには気づかないでくれ…!
手探りで物音を立てないように、気分は凄腕スパイのつもりで…抜足差し足忍び足と僕は壁伝いに照明のスイッチを探す。
よし、あった! 触っていた壁と違う感触があるぞ。
カチッ
無機質で温度もなかった部屋に明るさが戻っていく、
さあ、幽霊でも座敷わらしでもどんと来い!普通に人だったらそれはそれで恐ろしい事態になりそうだけど、この続きはまた今度にするよ。
次回へ続く!!