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天職に支配されたこの異世界で  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中


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第七十七話 思わぬ再会と追いかけっこ

 互いに驚愕の表情で固まること数秒……と思ったら、


「……悪い、桜。急用を思い出したから今日は帰る!」


 一方的にそれだけ告げると竜也さんはその場で踵を返えして来た道を戻るように駆け出す。まさしく脱兎の如くという表現がピッタリなほどの素早い逃げ足で。


「なっ!?」

「はあ!?」


 いきなりのその行動に俺だけでなく桜も驚愕の声を上げる。だが竜也さんはその声を聴いても足を止めることなく全力で逃げて行った。


「この、ちょっと待て!」


 それをそのまま見ている訳にもいかないので俺もすぐにその後を追って走り出す。

 背後で桜が何か言っていたがそれを聞いている暇はないので悪いが無視してだ。


「竜也さん! 何で逃げるんですか!?」


 遠ざかるその背中をこちらも全力で追いながら声を投げ掛けるが返事はない。


 それどころか更に速度を上げてこちらを引き離しにかかる。その態度には明確な拒絶の意思が現れていた。


(逃がすか!)


 だからと言ってこのまま見逃す訳がない。俺の顔を見て名前を呼んだ時点であの人がそっくりな別人である可能性はなくなっているのだ。何としてでも捕まえて事情を説明して貰わなければならない。


 そうと決まれば出し惜しみはなしだ。俺はすぐさま出来る限りの魔力を練って体に強化を施す。


「ちょ、お前、それは卑怯だぞ!?」

「勝てばいいんすよ! 勝てば!」

「それ、どこの悪役のセリフだよ!」


 それに気付いた竜也さんは振り返りながらそんなことを言って来るが俺がその言葉に聞く耳を持つ訳がない。何も言わずに逃げるあちらが悪いのだし、そもそも強化を使ってはいけないなんてルールなど決めていないのだから。


 そうして人混みの間を縫うようにして、時には建物の壁や屋根を足場にしながら街中での追いかけっこをする俺達だったが、どうやら走る速度からして竜也さんも相当強い肉体を持っているのは間違いないようだ。


 でなければ魔力で強化した状態の俺から十秒以上逃げられる訳がない。


 だがそれもいつまでも続きはしない。魔力で強化した時点で速度はこちらの方が上だからだ。


 そしてアストラティカの入り口付近でその背中に手が届きそうな距離まで来る。


(捕えた!)


 そう思ってそのまま背中に手を伸ばして、


「「ごふ!」」


 突如として襲ってきた衝撃に吹き飛ばされる。ただそれは俺だけではなく竜也さんも同じだったが。


 それをやった人物はどこからともなく俺達の間の現れた桜だ。高位の戦闘職なのか流れるような実に見事な動きで俺と竜也さんに対してほぼ同時に打撃を叩き込んで見せたのである。


 その結果、俺は街中に戻るように、竜也さんは街の入り口の外に出るように吹き飛ばされて地面に叩き付けられたのだが、


「って、しまった!」


 桜は竜也さんの方を見てそう言いながら顔を顰める。そして何故か地面に叩き付けられたままの竜也さんの方が勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。


「サンキュー、桜。おかげで無事逃げ切れた。それと一夜、さっきお前が言っていたセリフをそっくりそのまま返すぜ」


 そしてそんなことを言いながらゆっくりと汚れた部分を手で払いながら立ち上がる。まるで既に逃げ切った事が確定しているかのように。


 何が起こっているのか分からないが、だからと言ってこのまま何もしない訳には行かない。


 そう思った俺は完全な状態で仕掛けるべくその場で魔力を練り始める。十秒後に目にも留まらぬ速度で動いて今度こそ捕まえる為に。


 それを察知したのか身構えかけた桜だったが、それを竜也さんが言葉で押し留める。


「そう警戒するなって。そいつは俺の後輩で悪い奴じゃないからよ」

「ならその無害な後輩君から全力で逃げる理由について教えて貰えるのよね? てっきり襲われているのかと思って守ってあげたんだし」

「俺だって逃げるのは本意じゃないんだが色々と事情があるんだよ。だから後の事は任せた。この借りは後日改めて利子を付けて返すからよ」

「……はあ、分かったわよ。その代わり今度会った時は全部説明しなさいよ」


 この会話の内容はいまいち理解できないが問題ない。何故ならその会話をしてくれたおかげでこちらの準備は整ったからだ。


 そして俺は全力で動いてリラックスした状態の竜也さんへと瞬く間に接近を果たすと、その身体に再度手を伸ばす。今度こそ確実に捕まえる為に。


 だがその手が触れる前に、


「じゃあな一夜。時が来たらまた会おう」


 そんな言葉だけを残してまるで消えるように竜也さんの身体がその場からなくなる。そして周りを見渡してもどこにも竜也さんは居なかった。


「残念だけど既に竜也はここから遠く離れた場所に逃げ果せているわ。彼の天職の力を使ってね」

「一体何がどうなっているんだ?」

「それはこっちのセリフよ」


 互いに何が何だか分かっていないのは間違いないようだ。それを察してか思わず顔を見合わせて苦笑いを浮かべ合う。


「とりあえず逃げられてしまった以上、今は竜也の事はどうしようもないわ。だからあれの事は一先ず置いておいて、互いに事情を話す所から始めるとしましょう?」

「そうだな。そうするしかないか」


 そうしてこの場では何だからと改めて先程の酒場に俺達は戻るのだった。

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