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天職に支配されたこの異世界で  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中


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第十三話 初めての依頼

 朝食も済んだし折角全員が早起きをしたので俺達は軽い水浴びだけして依頼をする為に出発することにした。


 俺個人の意見としては汚れを残したまま寝てしまった二人には念入りに体を洗ってからにして貰いたかったのだが、どうせ依頼をこなす時に汚れるから帰ってきてからにするというロゼの主張によって一蹴されてしまう。


 この異世界で各家庭に風呂などあるわけがなく、大抵の住人が街の中にある井戸の水を使って体を流すのが普通なこの世界では何日か体を洗わないことは特段変わったことではない。


 むしろ元の世界の習慣を引き摺って毎日体をしっかりと洗う俺のような人の方が珍しいと言えるだろう。


 その上、冒険者なんて荒っぽい職業になればその割合はもっと少なくなる。ギルド内は酒臭過ぎて他の臭いがよく判らなかったのが幸いしていたようだ。


(それでも帰ってきたら徹底的に洗わせてやる。それでも洗わないなら俺が洗ってやる)


 幸いこちらにはシャンプーやコンディショナーに加えて洗顔フォームという入浴セットが揃っている。


 二人が感激したインスタントラーメンのようにそれらの素晴らしさをしかと思い知らせてやることにしよう。


 なにより毎日自由に体を洗えるということは実は何気に幸せなことなのだから。


 そんなこんなで準備を終えた俺達は街を出て、まずミズリーに教えてもらったモグリ草が生えている場所に向かってみた。そこは街を出てすぐのところで魔獣なども居ないとのことだし。


 ちなみにこの世界では魔獣と魔物は別物として扱われており、魔物の方が危険度は高いとされている。


 と言うか魔獣の方は元の世界でいう動物と同じようなものなのだ。トラやライオンのような危険な奴もいれば牛や鶏のように飼ったり協力出来たりする奴もいる。中にはそれこそペットとして人気があるような奴までいるのだ。


 だが魔物の方はそうはいかない。奴らは魔物以外に心を許すことは決してなく、人だろうが魔獣だろうが容赦なく襲い掛かってくる。そして大抵の魔獣や人よりも強いから討伐するのはかなり難しいのだとか。


 もっとも魔物が現れるのは迷宮内のような特殊な空間や瘴気と呼ばれる腐敗した空気とも言うべき物が異常なほど濃くなってしまった場所などに限定される。


 その為、一般人が出会うことはまずないこともあって子供にはお伽噺の悪魔のような感じで教えられているらしい。


 この採集の後に挑む予定の討伐の依頼で戦うのは当然のことながら魔獣であり、その中でもかなり弱い。と言うか最弱に近いとのこと。


 それはそうだろう。なにせF-ランクの依頼なのだ。そんな冒険者になり立ての奴が相手に出来る奴が強いわけがないのである。


「あ! イチヤ、あれじゃない?」

「んあ?」


 煙草を咥えていた所為で変な返答となるが、それを気にせずにロゼはある方向を指差している。


「だからあれよ、あれ」


 その指が示す方角を見ると、そこには俺達の目的であるモグリ草らしきものが大量に生えていた。


 流石は最も簡単な依頼と言うべきか、捜索を開始してまだ数分しか経っていないのに発見である。もっともその分報酬も銅貨十枚とかなり安いのだが。


 早速そのモグリ草を採集する為に触れるが、その時点では俺の『贋作者(フェイカー)』の能力は発動しない。根ごと草を引っこ抜いてもそれは同じだ。


 だが葉っぱだけを千切ったり採集した後に根を処理したりすると能力が発動する。この事から分かる通り植物でも生きていると判断されれば能力は発動しないのだ。


(でもそれだと理屈的には目に見えない小さな虫とか微生物も駄目だよな。でも現実にはそんな事はない)


 目に見える程度の大きさを持つ虫なら駄目なのはデュークの家をリストに加える際に確認済みだ。虫除けの香というものを焚いてようやく贋作を作れたのだし。


(まあそう言うもんなんだと思うしかないんだろうな)


 決して賢いとは言えない俺の頭で考えても分からないのなら放置するしかない。そういうものだと思って納得しよう。その方が気持ち的にも楽だし。


 そんなこんなで十分な量のモグリ草を採集し終えてもまだまだ時間的にも体力的にも余裕がある。となれば、


「予定通りこのまま魔獣が出る領域に出てピッタンとかいう魔獣を討伐しに行こうと思うけど、二人とも大丈夫か?」

「え、ええ、問題ないわ」

「私も大丈夫です」


 戦闘経験がないロゼが若干言葉に詰まっていたがこればかりはどうしようもない。


 敵は魔獣の中でも最低クラスの相手だし、戦闘に慣れる相手としてこれ以上の相手はいないのだから頑張って貰うしかないのだ。


「そう緊張しなくても大丈夫だって。何かあっても余程の事じゃない限りは俺がどうにかするしな」


 余談だが、その何気ない軽い気持ちで言葉がまさかフラグにとなろうとはこの時の俺は知る由もなかった。

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