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天職に支配されたこの異世界で  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中


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第四十九話 害虫駆除

 翌朝、自己嫌悪で落ち込みまくるソラに対しておやつを与えたりする事でどうにか励まし、普段の状態まで戻すことに成功した俺達はギルドの受付に来ていた。


 それは依頼を受ける為でもあるが、それ以外にも目的がある。


「はい、これでDランクの【フライングアントの巣の破壊】【チョーギュウの生け捕り】【大蛇の迷宮に生息する魔獣及び魔物の生態調査】の依頼の受注が完了しました。他に何か聞きたい事などは御座いますか?」

「それなんだけどこの街で天職について調べられるところはないか?」


 これはソラやロゼの天職についての情報を少しでも手に入れる為である。


 通常職(ノーマルジョブ)ではないのでそう簡単に情報が手に入るとは思っていないが、何もしないよりはマシだろうし。


「それでしたらギルド会館の地下に書庫が御座います。ただランクによって閲覧できるものに制限がありますので、より多くの物を見たい場合はランクを上げて頂く必要がありますね」


 勿論Dでも見られる本は有るとのことなので、とりあえず俺はその書庫とやらに案内して貰った。そしてDランクでも見られる天職関連の本を持って来てもらう。


 だがやはりと言うべきか、そこに書かれている天職は『村人』や『見習い人(アプレンティス)』といった通常職(ノーマルジョブ)ばかりだ。


 たまに『剣豪』のような稀少職(レアジョブ)が載っていても詳しい事は書かれていない場合がほとんどだし、それらは稀少職(レアジョブ)の中でも比較的価値が低いとされているものばかりだった。


 まあそれでも通常職の事がほとんどだったとは言え天職についての知識は増えたから徒労ではなかったが、やはり稀少職(レアジョブ)以上の天職について詳しい事を知るにはもっと上のランクになる必要は否めない。


 それに今のソラなら傷をほとんど負うことなく押さえられるが、これがさらに成長を重ねていくとどうなるか分かったものではない。


(俺もこのままじゃダメだな。強くなる必要がある)


 その為に出来る事はやはり依頼をこなしていく事だけだろう。そこで魔獣や魔物を倒す事でマナを得ていくのが肉体を強化するのに最も効率的な方法なようだし、依頼をこなせば閲覧できる本も増えていくのだから。


 そういう訳で俺はその書庫を後にすると早速受けたばかりの依頼を達成するべく、まずはフライングアントという魔獣が生息する森の中へと足を踏み入れていた。


「フライングアントは個体としての強さはたいした事ないが、群れとなるとその危険度が跳ね上がるらしいな。何よりも巣の破壊となるとその数が厄介みたいだし」

「まあ弱点である炎で攻撃できる人物がこっちには二人もいるし、余程の事が無い限り大丈夫でしょ」


 その道中で改めて敵の情報を確認する。そんな事をしながら森の中の獣道を歩くことしばらく、俺達はそのフライングアントの巣をついに発見した。


 どうやら聞いていた通り洞窟の中に巣をつくるタイプらしく、その洞窟の入り口付近で大量のフライングアントが巣の中と行ったり来たりしている。


 ちなみにあの洞窟に出入り口はあそこしかないのは確認済みである。


「……なあ、あれのどこか(アント)なんだ?」


 その人間の頭部並みの大きさを持っている事もさることながら、その尻の辺りに生えた杭のような針といいその外見はどう見ても巨大な蜂と言うべきものだった。


(いや確か蟻は大きく分ければ蜂の一種だったか。それだとこの外見もあながち間違いではないのか?)


 そんな事を考えて少しだけ悩んだ俺だったが、


「……まあいいや」


 すぐにそんな事はどうでもいい事を理解した。どうせ仕留めるのだから敵が何科だろうが何目だろうが知ったこっちゃない。


 それに考えてみればこの異世界でそんな分類が通じるとも限らないのだし。


「そっちの準備は大丈夫か?」

「はい、問題ありません」


 ロゼの方も準備出来ているようなので、俺達は奴らの様子を窺っていた物陰からそのまま火の魔法を発動する。


「「フレイムブラスト!」」


 普通なら森の木々に燃え移らないように威力をかなり制限しなければならないだろうが、洞窟の中に炎を投げ込む形なのでそこまで気にしなくてもいいのは助かった。


 そういう訳もあり俺達の放った炎は洞窟の中に吸い込まれていって、少しの間を置いた後に炸裂したのを音で把握する。


 現に洞窟の中からはワラワラと大量の身体を炎で焦がしたフライングアントが出て来たし。中にはまだ炎で焼かれて翼を炎で包まれながら飛行している個体も存在した。


 そいつらを自由にさせると周囲の木々に炎が燃え移りかねないので、俺はすぐさま大量の武器をその群れ目掛けて発射する。


 そしてそれらは下手な鉄砲数撃ちゃ当たるという諺が間違っていない事を証明してみせた。


「よし、このまま作戦通りソラは巣の中を炎で攻撃。俺とロゼで出て来た奴らの殲滅で行くぞ」


 そこから先はもはや戦いと言うよりも害虫駆除の方が合っていた。


 出てくる奴らは片っ端から俺とロゼによって体や羽を斬られる事で地面に落ちていくし、ソラは絶え間なくその巣の中に炎の玉を生み出しては撃ち込んでいく。

 その度に真っ暗なはずの巣の中が赤い炎で照らされて一瞬だけ明るくなっていた。


 そうして十分くらいその行為を続けた辺りで、ようやく湧き出てくるフライングアントの数が減って来た。


 そして更に十分後には遂に出てくる奴はいなくなる。


「聞いてはいたが、それにしてもとんでもない数だったな」


 巣の外に這い出て来られた奴らだけでも相当な数だし、これでソラの炎で焼き殺された個体も含めれば一体どれだけの数がいたのやら。


 念の為にそれからもさらに何発か二人で洞窟内に炎を撃ち込んでから俺達は巣が完全に破壊出来たのかの確認の為に洞窟内に入ってく。勿論籠った熱がある程度引いた後にだ。


 ここでゲームとかなら生き残っていた女王蟻とかとのバトルというイベントでも起こるのだろうが、


「これまた見事に焼け死んでるな」


 最奥に居た一番大きな女王蟻らしき個体は黒こげになって事切れていた。その周りに居た護衛らしき蟻も同じ末路である。


「これで巣の破壊は完了ですね」

「なんだか思ってたより呆気なかったわね」

「まあヤバい事があるよりはその方が良いさ」


 最後に運よく炎から逃れた卵や外に有った死体の山などもしっかりと焼いて処分すると、俺達は証拠となる黒焦げの女王蟻の死体だけ持ってその場を後にする。


「えっと、次はチョーギュウの生け捕りだな」


 その名の通りそいつは前に食ったモーギュウの上位個体とも言うべき存在である。


 何でもチョーギュウは高級食事として人気があるとのことで、生け捕りなのも料理に使う為だとか。鮮度が大事との事で。


「折角だから俺達が食う分も取っておくか?」


 この言葉に何も言わなかったものの目を輝かせたソラの様子だけで答えは分かるというものである。


(何と言うか、ここで素直に「はい」と言わないのがソラらしいな)


 結局俺達は生け捕りにした個体の他にもう二体ほどその高級食材となる魔獣チョーギュウを仕留めることになるのだった。


 その肉は大変脂が乗っており、ソラだけでなくロゼも虜になるくらい美味であったとだけ言っておこうと思う。

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