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天職に支配されたこの異世界で  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中


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第四十二話 クランへの勧誘

 危うく元ボンボンのように無銭飲食の罪で捕まるところだったが、事情を説明して代金を支払う事でどうにかそうならずに済んだ俺達は宿の部屋に集まっていた。


「それでソラはもう大丈夫なんだな?」

「ええ。今回ので体も成長する事にある程度慣れたでしょうし、次があったとしてもここまでの症状が出ることはないはずよ」


 非の打ちどころが無いくらいの健康体、それが改めてソラを診したシャーラの見解だった。


 ソラもこれまでにないぐらい調子が良いと言っているし、その言葉はきっと当たっているのだろう。


「まあそれは良いんだが、その口ぶりだとまたこういう事があるのか?」


 尻尾が増えるというこのなんとも奇妙な現象の事である。


「彼女の話などを総合した限りではそうみたい」


 ソラが故郷を追い出されたのは七歳の時だという。その原因は当然ながら『殺人鬼(シリアルキラー)』が発現したからだ。それによって両親からも見放されて里の外に捨てられ、そこからは奴隷として過ぎして来たとのこと。


 だから詳しい事は覚えていないが、それでも僅かに故郷の事についての記憶はあるのだとか。


 そしてその故郷に居た狐の獣人達のほとんどが複数の尻尾を持っていたというのだ。


「普通の狐の獣人でそうなることはないはずだし、彼女はその中でも特別な一族なのかもしれないね。確か狐の獣人には妖狐の一族や天狐の一族とかがあるってどこかの文献で読んだことがあるし間違いないと思うよ」

「でも私は追い出されましたし成長しても尻尾が増えることはなかったので、てっきりこのままだと思っていたのですが……」

「話を聞く限りだとこれまでは体が勝手にその成長か進化みたいなものを止めていたんだと思うわ。その為の栄養やらマナが圧倒的に足りて無かったみたいだし、下手にそうすると命に関わっていたはずだもの」


 それが俺のところに来て十分な栄養とマナが揃ったから変化が起こったという事か。そしてそれまで抑えていた反動があの熱などの副作用として出て来たという訳である。


 ちなみに天職の方はレベルが上がるなどの変化は起きていないとのこと。


 つまりこの現象に限って言えば『殺人鬼(シリアルキラー)』は関わっていないと推測できる訳だ。


「それともう大丈夫だとは思うけど、これから長旅をするのなら念の為に二、三日は休んでからにしてみた方が良いと思うわ」

「そうだな、無理は禁物だしそうするよ」


 寝込んでいたのも体力を消耗したのは紛れもない事実な訳で、それを考えれば多少の用心はするに越したことはない。そう判断した俺はシャーラの言う通りにここで少し休息を取ることに決めた。


「さてと、この件も済んだことだし私達はそろそろ行かせて貰うわ」

「随分と急だな。まだ礼もほとんど出来てないんだが」


 一度の食事を御馳走する程度では足りないと思うのだが、向こうはそれで十分と固辞するのでどうやらそれで納得せざるを得ないようだ。


 無理にお礼を押し付けるのも逆に失礼だろうし。


「そもそも私達はヒューリックの天職が発動している時はあんまり一つのところに長居できないの。下手に長居すると水害を引き起こしかねないし、農作物にも影響が出るだろうから」

「あ、あはは、その件に関しては本当に申し訳なとしか言いようがないです」

「そう思うのなら早く天職をコントロールできるようになって欲しいんだけど」

「さ、最善を尽くさせていただきます」


 二人の関係がどういうものかなのかは分からないが、これが所謂尻に敷かれるという奴なのだろうと俺は何となく思うのだった。


「って、そうだ。お前達に良い物をやるよ」


 『雨男』の天職で常に天気の事を気にしなければならない二人にとってこれはかなり役立つ物になるだろう。


 そう思って俺は折り畳み傘を荷物から取り出す振りをして二人に渡す。勿論どちらも贋作ではあるが。


「俺の故郷の品なんだが、こんな風に差して雨に濡れるのを防げるんだ。『雨男』で雨に降られる事が多いだろう二人には便利な品だと思うぞ」


 使わない時は畳んでしまっておけばいいという説明まで終えると二人は興味津々といった様子でそれらを手に取って使い方を確かめ始める。


 そして実際に外に出てその性能を確認すると本当に嬉しそうにしていた。


「こんな良い物を本当に貰ってもいいの?」

「ああ、遠慮なく貰ってくれ。何なら予備にもう何本かやるぞ。腐る程あるし」


 するとまさかの一人が五本ずつも貰うという気に入りようである。


 まあ二人が元々持っていた傘らしき物は何と言うか実に質素というかこれじゃあ隙間から雨水が垂れて来るのではないかという代物だったし、それと比べれば折り畳める機能付きのこちらの方が気に入るのも当然なのだろうが。


「本当はずっと水を弾く魔法が掛かったコートとかが欲しかったんだけど、そういう魔法とかが付加された特殊な道具はどれも高いから手が出なかったのよね。だからこれは本当に助かるわ」


 そこで今更になって贋作とは言え赤の他人に元の世界の品々を与えても良い物かと思ったが、渡してしまった以上は仕方がないだろう。


 ここまで来てやっぱりダメとは言えないし。


(まあ、最悪スカルフェイスの件とかを調べて俺の存在に気付かれても特に問題はないしな)


 デュークには可能な限り異世界人であることは隠すように言われていたが、ここは心を読んだり未来を予知したりする奴らが居る世界だ。


 そういった様々な能力から正体を隠蔽する能力を持っていない俺がこの先ずっと隠し切れるなんてこれっぽっちも思っちゃいない。だからこれでバレるならそれはそれで構わないと俺は考えたのだった。


 もしくは隠し続けるのが若干面倒になったとも言うが、まあそれは言わないでおこう。


「ねえ、これはもし良かったらなんだけど、イチヤも私達のクランに入ってみる気はない? あなたみたいに一風変わった人を家は歓迎してるんだけど、どう? 勿論その時は後ろの二人も一緒にね」


 隣のヒューリックの表情を見ると本当にそんなことを言っていいのかという風に若干キョドっている辺りからしてこれは結構不味い発言なのではないかと思ってしまう。


 もっともその心配は無用な物なのだけれど。


「悪いが今は気楽な冒険者としての旅を楽しむ予定なんだ。だから折角の誘いだけど今回は断らせて貰うよ」

「そっか、残念ね。でも気が変わったらいつでも連絡して。冒険者ならギルドで家のクランに連絡は取れるはずだから」


 しばらくは旅をするつもりだが、それが一段落した時にでも連絡してみるのも有りかも知れない。


 そう思った俺は素直にその言葉に頷いておいた。もっともこの先の事は誰にも分からない以上は確約することはできないのだが。


 こうして俺達はクラン「未知の世界(アンノウン・ワールド)」のメンバーであるシャーラとヒューリックと一先ず別れる事となる。


 もっとも少し先の未来でまたすぐに再会することになるのだが、この時の俺達はそれを知る由もなかったのだった。

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