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天職に支配されたこの異世界で  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中


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第四十四話 獲物はどちらか

 勘違いかと思ったがやはり間違いない。明らかに尾行されていた。


(それにしても早いな)


 ギルドから出てすぐの時点でその尾行は始まっていた。ギルド周辺でお上りさんがいないか見ていたにしても少しばかり早過ぎやしないだろうか。


(可能性として考えられるのはギルド周辺で常に獲物が居ないか監視していたか、あるいはあの門番が情報を流しているかだな)


 仮にあの門番がこいつらと通じていた場合の話は実に簡単だ。門番が適当に獲物を見繕ってその情報を奴らに流していたというだけなのだし。


 他にも街の外からやってきた冒険者がいる中であえて俺達に狙いを定めたところから察するにこの考えはまず間違いないだろう。


「イチヤ、どうするの?」

「排除するのなら私達にお任せください」


 適当な出店の商品を見るふりをしながら二人はどうしたらいいのかと尋ねてくる。


 ソラなど完全に戦う気になっているようだし、これでゴーサインを出したら相手をこの場で殲滅しに行きそうな様子だ。まだ後をつけられただけだというのに。


「放っておいていいさ。今のところは」


 そんな血気盛んな様子のソラの口にこの場で買った燻製肉を放り込む。


 その途端に耳がピンと立っているし、今は服の下に隠してある二本の尻尾が揺れていることがその幸せそうに蕩けた顔だけで分かるというものだ。


 この様子だと気に入ったようなので俺はそのモーギュウという牛によく似た魔獣の燻製肉を二塊ほど購入して次の店へと歩き出す。


「本当にいいの?」

「ああ。向こうが何かした訳でもないし、悪事の証拠もなく攻撃したら逆に面倒だからな」


 つけられていてもその証拠を挙げるのは難しいだろう。だから今はこれでいいのだ。気にしなければ特に問題もないのだし。


「もちろん何か仕掛けてきたら容赦しないさ。その時は報復として蓄えている金とかを根こそぎ奪わせてもらう」

「ああ、どっちかって言うとそっちが本命な訳ね」

「はて? 何の事だがさっぱりだな」


 白々しく恍けて見せた俺にロゼは呆れたような視線を送ってくるがそれは気付かない振りをした。


 常習犯ならそれなりの金や貴重な道具などを持っていてもおかしくはない。それを得る為にもここはあえて何もしないのが吉というものだろう。


(果たしてどちらが獲物となるかな)


 そんなことを考えながらも俺達はそこから尾行のことなど気にせずに散策を楽しんでいった。


 そして買った燻製肉の一塊をソラが完食した辺りでようやく向こうにも動きがある。


 それは街の武器屋で武器を見ている時だった。


「やあ、君達もその様子だと冒険者だよね」

「そうだけど、そう言うあんたは誰だ?」


 明るい緑色といういかにもファンタジー的な長髪の青年が話しかけてきた。


 その顔は整っているし清潔感のあるおしゃれな服装も相まって、普通の女性ならばそれだけで好印象を覚えることだろう。


 あるいはそれを狙っているからこそこういう人物に話し掛けさせているのかもしれないが、既にこいつが俺たちの後をしばらくの間つけているのを知っているこちらには通用する訳がないのだった。


 現にソラもロゼも俺の指示に従って平静を装ってはいるが、その瞳の奥には明らかに嫌悪の色が滲んでいるのが分かるし。


「私の名前はモーリス、これでもD-ランクの冒険者さ」


 それに気付かずにそいつはボードを見せてくるが確かにそう書いてあった。少なくともその言葉は嘘ではないようだ。


「君達は見たところこの街にやってきて間もないみたいだし、よければ私がこの街を案内しようかと思って話し掛けさせてもらったんだ」


 要するにオグラーバと同じような事をしているとこいつは言っているのだ。


 確かにそういう金の稼ぎ方もあるだろうが、その為にわざわざ尾行する必要はどこにない。それだけでも明らかに別の目的の為に近づいてきたことが分かるというものだ。


「それは助かるな。それじゃあ折角だし、お願いしようか」


 だけど俺はそんな態度をかけらも表に出さずにニコニコと人のよさそうな笑みを浮かべるように心掛けながらそう言った。


 その笑みの真意に気付かぬモーリスは獲物が掛かったと思ったのか実に嬉しそうにしている。


「それじゃあ早速こんなところは出て穴場の店に案内するよ。そこならここよりもずっと安い金額で質の良い装備を揃えられるからね」

「それは助かるな」


 実に胡散臭い話でも俺は信じ込んでいる振りを続けてそいつの案内されるまま人気のない裏路地の方へと進んでいく。


「本当にこんなところに店があるのか?」

「穴場の店というものはこういう人気のない所にひっそりとあるものなのさ」


 そんな風に適当な言い訳を並べて奴は裏路地の奥に有った小さな店らしき建物の中へと俺達を案内する。そしてそこに入った瞬間、


「さて動かないで貰おうか。おバカさん達」


 その正体を現してきた。


 ギルドで聞いた話では、お上りさんが被害に遭うのは強盗よりは詐欺とかが多いとの事だったのでもう少し演技でこちらを騙すかと思っていたのだが、案外あっさりとしたものである。


 モーリスは後ろ手に扉を閉めて俺達の方に剣を向けていた。


「何のつもりだ?」

「ここまで来てまだ分からないとはバカはこれだから困る」

「いやいや、そういうバカが居てくれるからこそ俺達はこうして稼いでいられるんだろ?」


 そこで別の部屋に隠れていたのか、扉を開けて何人もの男が姿を現す。そいつらの顔は得物を追い詰めたと思っているのか完全に勝ち誇っていた。


「痛い目を見たくなきゃ大人しくするんだな。言っとくが抵抗するのなら容赦しないぜ」


 好きにしろと言っても良かったのだが、ここは情報を引き出す為にももう少しだけ我慢をすることにする。


「金ならやる。だからここは平和的に話し合いで解決する気はないか?」

「バカが。金もそこの女もいただくに決まってるだろうが」

「お前のようなバカにその二人のような見目麗しい女性はもったいない。だからそれに見合う私が貰ってやるという訳だよ。そしてバカなお前はここで死ぬ」


 モーリスが格好つけてそんな事を言っている。どうも金だけではなくロゼやソラも狙いに入っているようだった。


(バカな奴らだな)


 その言葉を口にした時点で女性陣二名は明らかに殺気立っていた。

 俺の指示があるまで動かないように言っていなければこの時点でこの場は血の海と化していたに違いない。


 もっともそれも多少そうなるのを遅らせるだけに過ぎないのだけれど。


 そして残念ながら向こうもこれ以上の無駄な会話をする気はないのか武器を構えて近寄ってきていることもあり、俺はこの茶番を終わりにすることにした。


 今の会話で既にこちらの正当防衛の証拠は揃った事だし。


「さてと……二人共、もういいぞ」


 その瞬間、二つの影が俺の傍から駆けて行った。


 そしてこちらの一番近くに居た男が首から血を吹き出しながら倒れていく。


「え、な、何が?」


 そうやって何が起きたのか理解できずに混乱しているモーリスを置いてきぼりにするかのように二人は次々に敵を仕留めて行った。


 特にソラは二尾になった事で力が増している事も有り、手甲を装着した腕を軽く振るうだけで人間をただの肉塊へと変えていっている。


 勿論ロゼの方も負けてはいない。隠し持っていた短刀を駆使して急所の首や眼などを的確に潰して敵を仕留めているからだ。


 威力では負けているかもしれないが、効率的なのは間違いなくロゼの方だろう。


 そして二人に共通するのは相手にまったく触れさせていないという事だ。そう、武器どころか敵の指先すら触れることを許していないのである。


 中には突進してどうにか動きを封じようとするある意味で勇気ある奴も居たが、


「イチヤ様以外の、それもそんな汚い手で私達に触れないでください。虫唾が走ります」


 ヒラリとジャンプして宙に舞ったソラの足に頭を踏み潰されるようにして事切れる。そのまるで羽虫のようなやられ方は哀れでさえあった。


 そんな戦闘とも呼べない虐殺を背に俺は、今頃になって我に返り逃げようとしたモーリスの襟首辺りを掴んで宙に持ち上げる。


「おいおい、逃げられると思ったのか?」

「ひ、ひい!?」


 他の奴と同じように殺されると思ったのかモーリスはそんな情けない声を上げてどうにか逃げようともがき、しまいにはこちらを未だに持っていた剣や足で攻撃してくる。


 だがそれを軽く捌いてみせるとその程度ではどうにもならないと悟ったのか急に命乞いを始めた。


「た、助けてくれ。何でもする。そうだ、あの女達よりももっといい奴を紹介してもいいぞ。か、金が欲しいのなら幾らだって用意する。だ、だからどうか命だけは……」

「そうか、何でもするか。それなら話は早いな」


 この場に居る奴らの殲滅など簡単なことだ。だけど俺の目的はそれではない。


「お前達はこれで全員ってわけじゃないだろう? それに今までに奪ってきた金品を蓄えているところがきっと別にあるよな?」


 ニッコリと笑いながら尋ねてみたが残念な事に青い顔して答えはなかった。もっともその態度で大体の事は察したけど。


「要するにこれは二択の問題だよ。素直に答えるか、それともここで他の奴らと同じ末路を迎えるかの。お前はどっちがいい?」

「イチヤ様、終わりました」

「それはそうと大分汚れちゃったから替えの服をお願いできる? これじゃあここから外に出れないし」


 そこでタイミングよく殲滅を終えた二人がこちらの傍まで戻って来る。その血塗れの姿を見てまでモーリスは意地を張れるような奴ではなく、


「わ、分かった! 話す、話すよ!」


 そこから先はペラペラとこちらの知りたい事について答えてくれるのだった。

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