第六十一話 予言者の言葉
多少予定外な出来事はあったものの無事に優勝賞金を手に入れた俺達は人目を避ける為にも宿を取ってその部屋の中に居た。
「ほらよ」
そこでそれをシャーラに投げ渡す。当初の二人の内のどちらが勝っても半分ずつ山分けという条件にも拘らず優勝賞金が全額入った袋をそのままに。
「これはどういう事?」
「おまけも付けたし、そっちの言う事を一つ聞いてやったんだからこれで借りはチャラだ。だからこれから俺はそっちの命令を唯々諾々と聞くつもりはない。そういう事さ」
充分な蓄えもあるので今の俺にとって金はそこまで重要な物ではない。
そういう事もあり、俺は手に入れた優勝賞金をソラの許可を得た上でシャーラに全てくれてやることにした。
「もしかして手切れ金のつもり?」
「別に完全に縁を切る必要性は今のところ感じていないが、このまま脅されて顎で使われるのならそれも考えるな。俺は別にお前の手下じゃないんだし」
挑発的な俺の言葉を聞いたシャーラはそこで俺が言いたい事を理解したのか苦笑いを浮かべながら謝って来た。
「ああ、そういうことね。だったらごめんなさい。あれは冗談と言うか、ついついいつものクランのメンバーと話す感じで言ってしまっただけなのよ。そもそも『行先案内人』関連で貴重な情報源になり得るあなたの事を他の組織に教えるつもりなんて更々ないし、あなたとは今後とも良い関係を続けていきたいと思ってるわ」
その言葉の後に改めて頭をしっかりと下げて謝罪して来た事もあり、俺は一先ずその提案を受け入れることにした。
俺だって別にシャーラやヒューリック達と敵対したい訳ではないので。
「それでこれからどうするんだ? 目的の金稼ぎは終わったんだろ?」
優勝賞金も手に入った事だしここにはもう用はない。そう思っていた俺だけど、シャーラはその言葉に首を横に振る。
「いいえ、これはあくまでおまけよ。だって本来の金稼ぎはこれから行うことになるんだから」
「なんだと? それはどういう意味だ?」
「うーん、詳しく説明したいところだけど私も全部を把握している訳ではないし、それにあんまり喋り過ぎると怒られかねないのよね」
そうして少しだけ迷っていたシャーラだったが、やがてその答えを出した。
「まあいいわ。失礼な態度を取ってしまったお詫びの意味も込めて今回は私の知る限りの情報を開示するわ。ただしこれは私達クランにとっても割と重要な機密だから決して他人に言わないと約束して貰うことになるけど、それでもいい?」
言葉にはしていないがそれを破ればどうなるかその真剣な目を見れば判る。その上で俺は頷いて了承の意を返した。
「実は私達のクランには未来を予知できる『予言者』が居るの。そしてその人物の指示で私はここに送り込まれたってわけ。金儲けの機会が生まれるからってね。急いでいたのもそうするように言われたからが大きいわ。まあ大食い大会い間に合いそうだったからってのも無くはないんだけど」
「それで肝心のその予知の内容は?」
「私も教えて貰ってないわ。言っとくけど本当よ。話すと未来が読み難くなるからとか言ってその時が来るまで私達にもその情報は伝えないのよ、あいつは。その所為でこっちがどれだけ困ることになったとしてもね」
最後の方はかなり憎々しげな感情が込められていた。どうもそいつも中々に厄介な人物らしい。
流石はシャーラやヒューリックを含めた『未知の世界』の全員が変人奇人扱いされているだけはあると言うべきだろうか。
それにしても『未知の世界』の構成員はシャーラやヒューリックを合わせてたったの九名しか居なかったはず。その中に確定した未来を予知できる固有職の『予言者』が居るというのか。
(この分だと他のメンバーも一筋縄ではいかない奴らばかりな気がするな)
「ちなみに『予言者』だからって何でも分かる訳じゃないみたいよ。現にあなたという存在について予知では分からなかった事からもそれが証明できるでしょう? もし予知していたのなら初めて会った時にそれを教えられた私達ももっと違う行動が出来ていたでしょうし」
「まあそれもそうだな。で、それだとこの後にどうするのかって話になるんだが?」
もっとも既に俺は義理を果たしたと思っているのでそれについても手伝うとは言い切れないが。面倒だと思ったらパスするのもありだろう。
と、そこでシャーラの荷物の中から何かが震動する音が聞こえてきた。
そしてそれを聞いたシャーラはこちらに一言謝るとその震動している板状の物を荷物の中から取り出して、それを見た瞬間に嫌そうに眉を顰める。
「どうした?」
「その『予言者』様から追加の伝令が届いたのよ。ちなみにあなた達についての事も書かれてるわ」
そう言って差し出してきたその板には確かに文字が書かれていた。どうやらこれで遠方と文通のようなことが出来るらしい。
そしてそこにはこう書かれていた。
「「今から五日以内にとある問題がその街で起こる。そして更にその問題を三日以内に解決できた時、ヒムロイチヤは同郷の者とその街で再会する」か。これもその予知とやらなのか?」
「私に断定は出来ないけど、恐らくはね」
流石は予言者と言うべきか。まるでこうなる事が分かっていたかのようなタイミングでのメッセージである。
それにしても同郷の者とは、それはまさか俺と同じ世界ということなのだろうか。それ以外に考えられないが、こうも都合よく行くものなのかと疑ってしまう。
あるいは俺を巻き込むために嘘を吐いているのではないかとも。
だがもしこれが本当だった場合、この事件とやらを解決する事は俺にとっても非常に大きな意味を持つ事になる。それをみすみす逃すのはやはり惜しい。
そこで悩む俺の脳裏にふと思い浮かんだのは出発前に二人きりでヒューリックと話した内容だった。




