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天職に支配されたこの異世界で  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中


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第十九話 彼らの事情

 その夜、宿屋に一人の客が訪れた。


 そしてその客に誘われるがまま俺はある酒場に行くことになる。宿に二人を残してだ。


「それでこんなところに呼び出して何の用なんだ?」

「さっきも言っただろう。酒を呑みがてら話でもしないか、とな」

「その話とやらが何か聞いてるんだよ。まあ、他の三人が居ないところからして秘密の話なのは分かるがな」


 テーブルを挟んでの向かい側に座って酒を飲んでいるのは中年の男、オグラーバだ。頼んだエールを豪快に飲んでいる姿は実に様になっていた。


 俺の方も奢りと同じ物を出されているが、まあ味については何も言うまい。不味いとまでは言わないが、決して上手いとも言えないと言ったところが俺の正直な評価とだけ言っておこう。


「そうだな、勿体ぶったところでしょうがないし話すとするか」


 早くも一杯目を空にしたオグラーバはマスターにもう一杯を頼んでからそれを口にする。


「俺はお前があの時の奴だってことが分かっている。思っている、ではなく分かっている、だ。この言葉の意味が分かるな?」

「つまり確証があると?」

「その通り。その確証は俺の天職である『審議官』によるものだ。大まかに言えば俺は相手の嘘が分かるのさ」


 だからお前があの場で嘘を言ったのは分かっている。そうオグラーバは続けた。


「なるほど、そんな天職があるのなら嘘を吐いても仕方がないか。で、わざわざそれを俺に言いに来たって事はそれだけじゃないんだろ?」

「話が早くて助かるな。俺はこの事を誰にも言ってはいないし、これからもそのつもりはない。まずはその事を伝えたくてな」


 そこでやってきたエールにまた口を付けるオグラーバ。こいつは間違いなく大酒飲みだ。


「その上で幾つか詫びと頼みごと。それと忠告があって俺は今回の席を設けたんだ。で、まずはその詫びについてなんだが」

「オルトロスの件なら別にいいぞ。俺も都合があって今の状況の方が助かるしな」

「そう言って貰えると助かる。ただ一つだけ言っておきたいんだが、今回の件はポロン達が嘘を言い出した事だけが原因ではないんだ」

「と言うと?」


 俺も口を潤す為にエールに口を付けるがやはり合わない。その所為か既に二杯目を空にしそうなあっちとは大違いのペースである。


「あの後、緊急事態だってことで迷宮内に救援隊が派遣され俺達を含めた生存者は全て救出された。そこではポロン達もお前の事をギルド職員に話していたんだよ。だがお前が生存者の中に居ないと分かった時点でギルド側がある提案をして来たんだ」


 そしてその内容こそがポロン達がオルトロスを倒したことにするというものだったらしい。そしてギルド側からの提案ということもあってメロディア以外はその誘いに乗ってしまったとのこと。


「仮に死んだと思われる謎の人物がオルトロスを倒したとなった場合、その死体をどうするのかが微妙なことになる。場合によっては国が調査の為とか言って持っていく事も有り得ただろう。だけど冒険者であるポロン達が倒したとなれば話は別だ。冒険者の管理を請け負っているのはギルドであり、滅多な事では国もその関係に口を挟めない」

「つまりオルトロスの死体が貴重でそれを手に入れる為にギルドが画策したと? それにお前達は乗っただけと言いたいのか? 正直どうでもいい話だな」


 俺からしたら興味ない事だ。こちらに迷惑を掛けないのなら勝手にすればいいとさえ思う。


「C-ランク相当の魔物の死体をどうでもいいと言い切るとはな」

「とにかく今回については気にしないからその話はいいよ。それで他は?」

「そうだな……少しそれに関わるんだが、実はメロディがまだ諦めていない事も伝えに来た。そして恐らくは秘密裏に調べて回るつもりだと思う。これも詫びの一つになるかな」


 別れ際にも納得がいかないと顔にありありと浮かんでいたが、まさかそこまで執着するとは思わなかったのでこれは意外だった。


 それにしても迷惑極まりない情報である。


「それで俺にどうしろと?」

「しばらくお前さんの周りを付いて回るかもしれんが、まあそのなんだ。頼むから穏便にしてやってくれ。この通りだ」

「……その度合いにもよるが基本的には好きにさせるさ。一応は俺が助けた命だしな」


 それに邪魔だからと言って始末すると寝覚めが悪くなりそうだし。


「恩に着る。それと忠告の件だが、俺の天職のように人の内面を見抜くタイプの効果は目を合わせなければ効果が出ない物が多い。だからこれからそれを気にしておくと色々と便利だぞ」


 この分だと俺が嘘を吐いているのを分かったというのはハッタリだったようだ。

 だってあの時、俺とオグラーバはほとんど目を合わせていなかったのだから。


 もっとも今回はそれでも良いと思ってばらしたので問題などない。


「判ってると思うが一応言っておく。ここでの会話の内容は他言無用だぞ。もしそれを破ったら俺も動かざるを得ないからな?」

「分かってるよ。それに俺も絶対に敵わない相手を敵に回すつもりはないさ」


 気付けばオグラーバは七杯も飲み終わっていたのに対して俺は一杯だけである。


 元々酒は強い方だし、その上こっちに来てから更に強くなった面もあるので酔いについては心配なのだが、如何せん味が受け入れられないのだった。


「さてと、話も済んだことだし行くとするか」

「ん? どこに?」


 口直しの意味も込めて煙草に火を点けようとしたところでオグラーバは席を立つ。そして付いて来いと言うので一服は諦めてその後を追った。


 そうして酒場から歩くこと数分、辿り着いたその場所とは、


「詫びってのは言葉だけじゃ意味がないからな。ここは詫びと礼の意味を込めて俺が出すから好きに頼んでくれ」


 明らかにそれ系のお店の前だった。現に露出の激しいお姉さん方がこちらに寄って来て腕を絡めてくるし。


(けしからん。実にけしからんな)


 デュークもそうだがこちらの世界の男はこういうのに手馴れ過ぎてはいないだろうか。そして礼がこれとは色々と問題があると俺は思う。


「オグラーバ」

「何だ?」

「これからも仲良くして行こうな」


 と言っても俺も健全な男なのでこのプレゼントを拒否する気は更々ないのだけれど。


 宿で待つ二人には遅くなるから先に寝ていいと言ってあるし、何も問題はない。そう言う訳で俺はオグラーバと共にその娼館に入って行くのだった。


 その感想はとても楽しかったとだけ言っておこうと思う。

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