第七十六話 驚愕の再会
その後、俺から聞きたい事を聞き終えたマリアはシャーラを連れてさっさと去って行った。
曰く、シャーラの身体をどうにかするのはここでは無理だからとのこと。
「【医狂い】の身体は色々と特別だからね。それに無茶した事で本来の病に対しての抵抗力も弱まっているだろうし、本部で本格的な調整をする必要があるんだ」
聞けば右目などの幾つかの器官は例の病の為ではなく改造を行ったと言うのだから驚きだ。全ては病や毒物に対していち早く対応できるようになる為に。
その自らの体を差し出してでも病を無くそうとするその在り方は流石【医狂い】と言う他ない。
(それにしても本当にここに来るんだろうか?)
現在、俺はソラ達を宿に置いて【腹黒女】によって指定された場所に来ていた。
それはアストラティカにある一軒の酒場だ。渡された手紙によれば一人でここに来れば、今から十分後の時間にここで同郷の者と遭遇する事になるとの事だが、今のところその兆候は全くない。
周囲ではこんな昼間から酔っ払っているのか、むさい男共が酒をかっくらって騒いでいるだけだ。
(少し前に何が有ったのか知らないから仕方ないんだろうが、それにしたって気楽なもんだ)
俺達が未然に食い止めた事もあり、あの事件は表沙汰にはなっていないのはこの街の平穏ぶりからも明らかだった。
でなければこんな風に呑気に酒を飲んで騒いでなどいられないだろう。
そうして指定された時刻の三分前だった。
その人物が店の中に入って来たのは。
(……どうやらあの手紙に書かれていた事は嘘ではなかったみたいだな)
ロゼの天職の件を言い当てた時点でそれは分かっていたが、これで更に補強されたとみて間違いない。
その店に入って来た俺と同年代ぐらいの茶髪の女性は目が合うなり真っ直ぐにこちらに向かって歩いてくる。その顔はどこからどう見ても日本人のものだった。
「見たことない顔だけどその顔は日本人よね? ってことは新しくこっちに来た人?」
そして空いている席に着きながら気軽にそんな事を尋ねて来る。どうやら時間までまだ数分あるが間違いないようだ。
「俺の名前は氷室一夜。ご察しの通り最近こっちの世界にやって来たんだが、そう言うそっちも同じ境遇だと思っていいんだよな?」
「もちろんよ。私もあなたと同じ異世界人で名前は江崎 桜よ。呼び方はお好きにどうぞ」
こちらも好きに呼んでいいと互いに自己紹介が済んだところで桜は店員を呼ぶと適当に注文をする。しかもその中には酒も含まれていた。
(いや、酒場だからおかしくはないのか?)
俺は色々と聞きたい事もあるからと酒などを一切呑まずに待っていたのだが、どうやらあちらはそんなこと気にもしないらしい。
それは運ばれてきた酒をおいしそうに一口飲んでいる事からも明らかだ。
そこで改めて聞きたい事を口にした俺だったが、
「お、なんだよ。今日は桜以外にも居るのか」
その男の声に固まる。何故なら信じ難いがその声には聞き覚えが有ったからだ。
(嘘だろ……)
そう思って視線を声がした方に向ければ、
「ってまさかお前、一夜か!?」
「竜也、さん?」
俺が煙草を吸う切っ掛けになった先輩、葛西 竜也が驚いた顔でその場に立っており、そしてそこで店に飾られていた時計の針が手紙に書かれていた時刻になるように針を進めるのだった。