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天職に支配されたこの異世界で  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中


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第二十五話 再びの迷宮

 あの後にデュークが用意してくれた迷宮探索に必要となる品々を預かった俺達は迷宮の前に辿り着いていた。


「それにしても今更かもしれないが、こんなところに本当に誘拐犯がいるのか? 迷宮って外よりも強い魔獣や場合によっては魔物がいるんだろ?」


 そんな危険な所に隠れる奴らはあまり居ないと思うのだが。それこそ余程腕に自信がない限り。


「本来ならそうなんだが、今は条件が揃っているから十分にあり得るさ」

「条件?」

「オルトロスの件だよ。あれでギルドはこの迷宮にデュークのような腕に覚えのあるギルドお抱えの奴らを投入した。それは中に居る冒険者の救出の他に危険と思われる魔物や魔獣を掃討する為でもあるんだ」


 それ以外にも迷宮内の魔獣や魔物の数が増え過ぎた時などにはデュークのような奴らが掃討に向かうのだとか。


 何故なら迷宮内で魔獣などが溢れ返ると最終的にはそいつらが迷宮の外まで出てきてしまうからと言う。


 そうならない為にもギルドは冒険者に対して迷宮内の魔獣や魔物の討伐を依頼などで出すことで推奨している。と言うか冒険者の本来の仕事はそれなのだとか。


 低ランクの今の俺達がやっている依頼はあくまでそのおまけのようなものなのである。もっともおまけだとしても欠かせないというのもまた事実なのだが。外にだって魔獣は数多くいる訳だし。


「そしてそういう掃討が終わった後は迷宮の危険度は下がる。強い敵は居なくなるだけでなくその数まで減るんだから当たり前だわな。ただそれによってならず者やお尋ね者のようなまともに表を歩けないような奴らが一時的に身を隠す事なんかに使われることがあるのさ」


 その為、折角魔獣などの脅威がなくなっても盗賊などが迷宮内で待ち構えていたりして別の意味で危険になってしまうのだとか。何と言うべきか実に虚しい話である。


 折角デュークのような奴らが頑張って魔獣たちを退治しても普通の冒険者にとっては迷宮内が危険だということに変わりはないのだから。


 もっとも迷宮に挑むのならその程度の事は覚悟しなければならないのだろう。そうでなくては危険な冒険者なんて職業を続けるべきではないのだ。


「まさに弱肉強食の世界だな」

「それでもここは他と比べれば簡単な方さ。魔獣の数も他の迷宮と比べればそれほどではないし、オルトロスのような危険な魔物が現れる事も稀だしな。言うなればここは迷宮探索の入門編ってところか」


 ちなみにオグラーバがこの街に居るのもそういう初心者が集まりやすいからなのだとか。


 そこでお守りと指導をしてやることで依頼の報酬以外でも結構な収入を得ているらしい。賢いやり方である。オグラーバの天職であれば騙される事も滅多にないだろうし。


「っと、話が逸れたな。とりあえず今回の俺達は魔獣とかは勿論の事、そういった盗賊達にも注意して進まなきゃいけないって事だ。ここにフィリップとかいう奴が雇った以外の奴らが居ないとも限らない訳だし」

「イチヤ様。念の為に確認しておきたいのですが他の盗賊などにもし遭遇したらどうすればいいでしょうか?」


 ソラのこの発言は戦いを躊躇しての事ではない。盗賊などを生け捕りにして役所に突き出すと幾らかの報酬が貰えるからだ。


 ちなみに死体の場合でも報酬は貰えるが、その場合は盗賊である証拠がないと逆に罰せられかねないので、だからこそソラはどうするか聞いてきたのだろう。


「生け捕りにする気も役所に突き出す気もないから容赦しなくていい。ロゼも来ると決めた以上は半端に情けを掛けるんじゃないぞ。余計な甘さは命取りになる」

「ええ、分かってるわ」


 迷いなく答えることが出来ている辺りこの二週間で鍛錬を積んできた甲斐があったというものだろう。これなら心配は要らなそうだ。


 そこで俺は本来ならここに居るはずではなかった人物にも目を向けた。


「そっちの二人も分かっているだろうな。言われた事を必ず守り、そして決して無茶はしないって約束を。それと何があろうと絶対に迷宮の中には入らないってこともだ」


 その二人は俺の言葉よりもオグラーバの睨み付けるような視線の方を気にしていた。現に頷いている相手が話しかけた俺ではなくオグラーバの方だし。


「分かってるよ。それに与えられた以上は自分の役目を果たすさ」

「わ、私も頑張ります」


 その二人とは本来の予定では街で帰りを待っているはずだったポロンとテリアだ。


 俺がロゼとソラの二人を連れて行くと決めた事が良くなかったのか、先程オグラーバに論破されたことなど忘れてしまったかのようにポロンは断固として自分も行くと主張し始めたのである。


 そして今度は辛辣な言葉を受けても中々折れようとしなかったポロンにデュークがある提案を出したのだ。即ち、このままでは埒が明かないから足を引っ張らない程度に手伝ってもらってはどうか、と。


 その内容を聞いた俺達は確かに必要かもしれないと納得し、ポロンも渋々ではあったが受け入れた事でようやく話は終わったというわけである。


「さてと、それじゃあ行こうか」


 幸いな事にデュークからこの迷宮の見取り図は受け取ってある。

 そしてそれには潜伏できそうな地点に印が付けられていたし、まずはこれらを当たってみるとしよう。


 そうして迷宮の中に足を踏み入れたポロンとテリアを除く俺達だったが、結論から言うとその印は非常に役に立った。


 何故なら一つ目の印がある場所からそういった奴らが潜伏している地点だったからだ。

 だが俺はその事を素直に喜ぶ事など出来なかった。その現場を見たロゼもソラもオグラーバも同じである。


 恐らくその光景を見て喜ぶ奴がいたとしたのなら、それは頭いかれた野郎だけなのだから。

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