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天職に支配されたこの異世界で  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中


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第五十二話 階層の主

 まず俺は様子見とばかりに一太刀を浴びせに掛かるが、これまでの奴らならそれでも真っ二つにできるその一撃に対して奴は見事な反応を見せ回避してみせた。


 やはり外見は似ていても中身は別物らしい。


 ちなみに魔獣と魔物を判別する上で最も分かり易いのはその目の色を見ることだ。

 魔物に分類される奴らはまるで鮮血を固めて作ったかのような真っ赤な目をしており、それは瞳だけではなく本来なら白目のところまでそうなっているのである。



 だから目を見れば大抵の魔獣や魔物の判別はつくのだそうだ。もっともスカルフェイスのように実態を持たない奴などもいるので、全てがそれだけで分かるという訳でもなさそうだが。


 当然のことながら目の前のリザードマンは魔物である為、白目に至るまでその眼球は赤で染められている。それは背後でロゼ達と戦っているナーガも同じだ。


「ギシャアアアア!」


 反撃とばかりに振るわれるその鋭い爪の生えた拳による一撃を俺は難なく半身なるようにして躱し、そのまま前に出て今度はその胴を切り裂く。


 剣はその一撃の威力に耐え切れずに壊れてしまったが問題はない。何故ならそれでも敵の上半身と下半身はその斬撃によって既に分かたれているからだ。


(やっぱり俺の全力に耐えられる武器が欲しいな。このままじゃ一撃ごとに武器をリストから出さなきゃいけないし)


 そんなことを考えながら壊れた剣はその場で消去して俺はロゼ達の方はどうなったのかと確認の為に振り返ると、


「おいおい、そんなのありかよ」


 そこには体を再生させながら二体に増えていっているリザードマンの姿があった。


(アメーバかよ)


 思わず内心でそんな突っ込みをしてしまう。分裂して増えるその姿はまさにそんな感じに思えたからだ。


 そして僅か数秒で二体に増えたリザードマンはそれぞれが威嚇の声を上げてこちらに敵を剥き出しにしてくる。


「一体どんな体をしてるんだよっ!」


 そんな文句とともに今度は片方の奴の首を刈り取る。そしてそれと同時にその宙に飛んでいた頭を炎で燃やして尽くした。


 すると流石にその燃え尽きて炭化した頭部から体が生えてくることはなくそのまま形を保てなくなって崩れていく。


 どうやら燃やし尽くせば流石に分裂も再生も出来ないようだ。それでも残った体から新しい首が生えて普通に動き始める辺り化け物みたいな再生力ではあるが。


 これまで倒してきた他の蛇のような魔獣の中にここまで化け物じみた回復力は持っていた奴は居なかったし、これも魔物特有の能力なのだろうか。


 だとしたらつくづく魔物とは常識外れな生き物である。


(あえて魔獣とは別物だと考えられているのもこれなら分かるな)


 どう考えても魔物の方の再生力は異常だし、これならより一層人々に恐れられているのも納得せざるを得なかった。


 そんなこちらの考えなど知ったことではないリザードマン二体はそこで思わぬ行動に出る。


 警戒した様子で俺の持っている剣をじっと見ていたかと思ったら、その掌から何か棒のようなものが皮膚などを突き破って生えてきたのだ。


 そしてそれは歪で形も不揃いだったが俺の持っている剣にどことなく似ているように思えた。


 そして驚いたことにその剣らしき物を使ってこちらに襲い掛かってきたのだ。

 それも曲りなりにも剣術らしき体捌きを見せながら。


(まさかこっちの動きを学習したっていうのか? この短期間で?)


 先ほどまではただ獣のように突っ込んでくるだけだったのに、今では未熟ながらも剣を振るっている。

 そしてそれを振るえば振るうほどに動きが洗礼されていっているのだ。


(時間をかけるのは不味いな)


 この学習能力がこいつらだけの特性なのか、それとも魔物全体に言えることなのかは分からないが、どちらにしたって時間を与えるのは良くない。


 俺はすぐさま両腕に剣を出現させると同時に魔力を集めると、それぞれの腕でほぼ同時に二体に向けて斬撃を放つ。そしてその斬撃によって縦に割れた二体の体が再生する暇も与えずに、一気に火の魔法で燃え散らした。


 更に用心して燃え尽きて炭になった奴らの体を細切れにしておく。ほとんど跡形もなくなったし、ここから再生するのは流石に無理だろう。


 ただこれで終わりではないので俺はすぐにナーガと戦っているロゼ達の方へと向かった。見たところ今のところは善戦しているのか、二人に傷はないし相手にダメージを着実に与えているようだ。


 そこで手を貸すかどうか俺が一瞬迷った時には、


「燃え尽きろ!」


 ソラの放ったフレイムブラストによって敵の体は燃え盛る炎によって包み込まれていた。そしてそのままナーガは抵抗むなしくその炎によって焼き尽くされていく。


 その速度は心なしか俺の時よりも早い気がした。


 そうして燃え盛る炎が消えるとそこには炭と化したナーガの死体があるだけだ。どうやら心配する必要はなかったようである。


「イチヤ様、ご無事でしたか」

「まああなたが負けるなんて思ってなかったけどね」

「そりゃどうも」


 ロゼの言葉は信頼されていると思うことにして、俺はそこで体に何かが入ってくる感覚を覚える。どうやらフロアボスの死体からマナが出てきているらしい。


「特に二人はマナを摂取しておけよ。これから先はこれよりも強い奴が待っているはずだしな」


 俺でさえ僅かながら力が高まるのを実感できているのだ。きっと二人はかなりの力の上昇を感じていることだろう。


 二人は指示通り倒したボスの近くに行った深呼吸をしている。本当かどうか知らないが、呼吸をすることでマナをより多く取り込めるらしいからだ。


「って、おい、どうした?」


 そこで恐らくは急に湧き上がる力に戸惑っていたらしく微妙な表情をしていた二人が急にその場で膝をついて座り込む。


 まさかまだボスが生きていて毒でも発生させているのかと焦った俺だったが、すぐにそれは違うことが判明した。


「な、なんか力が湧き上がり過ぎて気持ち悪い」

「わ、私も同じ感じです」


 どうやら大量のマナを摂取したことによる急激な肉体の強化の影響が出ているようだ。


 ソラ曰く尻尾が増えた時の感覚に近いとのことだし、それで間違いないだろう。


(もしかしたらソラはこれでまた尻尾が増えるってこともあり得なくはないかもな)


 そんなバカなことを考えながら俺は二人に手を貸してやる。


 気持ち悪いと言っても自分で歩くことはできるようで、前のソラの時のようにそこまで深刻な症状ではないのはひとまず安心できた。


 まあそれでもこのまま探索を続けるのは不可能なので俺達はここで一旦帰還することになる。


 と、そこでボスの死体が急に消えたと思ったら出入口の扉のところに何かが現れた。


 それは俺の見間違えでなければ宝箱のように見える。と言うかあれの外見はそれ以外の何物でもないだろう。


(つくづく迷宮ってのは意味が分からないな)


 見た感じ罠などが仕掛けられてはいないようなので俺は警戒しながらもそれを開ける。そして中に入っていた綺麗な装飾が施された短刀を取り出した。


 鞘から抜いてみると非常に鋭そうな刃が銀色に輝いているし、かなり良い物のようだ。


「……まあ貰える物は貰うっておくか」


 ボスを倒したらアイテムがドロップするとかに関しては色々と言いたいこともあったが、俺は半ば強引にそうやって納得するとフラフラな二人に手を貸しながらその場を後にした。

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