第四十六話 思わぬ戦利品
無事に殲滅を終えた俺は盗品の中で面白い物や貴重な物はないかと思ってそれらを見て回った。
だけどまさかそこでこんな物を発見する事になろうとは正直全く予想だにしていなかったと言わざるを得ないだろう。
「サングラスに破れたメモ帳の切れ端。それと俺のとは別の銘柄の煙草か」
前者はともかく後者は見た事のある銘柄なのでまず間違いなくあちらの世界の物だ。
それにサングラスも値札が付いているとこからすると高確率でそうだと思われる。と言うかそれ以外にあり得ないだろう。
無論の事この持ち物とその持ち主について俺は頬傷の男に問い詰めた。だがそこで得られた情報はほぼ皆無だったと言っていい。
何故ならこれらの持ち物は盗品ではなくスラムにやって来たある男が落としていった物で珍しいから拾っただけ。そいつが何者かも知らないとのことだからだ。
(やっぱりこれを落とした人物が居るって事は俺以外にもこの世界に来ている人物が居るってことだよな)
ここに来て俺はあの老人の話をちゃんと聞いていなかった事を悔やんでいた。
もしかしたらあの時にそういった事に対する説明もされていたかもしれないのに完全に聞き流してしまっていたし。
(今更悔やんでもどうしようもないけど、そう思わずにはいられないよなあ)
だがいつまでもクヨクヨしていても仕方がない。ここは別の銘柄の煙草が吸えるようになったことだけでも素直に喜ぶとしよう。
なにより他の異世界人が居る可能性もあると分かった事だし。
ちなみに破れたメモ帳には料理のレシピらしき物が書かれていたが、切れ端では読み取れるところは限定的で何の料理について書かれているかも判明しなかった。
塩や胡椒なんて大抵の料理に使うものだし、これだけで何か分かれという方が無理な話だ。
まあ日本語で書かれているからこれを持ってきた人物は恐らく日本人なんだろうけど。と言うかそれも元の世界からやってきた証拠ではないか。
「ったく、面倒な事にならなきゃいいんだがな」
「何かあったのですか?」
そうやって借りた部屋で愚痴っているとそれを傍で聞いていたソラがこちらに近寄ってくる。そしてベッドに座っていた俺の隣に腰掛けてきた。
「たいした事じゃないさ。少なくとも今はな」
同じ故郷の出身の奴がいたところで俺のこれからやる事が大きく変わる訳ではないのだから。
「それならいいのですが……」
「そう不安そうな顔をするなって。本当に大丈夫だから」
俺が動揺しているのが伝わったのかソラは不安そうにしている。
ロゼもあからさまに態度で示すことはなかったが、こちらの様子を窺っている感じからすると結構気になってはいるみたいだ。
落ち着かせるためにもソラの頭を撫でてみるが、それでもいつもと違ってその表情が晴れることはない。
(あまりこの事を気にし過ぎるのは二人にとっても良くないか)
そう思った俺は一先ずこの事を頭の片隅に追いやることにした。情報が圧倒的に足りていないし、その人物を探そうにも手掛かりはないに等しい。
忘れはしないが何か出来るようになるまでは一先ず置いておくとしよう。
「そんな事よりも俺との約束破って逃げた奴にどうやって落とし前を付けさせるかを考えようぜ」
少々強引だったがその話題から離れようとすると、空気を読んだのかロゼもそれに乗ってくれる。
「どうするもこうするも始末するつもりなんでしょ?」
「まあな」
誓うと言っておいて逃げ出した相手に容赦するつもりはないし、その必要性も感じない。なので徹底的にやらせて貰うとしよう。
ちなみにその人物とは勿論モーリスの事である。予想通りではあったが目が覚めた後に自首することなく逃亡する事を選んだらしい。
素直に降伏して自首した頬傷の男を見習えと言いたくなる屑らしい行動である。
もっともどこに居るかは何となくではあるが既に把握済みなのだが。
「アホなのか、それとも俺達を甘く見てるのかは知らないがこの街から出てさえいないみたいだし、さっさと片付けるとするか。追跡の具合の実験も兼ねて、な」
俺の天職『贋作者』の能力の一つ。
それもレベルⅦになることで使えるようになる、これまでは特に使う機会に恵まれなかったそれをこの場を使って俺は存分に試すことにした。




