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第三話 能力

 その後は水の入ったペットボトルを何本か作ってみてそれで血を洗い流す。そしてこれまた贋作の衣服に着替えた。ちなみに足は靴がなかったので靴下を履いた状態である。


 このように生物でなければありとあらゆる贋作を作り出せるこの能力だが、すべてが思い通りになる訳ではない。


 まず能力を発動するにはその対象に掌のどこかが触れている必要がある。そしてそれと同時に自分以外の他者がその対象に触れていない状態でなければならない。


 その条件を満たして初めて『贋作者(フェイカー)』の能力は発動する。


 また贋作の生成速度は重さや大きさ、はたまた価値などに関係されることはなく毎秒ごとに能力が発動して贋作は生み出されることとなる。

 ちなみに両手で別々の物を触れている場合などではそれらの贋作が同時に一つずつ生み出されるようだ。これは三つ以上でも同じである。


 そして作り出した贋作に限ってのみ俺はそれらを異空間に収納しておける。


 言うなれば道具貯蔵庫(アイテムボックス)ならぬ贋作貯蔵庫(フェイクボックス)だろうか。もっともこちらは一度取り出した物は例え一度も使用していなくとも再度しまう事は出来ないという欠陥仕様ではあったが。


 ただその代わりなのか能力で生み出した贋作はどんな物であろうと、そして何処にあろうと俺の意思で消滅させることが出来るらしい。

 試しに使った贋作の水入りペットボトルをリストで選択して消してみたらペットボトルも体に残っていた水滴も綺麗さっぱり消滅したし。


 その他にも俺が能力で作った贋作には『贋作者(フェイカー)』の能力は作用しないという厄介な制限もある。要するに贋作から贋作を生み出すということはできないということだ。


 だから降って来た本物を失えば二度とそれらは作れなくなるということでもある。


(永遠にもつ物でもないし、早い内に大量に贋作を作っておいた方が良いな。それこそ本物がいつ駄目になってもいいように)


 という判断の元に俺はそれらに触れてずっと贋作を作り続けている。だから脳内に表示される贋作のリスト内でそれらが一秒毎に着実に数を増やしていっており、既にその数はかなりの物となっていた。


 そうして順調に贋作品が溜まっている時だった。その音が耳に届いたのは。


(誰か近くに居るのか?)


 コツコツ、と僅かだが扉の外から響いてくるその音は足音に違いなかった。


 問題はそれが本当に人の足音なのかという点だが。壁に耳を当ててみると聴覚も強化されたのかその足音が徐々に大きくなっている。


 つまりはその足音の主がこの部屋に近付いているのが簡単にわかる。このペースだとそう遠くない内にこの部屋に辿り着くことだろう。


 俺は急いでリュックサックに荷物をしまうといつでも動けるようにしておく。仮に足音の主が人間ではなかった場合また戦いになるかもしれないからだ。そう、あの双頭の化物の時のように。


 幸い武器になりそうな包丁がリュックの中には有ったのでその贋作を手に持って待ち構える。


 足音はすぐ傍まで迫り、ゆっくりと扉が音を立てながら開いていく。


 そうして現れたのは、


「……武器を降ろしてくれ。俺は敵じゃない」


 鎧を着こんだ三十代くらいの茶髪で緑色の目をした男だった。


 初めの内は警戒した様子で剣を持っていたが、やがてはそう言いながら剣を腰の鞘にしまう。声も発していないのに警戒を解くところからするに何か俺の外見に安全だと思える要素でもあるのだろうか。


「俺はデューク。この迷宮内にいる冒険者を避難させる為に来たギルド職員だ」


 そう言いながら肩辺りにある何かの模様をこちらに見せてくる。どうやら話の流れから察するにあれがギルドとやらの身分を証明する物のようだ。


「……避難って何があったんだ?」

「正確な事はこちらも掴めていない。ただこの迷宮内に巨大な魔力の反応が現れたらしい。規模や性質から言って何かが送り込まれたのではないかという話だそうだ。だから安全が確認できるまでここは立ち入り禁止になる」


 その話には非常に心当たりが有った。もしかしたらそれは俺がこの世界に送り込まれた事による影響なのではないかと。


 魔力とかさっぱりな単語はあったものの、自分が異世界から召喚されたと考えるとその余波は相当なものになりそうだし。


 この男が嘘を言っていないと判断した俺は構えていた包丁を降ろす。


「わかった。それでどうすればいい?」

「用意した転移陣まで案内するから付いて来てくれ。それで外に脱出する」


 よく分からないが付いて行けばいいのだろう。そう判断した俺はその男の後を追ってこの迷宮とやらを進んで行く。


「それにしても変わった格好をしているな。それにこの辺りで黒髪黒目とは珍しい。異国の出身か?」

「そうだな、確かに生まれた場所はここからずっと離れた場所だよ……って」

(ちょっと待て。何で普通に話しているんだ、俺は?)


 今頃になって自分がどうしてこの男と話せているのかという不自然な点に気が付く。前に会った人物達の言葉は全く分からなかったというのに。


(考えられる変化とすればインストールとやらが完了したことだな)


 全行程が完了した。あれに言語を翻訳する機能も含められていたのだろうか。そうでもないとこの現象には説明が付かない。


「どうかしたか?」

「いや、何でもない」

(言葉が通じてこっちに悪い事はないんだし、まあいいか)


 分からない事は考えても仕方ない。


 そう割り切った俺はデュークの後に付いて行き、途中現れたあの双頭の化物の同種だと思われる奴らの襲撃からデュークに守られ、そしてその転移陣とやらで脱出する事に見事成功するのだった。

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