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第三十一話 不滅なる者

 スカルフェイスは泣き叫ぶような雄叫びを上げるとこちらに向かって突っ込んでくる。


 そしてその圧迫感もさることながらその速さもかなりものだった。


「ちっ!」


 かなり手荒になるが、俺は羽交い絞めにしていた女性を振り返ることなく背後のロゼ達のほうに向かって放り投げた。


「頼んだ!」


 という完全に他人任せのセリフと共に。


 とは言え俺だって別にサボっているわけではない。すぐさまその場で武器を展開すると突っ込んでくるスカルフェイスに向かって一斉掃射したのだから。


 だがスカルフェイスはその武器の散弾などものともせずに直進し続ける。その体には傷一つない。


(射出での攻撃程度じゃダメージは皆無か)


 ならば直接攻撃するしかない。


 俺は手に剣を出現させると自ら前に出る。


「ガアアア!」


 もはやまともな言葉を発せなくなったのか叫びながら突き出された拳を首の動きだけで避けて、そのまま擦れ違いざまに全力で斬る。


「くそ、なんて硬さだ」


 だがそれでも奴の装甲を切り裂くには至らなかったが、手応えや苦しそうな唸り声を上げた辺りから言って、ある程度のダメージは通っているみたいだ。


 それにこちらの攻撃の威力とその装甲の強度を考えると、本来ならそのまま一刀両断できていたことだろう。


 だがそうなる前に武器の方が耐え切れなかった。その結果、俺の剣はボロボロになった状態で折れているという訳である。


(これなら素手の方がいいか)


 『剣士』であるデュークに師事していたこともあって技術的な面では今のところ剣が俺の最も得意とする分野である。だがこの場合に必要なのは技術よりも威力だ。


 そして今のところ俺の全力に耐え得る武器がないことから素手が最も力を発揮できると言っていいだろう。


 そういう判断の元に折れた剣を捨てて振り返ったのだが、スカルフェイスはダメージを受けたことによる僅かな間の硬直から復活するとそのままこちらに目もくれずに走り出す。


「ちょっ、ふざけんな!」


 まさか敵を前にして逃げるとは思っていなかったので俺は慌ててその後を追う。暴走していたように見えたし、てっきり目の前の獲物を狙うだけかと思ったのだがそういうわけではなさそうだ。


(だとしたら何が狙いなんだ?)


 可能ならそれを知っておきたいところではあったが、かと言ってこのまま進ませるわけにはいかない。

 なので俺は奴に追いつくと、まずはその足を払って転ばしに掛かる。


 一応は人間の形をしていたので片足を払われては走ることはできない。従ってスカルフェイスはバランスを保つためにも速度を落とす羽目になり、


「これでどうだ!」


 その隙を逃さずに叩き込んだ俺の拳がスカルフェイスの顔面に突き刺さった。


 そしてそのまま顔を貫いて破壊する。どうやらこのクラスの魔物でもまだ俺の方が単純な腕力では勝っているようだった。


 とは言え実体が有って無いような魔物だ。これで死ぬとは限らないので俺は一切の遅滞なく追撃に移る。顔の辺りに突き刺さった腕をそのまま一気に下に振り降ろしたのだ。


 そして抵抗を強引に力で押し切ってそのまま腕を振り切ることで奴の体は半ばまで真っ二つになった。更にそこでソラとの魔法鍛錬で得たフレアバーストという火の魔法でその二つに引き裂かれた体の内外から焼き払いに掛かる。


 だがそれでもスカルフェイスは動き続けた。全身火だるまになりながらもまだ諦めないというようにボロボロになった体で這って進もうとする。


「イタ、イ。ヤメテ」

「まだ言葉を話せたのか」


 もっともだからと言って何かが変わる訳ではないが。


「タス……ケ……」

「悪いが俺にはお前を助ける事は出来ない」


 仮にこいつが悪霊の類だとしても除霊のやり方なんて俺は知らない。そしてこいつが暴れるのならその体を破壊してでも止める。人質やロゼ達に危害を加えさせない為にも。


「せめて安らかに眠ってくれ」


 俺はそうなることを願いながら巨人族が使う斧を担ぎ上げると全力でそいつ目掛けて振り降ろす。そしてスカルフェイスの体どころか、その下の床までぶち抜き破壊した。


 そうしてスカルフェイスは体が粉々になった状態で床に開いた穴にそのまま落ちていく。あの状態から回復できるのかどうかは分からないが、これで俺達が脱出するまで追い付かれる事はないだろう。


 今回の俺の目的はスカルフェイスの討伐ではなくメロディアの救出だ。だから必ずしもスカルフェイスを倒す必要はない。


「ふう、これで一段落か」


 後はこの穴が塞がれば終わりだ。そう思いながらも俺はまだ警戒を解かずにその穴を覗き込む。

 まず有り得ないとは思うが、ここから這い出てくるなんてことも考えられなくはないからだ。


 でも結局そういう事は起こらずに穴はある程度の時間を掛けて完全に塞がっていった。


「終わったのか?」


 そこで背後を振り返るとオグラーバが警戒した様子で話しかけてくる。


「多分な。ところで他の皆は何処に行ったんだ?」

「ロゼとソラの二人は、錯乱したのかこの部屋に戻ろうとしている人質達を扉の外でどうにか食い止めて脱出を試みている。それで俺はスカルフェイスって魔物について少しなら知識はあるからこっちの応援に来たんだが、どうやらその必要はなかったようだな」

「完全に倒し切れたのかは分からないが、一先ず穴の下に落としたからな。その穴もこの通り完全に塞がったし、最低でも時間は稼げるはずだ」


 だから無いとは思うがあいつが迷宮を上って来る前に早く脱出しよう。そう言おうとした時だったが。


 ズン! という音と共に地面が揺れたのは。


 それに対してまさかという思いと非常に嫌な予感を覚えて背後の穴が有った場所を振り返ろうとして、同じような行動に移ろうとしたオグラーバと目が合う。そしてアイコンタクトでタイミングを取って同時に振り返ると、


「……何もないな」

「……ああ、何もないな」


 特に変化はない。だがやはり嫌な予感が脳裏から消えてくれない。


「……気のせいだったのか?」


 それでも何も変化がないことで俺達が僅かに警戒を緩め掛けたその時を狙ったかのようにそいつは現れた。


 しかも俺達の真後ろの床から奇襲を仕掛けるかのように。


「オグラーバ!」


 完全に不意を突かれた俺はどうにかしてオグラーバを突き飛ばして逃がす。


 だがそれが限界だった。

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