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僕の部屋には座敷わらしが住んでいる  作者: 峠のシェルパ
第二章 夜の静寂に火花も舞う
29/75

消印と消し炭そのニ!!

 昨日雲が多い晴れの日で夜や夕方になって雲が増えてきた訳なんだけど今日のそらは僕の気分とは少し違って元気そうな青く澄み渡っていた。

それとは裏腹に僕の頭の中は昨日の内容が濃すぎて未だに消化不良を起こしている、

番外編を一度挟んでの本編な訳なんだけどどこまで話をしたんだっけ?


「待ってね涼くん! 駄目だからね襖を開けたら私許さないからね!

簡単に言うと藍斬辺りが飛んで来るからね!!!」

レイピアの口調に何時もより早口で焦りが感じ取れた。

「大丈夫、大丈夫僕はそんなに興味ないし」「なんか傷ついた!私の事ちんちくりんの何とかくらいにしか思ってないんでしょ!!」「そ~んなことないよ~?」

僕は襖の向こう側にいる白い座敷童とのんびり当たり障りのない会話を暫く続けた。

「休日くらい一息つきながらでいいから慌てること無いんだ」と自分に言い聞かせながらではあったがレイピアの着替え終わるまで僕はステレオを少し弄って下げていた音量を上げることにした。

レイピアが寝ていたからステレオ音声を切り下げていたのだがもうその気遣いは要らないだろう、


「レイピア今日の御予定とかあるの?」


一日の始めに今日をどう過ごすかを僕がレイピアに聞いてみると、


「郵便局に学校関係の書類を出さなくちゃいけないんだけど涼くん知ってる?」

郵便局なら昨日レイピアとゆずのきに行く途中で見つけたし夜にも行ってきたので場所はバッチリ把握しているけどレイピア気づいてなかったんだ。


「ゆずのきに行く途中、ガードを潜って少しいったところにあるけど」


今日は洋楽ってよりもラジオの気分かな?

ボタンを押してシークがされ自動的に周波数を合わせるとステレオから軽快な笑い声が聞こえてきた、こっちでも聞けるのかこの番組

普段は学校にいる時間なので録音することになるのだろうけどまぁいいか

そんなことを思いながら僕は座ってヒロインの登場を待つ、


「じゃーん!! 今日は私服だよ至福の瞬間ってやつだよね!」


勢いよく開いた襖を開けたレイピアにもう少し静かに開けなよと注意しようと振り返ったのを僕は後悔することになる。


空に浮かぶ雲より白いワンピースに紺のジャケットを羽織って勢い余って前のめりにレイピアが出てきたものだから慌ててそれを捕まえる。


「わわっ、ありがとー涼くん!」


こんなアクシデントがあっても彼女から笑顔が絶えることはないのだ。


レイピア本人とD51から聞き及んだ情報をすべて真実だとはまだ判断できないけれど、着色されたにしろ遜色がないにしろ僕は出来る限りにおいて彼女を楽しませなくてはいけない。


籠の中にいた青い鳥は外の世界に出る喜びを知った、しかし外の世界というのは気楽に不用意に飛び出すものではない、

籠の中には自由がないかもしれないが飼い主が不幸に見舞われない限り籠の中は安全な温室であり続けるが…

外は雨も風も冬も来る、何処までこの子はそれを理解しているのだろうか、

そしてまた籠の中にいれられ飼われる事がある事を考えていないとは僕は思わない。

 

僕に出来ることなんていうのはいつ終わるかもしれないこの子の時間を外から見守ってやるだけなのかもしれない


「涼くーん? 折角の春休みなんだから高校生っぽいことしよーぜーー?」


何故拳を構えてスパーリングをしているのかは僕にはさっぱりである。

今日もレイピアは元気ハツラツなのはわかったけども


「高校生っぽいことって…まだ学校にすら行ってないじゃん」

「えー? 知らないとは言わせないぞ涼くん、四月一日の時点で学籍はもう高校に入ってるんだってー!」

僕の胸から離れて狭い部屋の中でくるくると回るので僕の胸は居なくなった体温よりもひやひやしている、


「それはまぁ知ってるけれどだからって高校生っぽいことって一体何さ?」


「お出かけだよーーー!!」



 と言うことで突然場面が変わって今日のところは僕らがこれから過ごすことになった市内の散策を行うことになった。

いわゆる鶴の一声で異論も出す必要が特に無かったのでなすがまま半ばレイピアに引きずられる形で着の身着のまま気の向くままに…


「ようこそ純喫茶ゆずのきへ、今日の日替わりメニューにおきましては…おや?

どうやら「解決」とまではいかないものの「引き延ばし」この場合は…「保留」といった方が良いのかもしれませんね」


マスターは昨日とは少し違う様子で迎えてくれた。

純喫茶ゆずのきは昨日と様子は少しも変わっていない様であるが…


「ん? 我が隣人北村君と…座敷わらし?

我が寮室に出たことがないと思ってみればよもやこの者の部屋へ取りついたか! おのれ、悪霊退さーーん!」


今日は青いパーカーを腕を通さずに羽織っているけど流石に昨日の黒のコートは置いてきたんだね、

今から考えれば奇妙なキャラクターが入り込んでいる微風がカウンターでらしきものと対峙して退治しようと試みていると思われる書類を広げているね、僕もとっとと残りを片付けないといけないし何の教科の課題かなと思ったらあれ? これ宿題じゃない?何してるんだろうか?


「悪霊じゃないし!」

噛みつかないでレイピア、こういう人だけど事情を説明すれば分かってもらえるだけの常識的判断はできる人だよ、多分だけど


「ほう…そんなことがな、災難だったというべきかやっぱり奴は災害というよりも最悪だったな」

流石にすべてのことを説明をする必要も無いのでかなりぼかしてぼやけた情報を彼に受け渡したがもなかったので少しも違和感をかんじたが

すんなりと話を分かってくれたので僕は少し違和感を感じたけど彼にとっては僕らの事情を知ったところで関係はないじゃないかと自分の中で納得しておくことにした。


「あのD51ってやつの事なんだけど確かに今後も僕にとっては気をつけておくべき人と言うか存在になりそうなんだけど忠告ありがとう、君に言われていなかったら自体はもっと悪い方向へ動いていたかもしれない」


アイスココアを頼みながらレイピアがケーキが置いてある冷蔵庫に目を奪われているすきにそっと微風に感謝を伝えておく、因みに僕らはもうブランチという形でご飯は食べているのだが女の子には甘いものは別腹の様で目の光らせ方が半端じゃない。


「まぁ、あやつも仕事やいわゆる「外面」を見せる必要の無い時は至って普通の…いや、普通のやつじゃないなつ…これ以上は何も言うまい。」


なんだか微風の言わんとしてたことはよく分からないけれど取り敢えずこの先レイピアが無事に学校に行けるかどうかが結構問題だったりするんだよね…


「ねぇねぇ涼くん! リンゴのタルトだってタ・ル・ト!!」


当の本人はこちらの懸念をものともせずに無邪気な子だね、まったく


「それ、レイピアが払ってよね)?」

僕は肘をカウンターにつきながらため息を一度ついた、それで微風は何をしているんだろう?


「あぁ、これか…あまり貴様が見せても余り面白いとは思えないだろうがそれなりの覚悟をもってくれよ?」


何だろう微風の真剣さと僕の軽口のギャップは、別に何か見られてはマズイものを何か書いているのかな?

「これは正にパンドラの箱でありイデアの知恵の果実なのだぞ?

それでも貴様はまだ見ぬ英知…禁忌を求めるか!?」

微風は小さな声で密かに僕に声をかけたが

なにやら大げさな話になってしまっているけどそこまでの話じゃないでしょ?


「ねぇねぇマスター、涼くんとどっか行きたいんだけど何かおすすめのスポットとか無い?」

「そうですね、いわゆるデートということなのでそれなりにリラックスが出来る」

レイピアの興味はマスターにいったようなので僕は微風の禁忌を見ていくことにしよう。

紙に何か書いていたので呪詛とか呪いの言葉とかを書いていたら流石に引くというかドン引きだけど一体彼は何を書いていたのだろう?

微風はあまり気の進まない様子で色々と予防線を張った末に僕に今しがたまで取り組んでいたものを恐る恐る見せてくれた。

そこにはシャープペンで描かれたアニメかゲームか僕にははわからないけれどニ~三等身くらいのキャラクター達が所狭しと遊び回っていたのだ、微風は絵が描けるんだね。


「あまり見ても面白くはないと思うぞ、我が春季課題の合間の暇つぶしが本来の役割を超えてしまったものだ。

それに題材になっているキャラクターも我が作りしy…というより創作にて生まれたキャラクターゆえ北村が見たとてあまり面白いものではないしのぅ…」


気が進まなかったのはそういうことか、別に僕は誰がどんな絵を描こうと自由だと思うし…

見なかった事にしよう、課題のテキストのところに何かものすごく悪い顔をしたオジサンが書いてあるとか僕は何も見ていないからね!!

少なくとも僕には出来ないことだし、僕は自分のできないことをできる人には敬意を払う人だから微風の変な人認定は取り消しておこう、ちょっと変で絵が書ける人ってことで手を打とうかな?


「我が作品の壮大さに度肝を抜かれ…ないな、ただの落書きなのであんまり気にすることは必要はないぞ?」

書き方や本人の言葉からも有るように落書きに見えなくもないけど僕は漫画とかアニメの絵が全く描けないから凄いと思ってしまうのであるが微風は僕のコメントを待たずにさっさと落書きの方を折りたたんで締まっって何故かドヤ顔をしている。


「僕は絵が描けないから微風の描いたものを評価なんて出来ないけどこういう趣味も悪くないんじゃないかなってぼくは思うよ」


全般的に可愛らしくデフォルメされたキャラクター達が描かれているし僕としては良いなと思うんだけど


「まぁ…好きでやっていることだからな、我が作品…と呼べるかは別としてこやつらをよく思ってくれるのは悪い気はせんがな!!」


「おやおや課題を進めると言ってこの方一時間続けて課題らしきものに取り組んでいたんですが…中々々進捗状況は良くなさそうですね」

僕が頼んでいたアイスココアが大きめサイズのグラスでマスターに手渡され、高笑いでもしようと思っていたのか張っていた胸から崩れ落ちたのは見なかったことにしてあげよう。

きっとそれが君のためになるのを信じてるよ微風…

僕はそんな微風を密かに応援することにしよう、レイピアに課題のことを聞いたらもう終わっていると言われたので僕と君で協力して課題を終わらせようね!!


「マスター殿、それは言わんで欲しかったですたい…」

何処の方言か良く分からない言葉を発して軟体動物のように机にピッタリと張り付いているところにマリアさんの遠い親戚だと適度な嘘をついて身分を隠しているレイピアがやって来て

「初めまして。微風さんとお呼びすればよろしいのでしょうか、私はマリアのもとでお世話になっておりますレイピアと申します。

故あって現在小谷荘へお邪魔をしておりますが余りお気になさりませんようにお願い致します、北村さんとは小学校以来の仲ですので何かとお見苦しいところをお見せするやもしません、その時もどうぞよろしくお願い致します。」

と彼女は僕の中での彼女の像を見事に粉砕したのである。

いやいやこの恭しくゆっくりとした所作でお辞儀をする美少女は誰だってなるよ、僕が一番驚いたからね、口の中に含んだココアの味が何か一度に無色透明になってしまった気がした。

言葉を失う僕と微風なんかを放っといてレイピアはりんごのタルトに目を輝かせたのである。

背後で蓄音機が静かに何か低音の楽器の音を奏でている中で僕はレイピアと顔を見合わせたが彼女は何食わぬ顔をして微風の居たところから僕の右隣の席へ移動したのだった。


「うーむ、ここに長居したとて落書きの山を産んでしまうとはこれすなわち我が不覚とするところ…これはマスターとの雑談に走ってしまうせいかそれともアイディアが浮かびすぎるほどこの環境が勉強にとっても趣味にとっても良いものだということなのかも知れぬな

現に課題も進んどるし…もう少しここに居ても良いのではないか?」


こちらに意見を聞かれても決めるのは微風の意志だし僕らは勉強目的でここに来たわけじゃないし反応に困るのが正直なところである。

別のところに行っても作業の効率が上がるとも思えないし、おじさまおばさまの井戸端会議的な雑音と音楽もなかなか面白いので僕的にはおすすめだけどな…


「この近辺に図書館とか無いのかな? あと僕達まだこの近辺に疎いからスポットを知らないからもし知っていれば教えてほしいのだけれど?」

レイピアがりんごのタルトをこの世の春と言わんばかりに頬を落して食べているのを横目に僕は考え込んでいる微風に聞いた。


「そうだな…娯楽施設というよりあれだな公共施設の場所を教えておいたほうが良さそうだ。

図書館やら公民館の場所が知りたいのであれば我も向かおう、マスター確か先にお代は…」


「えぇ、払ってありますよ、それと私は君たちに是非一度行ってもらいたい場所があるのですが行って頂いてもよろしいですか?」

お客さんが入ってきたのでマスターが応対に行く間にさらっとそんなことを言っていた


「図書館か、ここから行くとなるとそんなに距離無いし我も折角だから着いていっても問題は無いよな?」

何か謎めいた笑みを浮かべて微風がパーティーに加わった!!

とは言ってもレイピアのデザートの時間が終わるまでは僕らは動けないのでまたせる形になってしまうので少しだけ申し訳無い気はするんだけど


「ええとー、微風さん私が甘味を食べ終わるまで今しばらくかかりますのでお待ちくださると幸いです!」

いやいやレイピア、僕以外に対してその行儀よくするのはいいんだけど素が隠しきれてないというか…まぁ本人が良いなら僕はなにも言わないさ。

幸せそうにぱくぱくと口元にタルトを入れていくレイピアを眺めて僕も一息つくとしよう


アンティークな家具がかなり置いてあるのなぁと思って周囲を見渡しているとなんと黒電話なんて置いてあって少し驚いたんだけど…

「あの電話ってどうやって使うんですか?」

黒電話って名称くらいしか知らないし…携帯電話が普及した今ほぼ過去の遺物と化している電話ボックスと言うか公衆電話とかもう撤去され続けて殆ど見たこと無いしその前の電話なんてわかんないよね

「え? 涼くんこの電話の使い方分からないの?私この電話とこうしゅうでんわ?位しか知らないんだけど」

時代が一つどころか2つくらい遡っているんだけど僕はもうレイピアには驚かないと決めているので…ということは携帯電話はおろかスマートフォンも分からないのか、道理で捜索願が出されるわけだよ。


「あぁそれとレイピアさん花束ですが北村さんからきちんと受け取りましたよ、まさかあんな素晴らしい花を戴けるとは思いませんでした有難う御座います」


黒電話が置いてあるカウンターの端っこまでひょいと軽く席から降りて移動したレイピアにマスターは軽くお辞儀をした、レイピアも確か三日間くらいお世話になったとのことでもしかしたら僕より…なんて安い嫉妬はやめておこう、需要とか無いし


「それでマスターさん、僕達に言って欲しいところがあると言ってましたが一体何処に?」


「行ってもらえますか?」「どうせふたりとも暇だし大丈夫だよね!!」「我にはこなせばいけないたす…まあ良いだろう!」


賛成多数でこの法案は可決されたので僕に拒否権はない。

と言っても僕が否定票を入れるなんてことは殆ど無いし忙しいわけでもないからそこはあまり深く考えないけどマスターのことだから何か考えるところがあるんだろうな


「…そうですかそれでは行ってくださるということで簡単な地図をご用意いたしますから少々お待ち下さいね」


マスターはこちらを不思議と安心させるゆっくりとした口調でにこやかにしかしどこか寂しげにこちらを観察するのであった。





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