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天職に支配されたこの異世界で  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中


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第十七話 次の依頼

 ボディソープや洗顔フォームの使い方を教えて体や顔などを洗って来させた後に改めて話を聞くとロゼが改めて先程の話をしてきた。


 ちなみにその内容を端的に要約すると「迷惑を掛けて申し訳ない。これからはこんな事はないようにするので見捨てないで欲しい」だったので俺は何も言わずに即了承。


 その後のそれだけでいいのかという二人の視線には、


「ロゼも言ってたじゃないか。俺は変なんだって」


 という答えで終わらせた。克服する為に努力するのだったら応援するし、そのやる気を削ぐようなことをするつもりもない。


その上で戦うのがトラウマとなってしまったと判明しても、それ以外のところで役に立ってくれればいいだけの話なのだ。


「二人の境遇を考えれば卑屈な考え方になるのは理解できる。だけどこれからは、少なくとも俺の傍にいる間はそういうのは捨てていい。というか邪魔なだけだ」


 努力が実って強い力がこの先で身についてもそれを扱う本人がそれを卑下していては意味がない。俺はこの二人にそういった理不尽な物の数々を打ち破って貰いたいのだから。


勿論これは俺の実に個人的で勝手な押し付けがましい願望でしかないが。


(まあなんにせよ、今は強くならない事には始まらないんだが)


 弱いままでは、力がないままでは奪われる側から逃れる事は出来ない。自分の周りを取り巻く状況を変える為には力は重要だ。


それは単なる腕力だけではなく権力や財力などのありとあらゆるものさえも含めて。


「さてと、とりあえず飯にしよう。それと今回はそのついでに俺の天職とその能力について二人にも大まかに説明しておこうか」


 そう言いながら俺はテーブルの上に次々と料理を並べていく。皿や料理などに一切触れることなく、それこそ魔法のように突如としてそれらが現れるといったその光景を見た二人の顔はまさに鳩が豆鉄砲食ったような顔だった。


「ああ、ソラが食いたそうにしていたピッタンもステーキ風にした奴があるから遠慮せずに食っていいぞ。午後からもまた活動するつもりだし栄養を補給しておいてもらわないとこっちとしても困るからな」


 ピッタンの肉を見つめながら涎を垂らしそうになっていたソラはその言葉で我に返るとワタワタと焦る。それを見てロゼもようやく笑った。


 何だかこれが有る種のパターン化してきた気もするが、役に立つからよしとしよう。


 そして食後にこれら全てが俺の天職の能力で作った贋作だと能力の説明とともに告げた時の反応も驚愕の色に包まれていたという事は言うまでもないことだろう。





食後、俺達はまたしても依頼の為に出かけていた。実は最初の依頼達成の報告がてら次の依頼も受けて来ておいたのだ。


「ロゼ、無理はしなくていいんだぞ?」

「大丈夫。それに先延ばしていても仕方がないもの」


 昨日の今日どころか同じ日で討伐の依頼は辛いだろうから宿で休んでいていいと言ったのだが、このようにロゼは頑として自分も付いて行くと主張してきた。


やはりまだまだ役に立たなければ捨てられるという根底にあるその思いは消えることはないらしい。


 とは言えやる気があるのは良い事でもある。なので今回は多少無理をしていても本人がそう強く望む以上はその気持ちを尊重してあげることにしよう。


 そうして歩くこと暫く、今回の目的地である街の外に流れる河の辺に辿り着いた。そしてまずはそこに生えているツキナ草という毒消しに使う薬草を採取する。勿論この時に贋作を作っておくのも忘れずに。


 残る二つの依頼は討伐系のものだ。そしてその相手はどちらもこの河に生息している魔獣のことだった。


「これから戦う予定の相手はギョギョって名前の魚の魔獣とパッタンていうヤドカリみたいな魔獣だそうだ。俺達が受けられる依頼という時点で判る通りどっちも雑魚だ。ちなみにパッタンは煮ても焼いても食えたもんじゃないがギョギョの方は焼くと旨いらしいぞ」

「ど、どうしてイチヤ様は私の方を見て言うのですか?」

「いや別に」


 抗議の声を上げるソラだが、今までの事を考えるとその資格があるようには思えないのが正直な所である。まあ女心としては食いしん坊と思われるのは嫌なのも察せられるので何も言わないで置いた。


 それにしても魔獣の名前がふざけているような気がするのは俺だけだろうか。何と言うか、どこのゆるキャラだよって感じがしなくもないし。


まあどうでもいいことなんだけど。


「えーとそうだな、今回は折角の機会だから二人だけでそいつらを倒してもらおうか。敵は雑魚だし二人の力量があれば楽勝だからな。勿論何かあれば俺も助けに入るしさ」

「分かりました」

「ええ、私も覚悟を決めるわ」


 少し意外なことにソラはともかくロゼも俺の提案に迷いなく頷いていた。やはりこちらの世界の住人だけあって向こうの世界の女子よりもこういう荒事に慣れるのは速いのだろうか。


「張り切るのは良いけど、危ないらしいからあまり深い所まで足を踏み入れるなよ。それと浅い所に誘き寄せる時も撒き餌の量に気を付けること。あんまり多いと対処しきれない数が一気に来るらしいからな」


 その注意事項にしっかりと耳を傾けた二人に俺は依頼を受ける時に貰った撒き餌を二人に手渡す。既に十分な数の贋作はリストに蓄えてあるし、そもそもそこまで価値のある物じゃないので本物の方を。


 そうしてロゼが剣と楯、ソラは素手で魔獣討伐に挑戦を始めるのを見ながら俺は煙草に火を点ける。そして改めて周囲を警戒して見回してみた。


(考えてみたらあの屑共が現れたのも変なんだよな)


 何が可笑しかったのかと聞かれれば時間だ。


 あんな早朝にわざわざあんな屑共が真面目に依頼をこなすかと思ったのだ。そしてその可能性は低いと俺もデュークも答えを出している。


(となると尾行されていたと見るべきだろうな。詳しい理由までは分からないけど)


 だから俺はここまでの道中でも、そして今でも誰か尾行している奴はいないか周囲に気を配っていた。無論の事、絶賛戦闘中の二人からも注意を逸らすことはない。


 そんな時だった。二人とはかなり距離のある上流の方に黒い影のような物がちらついたように見えたのは。よく目を凝らしてみろとゆっくりと巨大な魚らしき影がロゼ達の方に近付いて来ているのが分かる。


 この河にはそれなりに強い魔獣も生息しているって話だったし、そいつが珍しくこんな所まで下りてきているのだろうか。


 ギルドの話ではそういった奴はここからもっと上流に居てその自らのテリトリー付近からあまり出て来ないという話のはずだが。


(尾行者やそれ以外の敵影はなしと。となればあれを始末するだけで今回の俺の役目は終わりか)


 そしてそれには動く必要もない。俺は武器屋で作らせて貰った贋作の槍を一本だけリストの中から選択すると、それをある指向性を持たせて実体化させることにする。


 リストの中から贋作を出現させる時にも条件があり、それは簡単に言えば自分から半径約五メートルの範囲に贋作の一部でもいいから存在させなければならないというものだった。


 それ以上離れたところには贋作を出現させられないのである。もちろん一度出現させたものはその限りではなく、あくまで出現させる時だけの話だが。


 もっとも一部だからこそ色々と応用が効く面もあるのだが。だが今回の場合それは関係ないので省略するとしよう。


「とりあえず一発だけにするか。あんまりやり過ぎると河が大変な事になりかねないし」


 狙いは自分で付けなければいけないので慎重にターゲットを見定めてタイミングを計る。そしてその地点に奴が来たところで、


(発射っと)


 贋作の槍を出現させた。と同時に推進力という前に進む指向性を与えられていた槍はその狙った地点へと一直線に飛んでいく。


 そして見事に水面に映るその大きな影に着弾してみせた。どストライク。確実に命中したと言える。


「さてと、これで仕留められたか?」


 煙を吐き出しながら俺はそうである事を願った。これでまだ二人を狙おうとするのならば狙撃ではなく俺自身が出向く必要性が出て来るかもしれないからだ。


 今は折角の一服中なのでそれは出来れば勘弁して貰いたい。


 と、その願いが通じたのか影の主は死んではいなかったものの、向きを反転して上流へと逃げて行った。どうやらこちらをヤバい敵だと理解したらしい。


 その背中に向けて槍の雨を降らせてやるのも面白いかもしれないが、今回は止めておいた。それよりもその光景に目を見開いて動きを止めてしまっている二人を注意する方が先だし。


「おーい、そんなところでボーとするなよ。ソラは後であの代わりになる食べ物を買ってやるからさ」

「い、今のは食べ物につられたのではありません!」


 ということは前にそういう事があったと認めるということだろうか。


 そんな些細なアクシデントが有りながらも俺達は特に誰も負傷することなく依頼を終えて街へと戻る。そして俺に関しては本日二度目の依頼達成の報告にギルドへ向かった時だった。


 そこで思わぬ奴らに遭遇したのは。

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