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天職に支配されたこの異世界で  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中


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第四十七話 実験とその後始末

 五度ほど奴が隠れている場所に尋ねてやることでようやく街の外へ逃げ出す事を選択したモーリスだったが、それも残念ながら徒労に終わる。


「ど、どうなってるんだ? どうして俺の居る場所が分かるんだ?」


 普通ならフーデリオの街から外に出れば追跡するのは容易ではない。


 何故なら近くの港から出ている船による海路や険しい山脈を越える山道など複数の方向へと行ける道がこの街にはあるからだ。


 人の出入りもかなり激しいし、そう簡単には後をつける事は出来ない。ましてや情報も無ければ待ち伏せなんて不可能に近い。普通なら。


「一言で言えば俺の天職の能力さ。まあそれを言ったところでこれから死ぬお前には意味のない事だけどな」


 モーリスが俺達から本気で逃げてくれたおかげでその精度なども十分に測ることが出来た。つまりこいつはもう用済みということである。


 俺がこいつを追跡出来た理由は簡単だ。


 自らが作り出した贋作であればそれがどこにあるのかが大まかに把握できる。そして贋作と自分との距離が近ければ近いほど精度が上がる。


 それがレベルⅦ以上になることで使えるようになる『贋作者(フェイカー)』能力だ。


「正直ここまで高性能の発信機のような役割をするとは思っていなかったよ。まあリストに載っている内だけって条件はあるが、それでも個別での位置確認もできるみたいだしな」


 気絶している内にモーリスの体には幾つかの贋作を仕込んでおいたのだ。


 それは指輪などを半ば強引に装備させたことでもあり、前もって飲ませておいた体の中に入っている水などでもある。


 それら一つ一つがリストに載っている間であれば俺にとっては発信機のようにどこに居るのかを大まかに教えてくれる装置になっているという訳だ。


 しかも街中程度であればその贋作が有る場所に簡単に辿り着けるぐらいの精度である。


 ちなみにデュークに渡した剣やシャーラ達の折り畳み傘などもその効果は発揮されている。


 流石に距離が離れている所為か正確な位置までは分からないが、それでもどの方向に有るのかは何となく把握できていた。これなら俺の方からその感覚を頼りにその人物の元まで行くこともそう難しい事ではないだろう。


「この能力も一応はソラとロゼに協力して貰って確認したことはあるんだけどな。でもやっぱり本気で逃亡を図る奴で試しておかないと色々と不安が残るところだったから、お前は実に良い実験台になってくれたよ」


 ついでに少し前に習得した魔力による全身強化の実験の方にも付き合って貰うとしよう。これは腕だけでやっていたのを全身でやるという原理としては実に単純なものと言える。


 もっとも実際にやってみるとこれがまた難しいのだが。


 一点に集中するのなら意外に簡単なのだが、全身となると魔力を体全体に行き渡らせた上でそれらを集中させた時と同じぐらいになるまで密度を高めないといけないからである。


(その分消費する魔力はかなり多くなるみたいだし、これは強敵専用だな)


 そんな事を考えながらまたしても命乞いをするモーリスの口を塞ごうとして、


「ああそうだ。体内に入った物を消すとどうなるのかも試してみるべきか」


 自分では怖くて出来なかったしこれもいい機会である。


 俺はその場でまた贋作の水を飲ませるとしばらく時間を置いてそれを消してみた。だが特に大きな変化は見られない。


 違和感があるのか胃の辺りを押さえているだけだ。


(胃の中に残ってる水が消えただけって事か?)


 やはり体内に取り込まれたものなどは消せないみたいだ。

 そうでなければこんな物で済むはずがないし。


 まあこれはこれで何らかの使い道あるかもしれないし、今はその事が分かっただけでよしとしよう。


「後はそうだな……他人の肉体に魔力を流し込んだらどうなるかも試してみるか」


 逃げようとするモーリスの片足を折って行動不能に追い込んだ後、俺はその体にゆっくりと慎重に魔力を流し込んでみた。


 最初の内はかなり手古摺っていたが、時間が経つごとに連れて慣れて来たのかスムーズに流し込めるようになってくる。


 そしてある程度の量を流し終えたところで、


「う、うわああああああああああ!」


 俺が触れていたモーリスの片腕が一瞬膨張したと思ったらまるで風船みたいに破裂してしまう。どうも限界を超えるとこうなってしまうようだ。


(って、俺もコントロールをミスったらこうなってもおかしくないって事だよな)


 これまで特に考えもせず気軽に使っていたがこれからは慎重になるとしよう。俺はこんな風に腕を破裂させたくなどないのだから。


「も、もういい。殺してくれ、頼む」

「何を言ってるんだ。その機会を蹴って逃げ出すことを選んだのはお前自身だろ?」


 安らかに死にたいのならあの場で約束をしなければよかったのだし、そもそもその約束を破って逃げ出そうとしなければよかっただけの話だ。


 そうすれば俺だって何もするつもりはなかったのだから。


 つまりこの状況はこいつが自分で招いたもの。要するに自業自得という奴だ。


「考えてみたらお前には例の戦利品の事でも聞きたい事があるし、もう少しばかり実験にも付き合って貰うから覚悟しておけ」


 残念ながら街で噂になり始めている覆面の鬼は甘くない。それを俺はたっぷりとその身体に教え込んでやることにした。


「心配するな。実験する為にもすぐには殺さないから」

「嫌だ、頼む、やめてくれええええええええ!」


 その絶叫は残念ながら人の気配が全くない森の奥で俺以外の誰の耳にも届かずに消えていく事になるのだった。

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