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天職に支配されたこの異世界で  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中


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外伝 ポロンの苦悩 その1

 天職『福男(ラッキーマン)』。


 幸運を授かるとされているその天職を得たとき俺は喜んだし、親や周囲の人達も祝福してくれた。これから先の人生で運が良くなると保障されたようなものだと。


 だけどそれは同時に俺が何をやっても運が良いからという一言で済まされるようになっていく始まりでもあった。


 そればかりか俺の幸運は他人の不幸の上で成り立つという噂話まで出ることさえあったのだ。


 だけど自分の天職の全てを知っている訳ではない俺はそれらの言葉を全面的に否定することが出来なかった。


 もしかしたら隠された能力としてそういうものがあってもおかしくはない。そう自分でも思ってしまったから。


 だから俺は必死になって努力を重ねた。運が良いだけとは言わせない為にも。

他の『剣使い』や『剣士』の天職を持つ奴が一日で覚えられるような剣の基礎中の基礎を寝る間も惜しんで三日で覚えるといった風に。


 それに基礎体力だって他の戦闘職と違って補正もないから普通にやっては敵わない。だから毎日欠かさず走り込みなどを続けて徐々に持久力をつけていった。


 他の奴らが数日で俺の倍以上の成果を出す姿を見ながら。


 そうして何年もの血の滲むような努力の末に村の中で一番の剣の腕前を持つようになった。


 その時に俺はこれなら皆も自分の実力を認めてくれると思っていたのだが、そんな甘い考えはすぐに打つ砕かれることとなる。


 何故なら誰もが揃って口にするのだ。「ポロンはやっぱり運が良い。天職の補正がなくてもそれだけの剣の腕になれるだけの才能を持っているんだから」と。


 もちろん全ての人がそうだったという訳ではない。


 家の手伝いの合間に鍛錬をしていたことをよく知っていた母や兄弟に剣を教えてくれた師匠でもある父、それと幼い頃からずっと一緒だったメロディアとテリアなどは俺の努力の方を認めてくれた。


 特に父が「お前に剣に対する天賦の才はない」と断言しながらも「だからこそここまで来たのはお前の努力の成果だ」と言ってくれた時には不覚にも泣いてしまったほど嬉しかったものである。


 だけどそれと同時に俺はある事実を悟っていた。即ち村一番の剣士になった程度では認めてくれるのは自分に近しいほんの数名ぐらいだけなのだと。


 そして恐らくはこのまま村で強くなる程度ではそれは変わらないだろうとも。


 そんなこちらの悩みを察していたのか父から話をされたのだ。知り合いに腕のいい冒険者が居るからそいつの元で修業してみる気はあるか、と。


 そして元々修業の為に村を出ようかと悩んでいた俺はそれを即承諾したのは言うまでもないことだろう。


 もっともそれにテリアとメロディアまで付いてきたのは正直予想外だったが。まあ色々な面で嬉しかったので結果的にはそれで良かったのだけれど。


 そうして俺達は一先ず一人前の冒険者になるまでの間という条件付きでオグラーバのもとで鍛錬を積んでいき、冒険者としての活動を始めていった。


 そしてそれは想像していた以上にきつくて辛くて、何度挫折を味わわされたことか。それに加えて村一番など所詮閉じた狭い世界での話だったことも嫌というほど思い知らされたものだ。


 それでも俺はこの生活を止めたいと思ったことは一度もなかった。オグラーバは俺の天職の事など関係なくしごいてくれたし、それによって少しずつ自分が強くなっている実感があったからだ。


 正直に言うとこんな生活がずっと続けばいいのに、とさえ思っていた。そうすれば俺は運の良さだけでここまで来たのではないと皆に思わせること出来るようになると思えたから。


 もっともそんな事を思っていられたのはメロディアが攫われるまでだったが。


「ねえ、あの人達が迷宮に入ってから大分経つけど大丈夫かな? そろそろメロディアを見つけられたかな?」


 そんな事を俺に聞かれたって分からない。

 焦っているせいかそんなような事を口走りそうになった俺だったけど、不安そうな目をしているテリアを見て踏み止まる。


(自分の苛立ちを他人にぶつけそうになるなんて最低だな、俺は)


 村でも齢の近い同性ということもあってメロディアと人一倍仲の良かったのがテリアなのだ。心配な気持ちはきっと自分以上だろうし、不安になるに決まっている。


 特に純潔かどうかという女性ならではの点もあるだろうし。


(それにメロディアは天職的にもそれは重要になってくるし)


 聖職者に類する天職は純潔であるかどうかでその能力に違いが出てくるとされている。だからその点がどうなるかによってメロディアの将来も変化する可能性があると言っても過言ではないのだ。


「オグラーバ達ならきっと大丈夫だって。現にこうして何度も囚われた人達を助け出して送ってきてるし、メロディアを助け出すのもきっと時間の問題さ」


 それにあのオルトロスを倒したと思われるイチヤという名の謎の男も居ることだし。


 もっともその事は気づいていても決して口にするなとオグラーバに厳命されていたので言わないでおいた。テリアもバカではないから気づいているだろうし。


「そ、そうだよね。きっと大丈夫だよね」


 これは根拠のない無責任な励ましだ。これまで大丈夫だったからと言ってこれから先もそうであるとは限らないのだし。


(……惚れてる相手にこの程度の言葉しか掛けられないのも情けないな)


 男なら惚れてる女を守ってみせろ。そんなオグラーバに何度となく言われたことを全く実践できていない。


 というかこちらの長年の思いさえ伝えられていないのが現状だし。


(そう言えばメロディアも俺の恋が上手くいくように応援してくれていたっけ……)


 自分は天職的に難しいかもしれないからと言って。


 それ以外にもテリアの誕生日に何を買ったらいいのかとか色々と相談に乗ってもらってアドバイスして貰ったこともたくさんあった。


(そうだ、きっとメロディアは無事に帰ってきてそういう日々がまた続いていく。それを信じるんだ)


 不吉なことは頭の中から追い出して俺はただそう願う。


 今回ばかりは嫌いな自分の天職や、それによって齎される幸運とやらが彼女を助けてくれることを切に願いながら。


 そんな時だった。急に地面が揺れ始めたのは。


「な、何?」

「地震、なのか?」


 その発言が間違っていたことはすぐに判明する。何故なら揺れの中心に有ったのは迷宮でそこから不気味な魔力らしきものが溢れ出しはじめたからだ。


(この感じ、オルトロスが現れた時に似てる)


 まさかまた魔物が現れたのか。あり得ない。でも目の前の状況を見る限りそうとしか思えない。


「ま、待って! どこに行くの!?」


 そんな思考を中断させたのはテリアのそんな発言だ。振り返ればテリアが逃げてきた人質の人達を声で制止しながら必死の様子で抑えている。


 だが人数が多すぎるせいか何人かが迷宮の入口の方へと走って行ってしまっていた。


「何やってるんだよ! 止まれ! 死ぬ気か!」


 俺もテリアに協力して押し留めようとするが、やはり人数差が有り過ぎる。完全に食い止めるのはどう考えても不可能だった。


「あの子の声が聞こえるの。きっとまだ生きているんだわ……」

「だからって迷宮に入ればどうなるか分からないのかよ!」


 説得しても聞く様子がない。と言うかどこか呆然とした様子でこちらの言葉が耳に届いてないようだった。


 仕方がない、そう判断した俺はその妙な状態になっている人達に一撃を加えてその意識を刈り取っていく。


 手荒な方法で申し訳ないがこうする以外に方法はない。テリアにもそうするように指示して、他のまともな人質だった人達の協力もあり、少ししたらその混乱をどうにか抑えることが出来た。


 だがそれでも十名近くが迷宮に潜って行ってしまった。それをこのまま放置など俺にはできない。


「テリアはここに残ってこれ以上迷宮にこの人達が入らないようにしてくれ!」

「入らないようにするって、ポロンはどうするつもりなの!?」

「俺はあの人達を追って連れ出してくる!」


 それだけ言うと俺は急いでその人たちの後を追って迷宮の中へと走っていく。背後でテリアが何か「行かないで!」と叫んでいる声が聞こえるが、それでも俺はその足を止めない。


(今ならまだ浅い階層で追いつけるはず。それなら俺一人でも問題ない!)


 迷宮内の魔獣はそのほとんどが掃討されているはずという計算の元、俺は迷宮の中へと飛び込んだ。


 後で鬼のような形相をしたオグラーバに叱られる覚悟をしながら。


 そして必ず生きて帰るとテリアに心の中で誓いながら。

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